【教育の現場から】
教員養成の伝統を継承、即戦力作りに意識改革

文理学部「教職センター」

学び・教育
2020年05月21日

前身である高等師範科の伝統を受け継いで、教職センターが教員養成の推進役として生まれ変わったのは2年前。初代センター長だった紅野謙介学部長から、滝澤雅彦教授がその職責を受け継いで、1年弱が経過した。学部一体となっての意識改革で、即戦力となる人材育成を目指す意気込みを軸に、その活動にスポットをあてた。

夏の教員採用試験が一段落した現在も、来年度の試験突破を目指す論作文試験の指導を求めて「教職センター」を訪れる学生は後を絶たない。文章表現力や論理力を評価する試験だが、さらに教職への考え方から意欲まで測られるとあって、対応に時間がかかる。早めの準備こそが欠かせないのだ。

応対するのは公立の元中学校長だったベテラン指導員5人で、出題のテーマの傾向や特徴が各自治体でまちまちだ。それぞれの志望先に沿って約30分から1時間、時間をタップリとっての丁寧な相談が個別に続く。

問題点を指摘されて書き直すという繰り返しが、週に1度のペースで続く。

高校教員で私立大学1位。日々の相談に対策講座も

明治34(1901)年に設立された高等師範科を前身とする同学部は、高師以来の伝統を受け継いで教員への就職に実力を発揮している。

東洋経済新報社が発表する昨年の教員就業者数ランキングで、本学は国立の教育大学を加えても8位。教育情報サイトによると中学校で4位、高校ではトップを誇っている。「教職センター」もそれを支えていると言っていい。

教職に関する日々の相談業務に加えて、各種の対策講座や教職モデル授業、教職インターンシップに教職ボランティアの紹介などの活動を展開。毎日の相談業務は、論作文や出願書類などの添削に、個人面接・集団面接の面倒もみる。

3年生を対象とする教員採用試験の自治体別対策講座は、例年12月のガイダンスに続いて、筆記主体の一次試験対策に加えて二次試験も含めた対策講座を3月に開催。併せて予備校による学内講座も週2回、10月から翌年6月の試験直前まで用意されている。

こうして突破した一次試験合格者を対象に8月には二次試験のための対策講座。首都圏4都県と茨城県、さらにその政令指定都市と細分化して、個人面接や集団面接、模擬授業、場面指導などを実施。自治体ごとの事情に即して対策を伝授する。それぞれ2、3日間をかけて取り組む。

多彩な課外活動が推進力、モデル授業にインターンシップ

一方の現役教員によるモデル授業は、現場に立つ教員が学生を生徒に見立てて授業を行い、その後の質疑応答で普段の授業の組み立て方を知る。授業を作る側の視点に立った授業作りを学ぶ。年に1回の予定で、今年は道徳の授業がテーマだ。

教職インターンシップで、高校生相手に体育の指導の様子

教職インターンシップで、高校生相手に体育の指導

また教職インターンシップでは、都内にある高校で就業体験に8年前から取り組んできた。一人ひとりの生徒に応じたきめ細かな指導の要請が高まっている事情を背景に、教育現場での体験から学ぼうというのが主な趣旨。こちらは同学部出身の教員と学生が参加する年4回の「教育実践力研究会」と連動しており、不登校や発達障害のある生徒への対応などの具体的事例に即して、理解を深めている。

さらに教職センターは、地元の東京都世田谷区や近隣の小中学校、高校を中心に教職ボランティアを紹介する窓口にもなっている。特別な配慮を必要とする児童生徒のサポートに、放課後補習や移動教室の補助、部活の外部指導員としての引き合いは多く、2、3年生を中心に100人近い学生が子どもたちと触れ合っている。それは現場の教員に触発されて、教師を目指す学生の大きな励みにもなっている。

これらに加えて、独自の教職志望学生支援を行なっている学科もある。例えば数学科の場合──。

面接練習には最も力が入る(二次試験対策講座で)

面接練習には最も力が入る(二次試験対策講座で)

10月28日に行われた数学科教職モデル授業の講師役は5年前に数学科を卒業した現役の公立高校教員で、テーマは数学Ⅰの2次不等式。実際にやってきた50分授業を学生の前で再現したが、とりわけ授業を進める上での学習指導案作りが、採用試験の課題になっていることなどで関心を集めた。

その後の40分の質疑応答では、2年生主体の参加者35人の興味は教員生活に集中。「給料は?」「休みは?」などの質問が飛び交った。数学科ではこれを卒業生である現役教員を招いての教職セミナー、併設校である日本大学櫻丘高等学校を含む近隣中高での授業観察、連携協力校における教職実地研修・教職ボランティアとつなぐ、教職学生支援プロジェクトの課外活動と位置づけている。

教職支援と教務リンク、歴史と実績に期待の底力

模擬授業は二次試験対策講座でも

模擬授業は二次試験対策講座でも

教職センターの前身である「教職支援センター」が開設されたのは、6年前の平成25(2013)年11月。教員免許を取得するのはもちろんだが、採用試験を突破する実力に、現場で通用する実践力を高めるのが目的だった。

それを「教職センター」に名称変更したのは昨年度。

学部内には三つの教職関係の委員会があるが、採用試験は旧支援センターが担当し、教員免許状取得の必修科目である教育実習は教務課と管轄が分かれていた。これを一本化して、組織としての教員養成を目指すという学部の方針があり、3委員会を束ねる横断的な組織がその上に設けられた。

滝澤教授が文理学部に着任したのは、新センターが誕生したのと同じ昨年4月。東京都八王子市立松木中学校長などを歴任した後に、公益社団法人「日本教育会」の専務理事等を5年間務めたころで、実績を請われての招請だった。

意識改革を強調する滝澤雅彦センター長

意識改革を強調する滝澤雅彦センター長

「校長時代に痛感したことは教育現場の多様化・複雑化。一方で団塊世代の教員の大量退職から、新人を悠長に育てる余裕がなく、現在の教員は最初から即戦力が求められている」

そこに従来の教員養成とのズレがある。子どもや学生の気質も変わってきていれば、教員採用の制度も変わる。社会環境の変化に対応して、人材を育てなければならないというのだ。

教育実習を例にとれば、送り出す側と受け入れ側双方の入念な事前指導に、終了後も両方の評価点検を通して学生本人に「気づき」を与えるなど、きめ細かな配慮が重要。そのためには、現場に精通していなければならない。一方の教職ボランティアも、現場の教員の忙しさにかまけて、同様の教育的視点に欠ければ、単なる便利屋に終わりかねないと懸念する。

中高校の教員採用試験が依然として厳しいのは事実だ。「1年生の教員志望900人が4年間で半減しており、その理由を来年度から追跡調査するが、教員養成の歴史と実績は当学部の優位性であることに間違いはない。文理学部の底力からすれば、採用者をまだまだ増やせる」

紅野学部長が新センター長を兼務した学部次長の当時、「自分で自分の殻を壊せるような柔らかい大人でないと、感覚や感情を共にするような現象は起きないのだと思う」と決意を寄せた。学部一体となっての意識変革が、いま動き出している。