我、プロとして

Vol.1 北海道コンサドーレ札幌
金子拓郎(2020年法学部政治経済学科卒)

卒業生
2020年08月17日

Jリーグ発足から27年。今やサッカーは国民的スポーツであり、特に日本代表の人気は高く、A代表のみならず各年代別の代表にも注目が集まるようになった。その中でもU-23日本代表はオリンピックに出場する年代としてA代表と並ぶほどの人気を誇る。そしてU23の代表候補として今注目を集めているのが金子拓郎(北海道コンサドーレ札幌)だ。森保一、ペトロヴィッチ、小野伸二など、サッカー界の大物から期待される金子に迫った。

努力が実を結んだリーグ戦初ゴール

7月26日。対横浜Fマリノス戦。

試合終了が迫る89分、札幌ドームにいる3,305人のサポーターから歓声が上がり、その後会場はすぐに温かい拍手に包まれた。彼らが称えていたのは期待のルーキー・金子拓郎のゴールで、勝利を決定づける貴重な追加点だった。

ゴールシーンを振り返ろう。

コンサドーレ陣内から上がったフライパスを相手DFがクリアミス。マリノスは最終ラインを高く設定しており、ボールを拾ったコンサドーレMF荒野拓馬の前には広大なスペースがあった。ドリブルでゴール前まで持ち込むがDF1人とGKが立ちはだかり、荒野は後方に視線を送る。そこにいたのが金子だ。

「目が合ったので拓馬くんが作ってくれたスペースに信じて走ると絶妙なヒールパスが足元に来ました。GKが飛び出していたので流し込むだけでしたが、蹴る瞬間は緊張からか、時間がゆっくりと感じられました」

コンサドーレ札幌ではセンターフォワードの下に位置する「シャドー」を主に務め、同じポジションには日本代表の鈴木武蔵、タイの英雄・チャナティップなどがおり、レギュラー争いは熾烈を極める。それでもコロナウイルスの影響で中断されていたリーグ戦再開後は全試合に途中出場(8月2日現在)するなど、得意のドリブルを武器に着実に評価を伸ばしている。自身が課題として挙げるのは、動き出しやポジショニング、つまりはオフザボールの動きだ。

「ペトロヴィッチ監督からも1対1の強さやボールを運ぶ力というのは高く評価してもらっています。自分のストロングポイントを発揮するためには、その前の動き出しやポジショニングが重要になるので、今はその点を一番意識しています」

先述したゴールの後、名将ペトロヴィッチに「ラッキーでした」と伝えると、指揮官は「そこに走っていることが重要なんだ。初ゴールおめでとう」と微笑んだという。不断の努力が生んだ、記念すべきリーグ戦初ゴールだった。

人生のターニングポイント

リモート取材で大学時代を振り返る金子選手

リモート取材で大学時代を振り返る金子選手

金子が本学に入学したのは2016年のことだ。

「大学では監督やコーチから自主性を求められました。自分に何が足りないか、何をすべきかを考えて自主練を積み重ねたことで、大きく成長できました。この点はプロになっても大切なことですし、日大という素晴らしい環境で学ぶことができたことが財産になっています」

大学3年時の山梨学院大との関東大学リーグ昇格決定戦は忘れることのできない一戦だ。前年に東京都リーグに降格した本学サッカー部。この年の最大の目標は関東2部リーグ復帰で、そのためにチーム一丸となって戦い続け、この大一番に臨んだ。

試合は延長戦に突入。延長前半2分、山梨学院大にゴールを許し、1点を追いかける苦しい展開で延長後半アディショナルタイムを迎える。この時間帯に金子は果敢なドリブル突破を仕掛け、ペナルティエリア前でFKを獲得。自らボールをセットし、左足から繰り出されたシュートは見事にネットを揺らした。勢いに乗った本学サッカー部はPK戦を制し、1年での返り咲きを果たしたのだ。

「決定戦に勝つために1年間頑張っていたので、PKを制した瞬間はシビレました。大学時代は降格や昇格、ケガもしましたが、いろいろな経験を積むことができました。コンサドーレ入団も日大に入っていなければなかったかもしれません」

入団のきっかけは大学3年の夏の釧路合宿だ。合宿最後にコンサドーレ札幌との練習試合を行い、クラブの目にとまった。金子はそのままトップチームに帯同し、練習参加。2019年2月の熊本合宿にも参加し、パフォーマンスとその人柄が認められると、同年3月に入団が内定した。

「サッカーを始めたときからプロになることを目標にしていたのでうれしかったですね。釧路合宿は僕の人生のターニングポイントになりました」

東京オリンピック、そして世界へはばたくために

世界を見据え、着実に歩みを進める金子選手

世界を見据え、着実に歩みを進める金子選手

金子は7月30日に23歳の誕生日を迎えた。23歳はオリンピックの男子サッカーに参加可能な最高齢(オーバーエイジを除く)で、来夏に延期された東京オリンピックは24歳以下の選手たちで構成される。そんななか、U23日本代表の森保一監督が金子の名を挙げたことが注目されている。コロナウイルスの影響でオリンピックが1年延期になったこと、Jリーグの交代枠が5人に増えたことが金子にとっては追い風となったのだろう。

「少なからずチャンスは増えましたし、東京オリンピックは出場しなければならない大会だと考えていますが、僕はこれまでU23に選出されてきた選手たちのようには活躍ができていません。ですから変に意識せずに、まずはコンサドーレで出場機会を増やし、アピールしなければいけないと思っています」

サッカー選手にとって23歳という年齢が若くはないということを金子は自覚している。例えば東京オリンピック代表候補・久保建英(レアルマドリード所属)は19歳で世界最高峰のスペインリーグを主戦場にするなど、近年では若い日本人選手の世界への台頭が目覚ましい。それでも金子に焦りの色は見えない。

「5年後、10年後には海外のリーグや日本代表で活躍したいと考えていますが、そのためにはまずはコンサドーレでスタメンを勝ち取らなければいけません。1試合1試合チームの勝利のために貢献し、それがJリーグ制覇、ACL出場など、世界への扉を開くチャンスにつながると考えています」

コロナウイルスの影響でサッカーができることは当たり前ではないということを金子は思い知らされた。それだけにサポーターの応援するピッチに立ったとき、この上ない喜びを感じたという。

彼のプレーが札幌サポーターのみならず、世界中のサッカーファンに幸福をもたらすことを願ってやまない。

<プロフィール>
金子拓郎(かねこ・たくろう)

1997年7月30日生まれ。2020年法学部政治経済学科卒。埼玉県出身。兄の影響で7歳でサッカーを始める。クマガヤSC、前橋育英高を経て2016年に本学サッカー部へ。スピード・技術・パワーを兼ね備えたレフティーとして活躍。第30回ユニバーシアード・ナポリ大会では日本代表の優勝に大きく貢献した。
20年、北海道コンサドーレ札幌に入団。元日本代表の小野伸二も期待を寄せており、ルーキーながら着実に出場機会を増やしている。

卒業生現役Jリーガー

金子拓郎(法学部卒・北海道コンサドーレ札幌)

舘幸希(文理学部卒・湘南ベルマーレ)

岡本享也(文理学部卒・FC岐阜)

杉本拓也(法学部卒・藤枝MYFC)

谷俊勲(文理学部・YSCC横浜)

吉永大志(経済学部卒・福島ユナイテッド)