【研究者紹介】
迅速診断検査の新原理発明

文理学部 桒原 正靖 教授

研究
2020年01月29日

高度な検査を身近で実施可能に、食品偽装検査など他分野での応用も探る

桒原 正靖 教授

文理学部 桒原 正靖 教授

バイオ分析化学は、生命の成り立ちやその仕組みを分子レベルで探る最先端の分野のひとつだ。

桒原教授はその中で、疾患の原因となる細菌やウイルスなどを簡便かつ迅速に測定できる検査法の原理および試薬を発明。SATIC法と命名した。パンデミックやがん、生活習慣病などのモニタリングへの応用も期待され、日本医療研究開発機構・革新的バイオ医薬品創出基盤技術開発事業から3年半の支援を経て、現在、製薬企業と実用化に向けた共同研究を進めている。

この方法によると、血液や尿、汗、涙など少量の体液を、試薬に混ぜた後に、検査液が光るかどうかで、疾患の有無を数分ほどで知ることができる。実用化されれば、これまでの簡易検査キットでは診断ができなかった疾患や、大病院や検査センターでしか診断できなかった疾患を、家庭や近くの診療所で、即座に検査ができるようになる。

研究を計測分析に応用

学部出身の教授だが、自身のカバーする範囲は化学を基礎として、材料工学や生命科学、医科学など、幅広い学問領域にわたる。大学院を修了しての学位が「博士(学術)」とあるのも、そのためだろう。大学院生時代は、遺伝情報をつかさどるDNAやRNAなどの核酸における化学構造の改変が、その機能にどのような効果をもたらすかを専門的に研究していたそうだ。生命に普遍の核酸の化学構造を、天然型から人工型に置き換えたら、何が起こるのか。それが発展したら、核酸医薬品を設計する指針にも応用され得る。

分析化学分野に注力するようになったのは、2004年に科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業・さきがけ研究(構造機能と計測分析領域)に採択されたのがきっかけ。自らの研究が計測分析にも応用できないかと、考えたわけだ。

近年に具体的な形へ

最近、バイオマーカーという疾患の目印となる物質が次々に発見されている。SATIC法はバイオマーカーを測定の標的とし、検査サンプル中にそれがあるときのみ、検出反応が進行し、最終的に、強い蛍光発光が生じる。それにより異常を知らせる。

具体的には、標的と、試薬に用いる環状DNA、さらに「プライマー」と呼ばれるDNA複製反応の起点となるDNA断片の三者が出合って、始めて開始複合体が形成され、その結果、ポリメラーゼによる複製反応が開始する。反応が進行すると、グアニン四重鎖という特殊な立体構造をもつDNA鎖が多数生成するという仕組みになっている。試薬中にはグアニン四重鎖を特別に光らせる蛍光物質が含まれている。そのため「検査薬が標的を捉えた」という分子レベルのイベントを、最終的に蛍光発光というシグナルに変換し検出できるのである。

学生と実験に取り組む桒原教授の様子

学生と実験に取り組む桒原教授

桒原教授によると、その仕組みが従来法とは全く異なるという。そのため、標的が無いのに誤って光ってしまう擬陽性反応を生じることが極めて低いという特長をもつ。

また、本法では、DNAやメッセンジャーRNAの他に、遺伝子の発現を調節する機能を備えるとして最近注目されるマイクロRNAも標的とすることができる。さらに、核酸アプタマーを検査薬に組み込むことで、標的対象も広げられ、代謝物などの低分子物質やタンパク質も検出可能だ。

本法の応用範囲は、ヘルスケアなどの医療分野に留まらない。例えば、予防措置として大量殺処分や大量伐採が問題となっている家畜や果樹の伝染病(豚コレラやてんぐ巣病など)の検診、加工食品への農薬混入や、食品偽装の検査、競技スポーツにおけるドーピング検査などにも使える可能性がある。

「実用化には5年ほどかかると見込まれるが、2、3年の内には具体的な形にしたい」と、意欲を燃やす桒原教授。この技術が、さまざまな社会問題解決の一手となることを目指している。

文理学部
桒原 正靖(くわはら・まさやす)教授

平成6年岡山大工学部卒。11年同大学院自然科学研究科博士課程修了。博士(学術)。
米バージニア大学での研究などを経て、21年群馬大大学院理工学府准教授。30年から本学文理学部教授。
日本化学会、米国化学会、日本分析化学会などに所属。広島県出身。47歳。