我、プロとして

Vol.10 伊神幸泰 氏【後編】
株式会社セサミライフ代表取締役(1988年農獣医学部畜産学科〔現・生物資源科学部動物資源科学科〕卒)

卒業生
2021年03月24日

私の見据える未来には光があります

自身が病気になったことで「体に良く、人に喜ばれるもので身を立てたい」と考えていた伊神幸泰氏は、導かれるようにごまと出合った。ごまに魅せられた伊神氏は、ここからごま一筋の人生を歩むことになる。後編では会社設立の経緯、こだわりが詰まった商品の数々、コロナ禍における戦略などについて語ってもらった。

高山のジャパネットたかた

父の紹介で入った会社でごまと出合ったのが2000年のことだ。その会社で伊神氏は食肉会社時代と同じように営業職に就いたのだが、早い段階で独立を考えることになる。

「社長とはたくさん衝突しました。簡単に言えば反りが合わなかったのです。それでも今後はごまで勝負すると決めていたので、独立することにしたのです」

1年後、会社を立ち上げ、ごま加工品の製造販売をスタートさせる。卸売の他に、長浜黒壁スクエア、各種イベント会場などで対面販売を積極的に行った。

創業当初を振り返る伊神氏

創業当初を振り返る伊神氏

「その頃は『黒胡麻飴』が主力商品でした。この飴には400粒分の黒胡麻が入っています。この商品を滋賀県長浜市にある黒壁ガラス館の軒先をお借りして販売させていただきました。妻や義父にも協力してもらい、必死で売りましたね」

創業当時からこだわっていたのは体に良く、おいしい味の商品開発だ。伊神氏は毎日ごまを食し、試行錯誤を繰り返した。他にも話術を磨くため、お笑い芸人のDVDなどを何度も鑑賞した。

その努力は実を結び、路上での1日の売り上げが大卒初任給くらいに達したこともあった。

「あの頃より話術も磨かれ、今では『高山や長浜のジャパネットたかた』と言わることもあります(笑)。また、変わらずごまを毎日食べています。会社も私もここまで成長できたのは長浜の街のみなさんのおかげです」

“体”によくて“味”にこだわった商品

セサミライフのごま商品はご飯にかける、パンに塗る、おかずに使用する、牛乳やお湯に溶く、お菓子にするという5本柱で作られており、店舗だけでなく、ごまの藏のホームページで購入することが可能だ。

「弊社の胡麻油は手詰めにこだわり、他のどこにもない香りを追求しました。ペーストは他の会社が作っていない完全オリジナルで、トーストなどに塗っておいしく食べることができます。また『大麦入りごま梅茶』などの粉末もお客様から高い評価をいただいています」

搾れるほどの油を含むごまは、ペースト加工すると時間経過とともに分離してしまうのだが、この問題をクリアし、無添加で長期保存可能なのがセサミライフの技術だ。また粉末にでも油があることでパウダーにするのは難しいのだが、セサミライフ独自の製法がそれを可能にした。

「ごまの粉末では『とろけるきな粉』という商品があります。きな粉を食べると歯にくっつくことが、この商品はそれがなく、くちどけの良さを感じていただけます。またその粉末を使用した『ごまきな粉豆』というお菓子は、落花生を粉末化した黒ごまときな粉で包んだことで、外はしっとり、中はサクサクというおもしろい食感が楽しめます」

読者の皆さんもごまのおいしさを徹底的に追求した数々の商品に、きっと驚かされることだろう。

光に向かって歩み続ける

新型コロナウイルスはセサミライフに大打撃を与えた。ごまの蔵はいずれも観光地に店を構えているのだが、客足は途絶え、高山店の売り上げは9割減になる月もあったそうだ。それでも伊神氏はあきらめずに歩み続ける。なぜなら彼の見据える未来には光があるからだ。

「長嶋茂雄さんもデビュー戦で4打席4三振をしましたし、監督初年度は最下位という成績でした。それでもあきらめずに努力したことで、選手としても監督としても素晴らしい功績を残しています。私は長嶋さんからあきらめずに努力し続けることの大切さを学んだのです」

現在、伊神氏に見えている光は二つある。一つはオンライン販売で、昨年リニューアルされたホームページは順調にアクセス数を伸ばし、売り上げに大きく貢献し始めている。そしてもう一つの光は刺身用ごまという新商品の開発だ。刺身市場の席巻を目論んでいます。

「船盛りを食べていると、醤油だけでは飽きてしまうと感じることがありました。そこで味にアクセントをつけるためにある加工をしたごまで刺身を食べてみたのです。これがとてもおいしくて、さらに工夫して商品化することに決めました。商品名は未定ですが、今年の4月には販売開始できるように進めています」

敬愛する長嶋茂雄氏がジャイアンツ一筋だったように、ごま一筋で奮闘する。実直に明るい笑顔で話す彼の姿が長嶋氏と重なる部分があるように感じるのは筆者だけではないだろう。

コロナに打ち勝ち、セサミライフがより一層の発展を遂げることを願ってやまない。

<プロフィール>
伊神幸泰(いがみ・ゆきやす)

1965年12月9日生まれ。1988年農獣医学部畜産学科(現・生物資源科学部動物資源科学科)卒。岐阜県出身。代々各務原市で食品ビジネスに従事する家系に生まれる。父の跡を継ぐための進路として本学へ進み、養豚の研究を行う。
卒業後は食肉会社に11年間勤務。その間に体調を崩し、「体に良く、人に喜ばれるもので身を立てたい」と考え、2003年に株式会社セサミライフを設立。「“体”によくて“味”にこだわる」をモットーに独自の技術で加工したごま製品が人気を博し、ごま専門店「ごまの藏」を岐阜県に2店舗、滋賀県に1店舗展開し、高い評価を受けている。