スポーツ日大の連携が
東京オリンピックの成果につながった

スポーツ科学部対談【前編】小山裕三学部長×上野広治学部次長

学び・教育
2021年10月12日

8月に閉幕を迎えた、東京オリンピック。本学からは卒業生を含めて選手は28人、コーチ、スタッフとしても26人がオリンピックという世界最高峰の舞台に臨んだ。スポーツ科学部からは、現役6人、卒業生5人が出場し、柔道の素根輝選手(1年)が女子78kg超級で金メダルを獲得。水泳では本多灯選手(2年)が200mバタフライで銀メダルに輝いた。陸上では橋岡優輝選手(2020年度卒)が走幅跳で37年ぶりの6位入賞を果たした。その活躍の裏には選手たちの努力と同じく、スポーツ科学部と競技スポーツ部との連携、そして人間的な成長を促す教育方針が、選手たちを支えたことは間違いない。そこで、東京オリンピックでは解説をされたスポーツ科学部長の小山裕三教授と、東京オリンピック日本選手団の本部役員を務めた、スポーツ科学部次長の上野広治教授にお話を伺った。

本学での学びが競技力向上に直結した

——本学にスポーツ科学部が設立されて、はじめてのオリンピックが終わりました。スポーツ科学部からも多くの選手が出場し、スタッフも多く輩出しました。あらためて、東京オリンピックを振り返ってみていただけますか。

小山学部長

本学が一致団結して臨んだからこその東京オリンピックの成果だと小山学部長

小山裕三学部長(以下小山学部長) まずは、東京オリンピックが開催されたということが、非常に良かったなと思います。設立時に、スポーツ科学部から選手を10人輩出する、ということを目標に掲げて取り組んできました。それが結果として、卒業生を含めて11人が出場することになり、目標を超える選手が世界の舞台で頑張ってくれました。

ただ、これはスポーツ科学部が良く頑張ったということではなく、本学全体が一致団結し、先生たちも一生懸命頑張ってくれた結果です。そして、水泳部、陸上競技部など34の競技部から成る競技スポーツ部なくしては今回の結果は得られなかったと思います。

スポーツ科学部もこれから先、オリンピックを目指したり、各競技の世界大会を目指していくに当たって、競技スポーツ部と一体となって取り組んでいきたいと考えています。

上野次長

上野次長は競技間を越えた交流が相乗効果を生んだと話す

上野広治次長(以下上野次長) 学部長からお話があったように、11人の選手が東京オリンピックに出場した、というのは、スポーツ科学部が競技スポーツ部と一体となって達成できた、非常に大きな成果であったと思います。ここからまた2024年に向けて、今回と同様にスポーツ科学部と競技スポーツ部が一体となって、スポーツ日大の柱となるような取り組みを進めていきたいと思います。

特に、スポーツ科学部に通う学生たちは、競技という枠組みを越えた学びを得ることができています。今はオンラインですが、大学に行き、授業を受けること自体が自分の競技力につながるということが、学生たちのなかにも実感としてあるのだと思います。さらにスポーツ科学部には様々な競技で活躍する学生が集まっていますから、競技間を越えた交流も盛んです。そうやって学部全体で取り組んできたことがひとつの成果として現れたのだと感じています。

——本学全体で一体となって連携したことで、選手たちがオリンピックという舞台で活躍できる土台を作りあげられたのですね。

小山学部長 スポーツ科学部の先生方と、競技スポーツ部の監督、コーチの方々とが連携し、意思疎通を大事にしてくださいました。また、間に職員の方々も入って様々な調整をしてくださったことで、連携もうまくいきました。選手たちが精一杯、オリンピックという舞台で全力が出せたのも、先生方と現場の指導者の方々の連携がうまくいっていたからだと思うのです。

たとえば授業ひとつとっても、合宿とか試合で、思い切ってやってきなさいと送り出す。もしそれで授業に出られなかったとしても、精一杯やってきなさい、と送り出すわけです。その代わり、終わったらレポートや課題、また補講なども頑張りなさいと伝える。今はオンラインの授業も多くなりましたから、どこにいても授業を受けられるので出席率も良いと伺っています。やはりオリンピックに出る選手というのは、競技だけではなく、何にでも一生懸命取り組んでいます。

選手、指導者、教授が一体となり
連携したからこそ全力で取り組めた

——オンライン授業という言葉がありましたが、対面での授業とオンラインでの授業との違いはどういうところにあるのでしょうか。

監督やコーチも各学部の先生方と話し合い、お互いに理解を深めることが大切と話す小山学部長

監督やコーチも各学部の先生方と話し合い、お互いに理解を深めることが大切

上野次長 私の授業もオンラインでのグループワークを行うことがありますが、出席率も良いですし、ディスカッションもとても盛んです。対面では恥ずかしくて意見が出ないような場面は良く見られますけど、オンラインだとそういうこともなく、学生も思いきって発表できる、というメリットもあると感じています。

小山学部長 それには、先生たちの理解も必要です。大事なのは、話し合いができるということ。監督やコーチと先生方がよく連携をとり、話し合えたからこそ、スポーツ科学部の学生たちは、学業をおろそかにすることなく競技にも取り組み、結果を出してきました。今後、スポーツ科学部だけではなく、法・文理・経済・商学部をはじめ、理系の学部にも多くの競技スポーツ部の学生たちがいますから、各学部の先生方に活動を理解していただく必要がある。そのためには、まず話し合いをして、お互いの理解を深めることが大事だと思うのです。

スポーツ科学部の先生方も、最初から競技スポーツ部のすべてを理解していたかというと、そうではありません。現場の監督、コーチたちと話し合いをしていくなかで、プラスの方向で先生方が理解を示してくださいました。

ですから、これからは競技スポーツ部の監督やコーチは、どんどん各学部の先生方に遠慮なく相談したり話し合いをしたりしたほうが良いのではないでしょうか。そうすれば、単にオリンピックなどに出場する選手たちだけではなく、本学に入学して競技に取り組む学生たちのためにもなるのではないでしょうか。

上野次長 我々は教える側ですが、学生たちのディスカッションや授業での発表を聞いていると、私たちも指導に生かせるな、と得られるものも非常に多い。授業をして学生たちと接することが、私たちにとっても楽しみな状況といいますか、教員と学生がお互いに刺激し合っているので、非常にプラスな状況ができあがっています。

小山学部長 負けてられませんからね、学生には。競技性が違うなかで刺激をし合い、そのような環境でお互いに様々なものを得られるというのも事実です。そういう意味でも、スポーツ科学部ができたことは、本学にとってプラスになってもらいたいと思っています。

本学全体としてもプラスにするには、スポーツ科学部として結果を出さなければなりません。それは競技の成果という意味だけではなく、学生が社会に出てどう活躍するか。実はこれが最も大事なことです。あくまでも大学というのは教育の場ですから。4年間で授業や自分が取り組んでいる競技を通して、何を学び取れるのか。そして何を指導できるのか。この部分が、これから先スポーツ科学部が伸びていく、本学にとってのプラス面として評価されていくために重要になってくるのでないでしょうか。

スポーツの世界で結果を残す選手は
人間的にも成長している

——そういう意味では、スポーツ科学部からメダリストも誕生しました。今回東京オリンピックでの本学学生たちの活躍をご覧になって、どう感じられましたか。

小山学部長 世界で活躍する選手たちというのは、やはり人間的にも非常に成長していると感じます。様々な場面でお手本となれるような選手に育っていますよね。

人間的な成長こそが競技力の向上にもつながっていくと話す上野次長

人間的な成長こそが競技力の向上にもつながっていく

上野次長 そうですね、やはりある程度人間的にも成長していかないと、競技の面でも結果に結びつかないというのは見えてきていると思います。1200人以上在籍するスポーツ科学部の学生のなかに、世界で活躍する選手たちやメダリストがたくさんいるわけです。そういう選手たちがきちんと授業に出て、課題やレポートもしっかりこなしている姿は、周りの学生たちにとても良い影響を与えてくれています。スポーツ科学部は、4年間で人間的に成長できる良い環境であると思います。


>柔道女子78キログラム超級 素根輝 選手(スポーツ科学部競技スポーツ学科1年)のインタビュー記事


小山学部長 メダリストだから特別ではないんですよ。たとえば水泳の池江璃花子選手や本多灯選手。柔道の素根輝選手も特別ではなく、同じ日大生であり、同じスポーツ科学部生。競技で結果を残しているから特別ということは一切ない。特別扱いされない、ということは、きっとその選手たちにとっても気持ちが楽だと思うのです。


>水泳部・競泳 本多 灯 選手(スポーツ科学部2年)のインタビュー記事

 

上野次長 そうですね。本人たちも世間ではメダリストとして見られている、という意識はあると思います。でも、キャンパスにきたらそんなことを気にせずに過ごしていられる。気が許せる仲間がいる、というのは楽しいと思います。

次回は、東京オリンピックで活躍した選手たちがなぜ結果を残せたのか。人としての本質やこれからスポーツ科学部が目指す教育の柱についてのお話をお届けします。

<小山裕三教授プロフィール>
1956年生まれ。本学法学部管理行政学科(現・公共政策学科)卒業。博士(体育科学)。現役時代は陸上競技の投てき選手として活躍し、砲丸投で室内日本記録を保持していた。指導者としては、日本大学陸上競技部前監督として砲丸投げを中心に多くの投てき種目の日本選手権優勝者を育成。2016年よりスポーツ科学部長。

<上野広治教授プロフィール>
1959年生まれ。本学文理学部体育学科卒業。シドニー、アテネオリンピックは競泳日本代表ヘッドコーチ。北京、ロンドンオリンピックは日本代表監督。リオ、東京オリンピックはJOC本部役員を務めた。筑波大学大学院人間科学総合研究科を修了。日本大学スポーツ科学部准教授を経て、2020年から教授。日本大学水泳部監督。2021年よりスポーツ科学部次長。