【研究者紹介】
アルミと木材で集大成の合成構造研究

生産工学部 小松 博教授

研究
2020年02月19日

省資源と耐震の相互拘束効果、学生目線で授業内容に整理

小松 博 教授

生産工学部 小松 博 教授

小松教授が7年前から研究の中心に据えたのは、アルミニウムと木材からなる合成構造柱の特性を探る実証実験だった。

合成構造柱は、10cm角で厚さ3mmのアルミニウムの角形管に、電動カンナで整えた杉角材を挿入したものである。

建築の構造材料として2002年から使用できるようになったアルミニウムは、鉱物から製錬する際こそ多くの熱量を使用するものの、いったん製品化された後は軽くて強靭。さびにくく、低い温度で溶けて加工しやすいと、良いことずくめのリサイクル優等生である。

一方の杉の木も、10cm角程度の間伐材なら、あまり利用されてこなかっただけに、材料は捨てるほどある。いずれも新たな建築材料として有望なわけだ。

しかも違う材料同士を組み合わせると、相互拘束効果でお互いに補強され、それぞれの性能を高めあう。

木材だけだったら、力を加えれば割り箸のように簡単に折れてしまうが、アルミニウムがそこを支える。厚さ3mmというペラペラのアルミニウムは、すぐにしなってしまうが、木材がこれを防いでくれる。

何より、天然材料の木材は一本一本の性格が異なる。建築材料としては、構造設計しようにも安全性を考慮して水準を低く抑えなければならないが、アルミニウムで囲うと強度のバラつきを抑えてくれる。そんなことが実験結果から分かったそうだ。

端材の有効利用に挑戦

今年からは、従来の杉材に代えて、5cm角の端材を四つ組み合わせての合成柱作りに取り組んでいる。

上下から力を加えて圧縮したり、引っ張ったり、曲げての変形性能を調べたりと、アルミニウムと木材の合成材料からは、満足する実験結果が出ている。

そんな小松教授が、合成構造に取り組んだ契機は10年前。生産工学部を挙げて、SC構造と呼ばれる再生骨材コンクリートの地域連携プロジェクトが立ち上がったからだった。

鉄骨の回りをコンクリートで固めたが、鉄筋が入っていないため、ある程度の圧縮力を加えるとコンクリートが剝離する。そこで型枠代わりに回りを薄い鉄板で巻いてみると、どうなるだろうか――。

そんな疑問から研究を続けていくと、コンクリートは圧縮されて粉々になるものの、合成構造柱の強度は8割程度に保たれることが分かった。これなら地震にも耐えられる。そこから他の材料へと対象が移ったのである。

「建築学は雑学である」

建築分野に進んだのは、もともと絵を描くのが好きで、デザインを生活の糧にしたいという単純な希望から。しかし勉強していくうちに、四則計算で数値解析する構造の面白さを知り、数学や物理が得意だったことから、のめり込むようになる。そこが構造を学ぶ原点となった。

東実験棟の検査機器と小松教授

東実験棟の検査機器と小松教授

以来40年以上を構造実験に明け暮れてきた。生産工学部は昔から進んだ研究施設を備えていたが、それでも構造実験に取り組むとなれば、15人ほどの仲間が汗だくになって準備する大掛かりなもので、今では考えられないような旧式のコンピューターで解析していたそうだ。

実験結果が出るのに8時間かかったものが、現在ではコンピューター制御で、わずか1時間半で済むように。「苦労がなくなった分、実験結果の意味を学生がスルーしてしまうのではと心配です」

このため授業でも心掛けるのは、途中にわずかな「間」をつくること。十分に理解しているかを確認したり、補足説明をしたり、例え話で授業内容の整理がつくようにという〝学生目線〟からである。

アルミニウムと木材が、自身の合成構造研究の集大成だと自覚している。その小松教授が力説しているのは、「建築学は雑学である」。「工学的と芸術的な部分を併せ持った学問だけに、何事も意欲的に取り込んでほしい」と強調している。

生産工学部
小松 博(こまつ・ひろし)教授

昭和58年本学生産工学部建築工学科卒。同年同学科の副手に登用され、平成9年に専任講師。助教授、准教授を経て、22年から教授。工学博士。
日本建築学会の代議員、関東支部学術幹事を歴任。日本鋼構造協会所属。愛知県出身。62歳。