全学共通教育科目教養基盤科目
「日本を考える」

実践!アクティブラーニング

学び・教育
2021年03月15日

本学の特色ある授業や実習、実験などを紹介。
今回は全学共通の教養基盤科目として新たにスタートした「日本を考える」を取り上げる。
コロナ禍での船出となったが、一部の学部では意欲的に取り組まれており、受講している学生たちの反応も上々だ。

教育憲章に掲げた目標の実現へ、学びの基礎を築く

2016(平成28)年12月、本学は「自主創造」の理念の下、育成していくべき人間像を示した日本大学教育憲章を制定した。憲章では学生が身に付けるべき「日本大学マインド」とともに、「自ら学ぶ」「自ら考える」「自ら道をひらく」の三つの構成要素とこれを可能にする八つの能力の修得を教育目標とした。

目指すところは「日本一教育力のある大学」であるが、この実現に向けて重要な役割を果たすのが全学共通教育で、既に初年次教育科目「自主創造の基礎1・2」が実施され、学ぶ姿勢の確立やコミュニケーション方法の修得といったベーシックな授業内容で一定の成果を上げてきた。

「日本を考える」の位置付けの図

「日本を考える」の位置付け

今回新たに導入された「日本を考える」はこれに続く教養基盤科目で、「自主創造の基礎」で学んだことの実践として、日本の歴史・文化や社会問題への理解を深め、「日本大学マインド」にもうたった「日本の特質を理解し伝える力」の獲得を目指していこうというものだ。先行する「自主創造の基礎」と連動するとともに、各学部の教養科目、専門教育科目に橋渡しできるような学びの基礎を築くという位置付けになる。

実施に当たっては、学長直属の教学戦略委員会内に発足した「教育支援プログラム検討ワーキンググループ」で検討が重ねられた。そこで、本学の「教育憲章」にも照らし、グローバル化が進展する中でまずは日本のことに関心を持ち、しっかりと学ぶことが不可欠であるとの結論から「日本を考える」のガイドラインが作成された。

知識修得ではなく「日本」への関心喚起が狙い

生物資源科学部 須江隆教授

生物資源科学部 須江隆教授

実際の科目設計等を担当した本学学務委員会「全学共通教育科目検討ワーキンググループ」でリーダーを務める生物資源科学部の須江隆教授によれば、同科目は全15回で構成され、取り上げるテーマは日本の近代化、日本文化の特徴、労働と格差、日本が直面する地球環境問題、家族の在り方、最先端から考える未来、と多岐にわたる。

授業は2回分を1ユニットとして同じテーマを扱い、グループ内での討論とグループ間の討論を中心に展開される。学生は各テーマに沿って制作された動画を事前に視聴し、動画が投げ掛けるさまざまな現実に向き合い、その課題や解決策について考えをまとめた上で授業に参加する。授業では、グループでのディスカッションを通じて多様な意見や価値観に触れ、課題への考察を深めていくこととなる。

本科目は全学共通であるため、さまざまな専門分野に携わる教員が担当することとなるが、「日本の歴史や文化、社会問題等が専門分野でない教員でも対応できるよう授業進行要領を作成しています。そもそも本科目は日本の歴史や文化についての知識を身に付けることが目的ではなく、日本を巡るさまざまな現実、課題にいかに関心を持ってもらうかがポイントとなります。授業で多様な考え方、感じ方に接して刺激を受け、教養科目や専門教育科目の学びへと生かしてもらえればいいと考えています」(須江教授)

本部制作の動画を各自授業前に視聴するイメージ

本部制作の動画を各自授業前に視聴し自分の考えをまとめておく

なお本科目は、学生の自発的な学びを通して、「日本大学教育憲章ルーブリック」における八つの能力の初年領域への到達ができるように設計されている。成績評価については公平性を担保するため、本科目共通の評価ルーブリックを用いて、学生の学修成果を客観的に評価する。

「日本を考える」を本年度から開講したのは、芸術学部・理工学部・松戸歯学部であり、他学部も学部のカリキュラム改正に合わせて順次開講予定である。本年度は新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、理工学部と芸術学部はオンラインのみでの実施となった。

オリジナリティーあふれる松戸歯学部の取り組み

松戸歯学部では、教室内での感染対策を徹底した上で対面とオンラインを併用したハイブリッド授業を行っている。

松戸歯学部 小見山道教授(学務担当)の写真

松戸歯学部 小見山道教授(学務担当)

「本学部のキャンパスは郊外型で教室も広く、コロナ禍でもソーシャルディスタンスを十分にとることができる環境を生かし、早期に対面授業に踏み切ることができました。『日本を考える』もスタート時からハイブリッドで授業を実施しています」(学務担当・小見山道教授)

卒業生は将来、医療チームとして働くことも想定されることから、グループワークでの学びを従来から重視してきた。一方、医療従事者としてグローバル社会にどのように貢献できるか、といった視点も必要となってくる。こうした点を踏まえ、「日本を考える」では松戸歯学部ならではの独自性を生かした授業が展開されることとなった。

外国人講師の英語による授業

外国人講師の英語によるコメントも

同学部では本年度より1年次から4年次まで英語教育を行うカリキュラムを導入したことから、本科目でも『ジャパンタイムズで日本を読む』(朝日出版社)を教科書に指定し、さらに外国人講師に授業に参加してもらい、学生たちと課題について英語でコミュニケーションを図る試みを取り入れた。また、まずは世界を知ることが必要との判断から、「日本を考える」に先行する形で松戸歯学部独自の科目「世界を考える」を今年度の前期に実施した。

松戸歯学部 渡邊徳明専任講師(科目責任者)

松戸歯学部 渡邊徳明専任講師(科目責任者)

科目責任者の渡邊徳明専任講師によると、松戸歯学部の1学年の学生数は120人で、これをA、Bの2クラスに分け、さらに30人ずつ二つの教室に分かれて、4人の教員が各教室を担当する形で授業を行っている。

「ガイダンスやまとめの回を除いた12回の授業で六つのテーマが扱われ、前半は各テーマ共通の動画を見てのディスカッションとなりますが、後半は授業を行う側がプラスアルファの味付けをする余地が残されています。本学部では独自のテキストや新聞記事などを活用し、ネイティブの英語講師が授業に参加することで、学生たちに合ったオリジナリティーのある授業を実施できていると思います」(渡邊専任講師)

自分の立ち位置を自覚し、生き方を考えるきっかけに

課題の解決策を話し合い、模造紙に記入する模様

課題の解決策を話し合い、模造紙に記入する

「日本の家族の在り方」をテーマにした後半の回では、同性婚など価値観の多様化、経済格差、少子化、高齢化などの問題を取り上げ、各グループで活発な議論が交わされた。

「学生の中には課題を自分の問題として捉えきれず、『少子化と言われても今の自分にはピンとこない』といった発言をする者もいましたが、実体験の少ない学生でも社会のさまざまなネットワークに関わって生きているので、何らかの接点を自分なりに見つけて考えてみるよう促しています」(同)

日本をテーマにしているだけに、特定の思想や価値観を押し付ける授業にならないだろうかと心配する教員もいるとのことだが、「想像していた以上にニュートラルで中立度の高い授業内容です。文化論や社会論にコミットするテーマが多いですが、思想面で偏りが生じないよう工夫されています。例えば第2回の動画教材では、幕末に日本が鎖国から脱し開国に踏み切ったことについて、これを肯定的に評価する見方だけでなく批判的な考え方も併せて紹介されているのです。学生にはできるだけフラットな情報を提示し、自由に考え意見を交わせるよう配慮されています」(同)

授業終了時に提出する「自己学修シート」

授業終了時に提出する「自己学修シート」は後日教員が取りまとめ、Zoom 動画でコメントをフィードバックしている

受講した学生からは「人によってものの見方や考え方が違うことが分かり、視野が広がったと思う」「『少子化』と『多様性』のように、一見無関係なものを結び付けて考えることの大切さが分かった」「この授業がなければきちんと考えることがなかったテーマが多かった」といった感想が寄せられている。

「日本をテーマにグループワークを重ね、さまざまな意見や考え方に接することは、自分はどうあるべきかを考え、自分の立ち位置を自覚することにつながります。このことは学生にとってその後の学びや、さらには将来の仕事をどう選ぶか、どう生きていくかについて真剣に考えるきっかけにもなるはずです」(須江教授)