【研究者紹介】
スマホを捨てよ、街へ出よう

通信教育部 雨宮 史卓 教授

研究
2019年12月25日

インパクトある広告を求めて、新たな社会装置を支えるメリットも

雨宮 史卓 教授

通信教育部 雨宮 史卓 教授

目の前をメルセデスベンツの真っ赤なクーペ、450SLCが通り過ぎる。運転する男性がにっこり笑い、手を振った。あまりのかっこよさに衝撃を受けた。4、5歳の時だった。「あんな人に『これ買いな』と言われたら何でも買うんだろうなと思いましたよ」。

広告塔の存在、人の価値観を変えるほどのインパクト、万人を惹きつける何か。幼な心にそれらが脳裏に鮮明に焼き付いた。広告に目覚めた一瞬だった。

累積的効果

通信教育部は通信でありながら日本で唯一、独立キャンパスを持つ。広告論の昼間スクーリング授業は人気で、今年は席が足りず抽選になった。

講義のテーマは広告戦略とブランド構築。「不況になると企業は3Kカット、つまり交通費、交際費、広告費を削ろうとするが、広告には累積的効果があるので企業はそれを一般的な経費とはとらえず、投資として考えるべきだ、との観点に立ちます。ブランドは名前だけで集客力が備わっており、企業が戦略をどう構築していくかを考えていきます」

共感性

広告を考えるうえで興味深い話があるという。米マンハッタンのホームレスがお金を恵んでもらいたくてプラカードに「私は盲目です」と書いた。しかし、通行人は素通り。それを見ていた広告マンが、そこに「春なのに」を付け加えた。多くの人がかわいそうと思ってお金を投げ入れたという。

「ただの告知ではダメ。『春なのに』を加えることによって『共感性』を得た。広告というのは説得力を持たせるために、コンセプトの中に広告主や消費者の立場にかかわらず共感性を持ちこまないといけない」

しかし現代はその共感性を得るのが難しくなっている。家族が一つのテレビを囲む時代ではなくなり、若者の気質も劇的に変わってきている。

「昔の大学生を中心とした多くの若者は、コンパでお酒を飲み、女性とデートするのに車やバイクに興味があった。ファミレスは夜の社交場。今はSNSの発達で出かける必要もない。草食系男子が増え、家にはいるがテレビは観ない」

広告にとって受難の時代にも映るが、決して悲観的ではない。

「確かに黒人、ジェンダー、酒・たばこ、ハラスメントなど規制が多くなって広告は受け手にとって刺激がないし、作り手にとっても難しい時代だ。しかし、テレビが課金されないのも広告があるから。SNSを無料でやり取りできるのも広告主が投資して新たな社会装置を支えているからです。広告を邪魔と思い排斥するのではなく、その役割を理解して楽しんでほしい」

三つの要素

スクーリングの様子

広告・マーケティング論の講義で

広告に踊らされることなく、冷静に見るポイントがあるという。
「メーカーの技術力が上がって商品の品質はなかなか見極めがつかない。だからクライアントは『何となく良さそう』という気分を盛り上げようとする」。

その要素は三つ。有名人などを使って安心や信頼感を醸成する「権威」。数量限定など、価値があることをうたう「希少性」。多くの人から信頼を得ているという「他人の行動」。

「この三つが入っていたら、気分を上げようとしているだけの可能性があるので、後悔しないように実際に見て納得して買った方がいい」

車と街巡り

趣味は幼い時に〝赤い衝撃〟を受けた「車」。サーブ、アルファ・ロメオ、メルセデスE320、BMW323iなどを乗り継いだ。愛車を駆って全国を巡る。

「駄菓子屋に入り、昔ながらの喫茶店でお茶を飲み、路地裏を徘徊する。地方にはその土地ならではの広告がある。この商品にはどんな広告を打てばいいんだろうと考える。学生にも家にこもるのではなく外に出てほしい。街の風景が変わればマーケティング戦略や広告も変わる。スマホやパソコンの中だけでは分からないインパクトがそこにはある」

通信教育部
雨宮 史卓(あめみや・ふみたか)教授

獨協大経済学部経営学科卒。
本学大学院商学研究科満期退学。平成16年同短期大学部商経学科(現ビジネス教養学科)助教授。准教授を経て21年教授。28年4月から現職。
日本郵政公社郵政総合研究所客員研究員など歴任。26年から日本消費経済学会理事。
主著に「ブランド・コミュニケーションと広告」。東京都出身。