【研究者紹介】
「統合報告」軸に企業と世界を見据える

経済学部 古庄 修 教授

研究
2020年03月18日

情報開示の最前線を探究
大学のガバナンスにも注目

丸井、ファーストリテイリング、中外製薬、味の素、伊藤忠商事、イオン――。
大学生の就職人気ランキングでも、決算で大きく利益を伸ばした企業でもない。自社の財務情報と非財務情報から成る「統合報告」(IR)が外部機関によって高い評価を得た企業だ。評価項目には「経営トップの意思が明確に示されている」「目指すビジネスモデルが鮮明」「人権への取り組みが他企業にも好事例」など統合報告書への賛辞が並ぶ。

財務のみは時代遅れに

経済学部 古庄 修 教授

経済学部 古庄 修 教授

投資家向けの企業情報に関する開示手段といえば、損益計算書(PL)や貸借対照表(BS)といった財務諸表によるものが一般的だったが、現在はそれらに非財務情報を加えたIRが注目され、その重要性が増しているという。

「厚生年金と国民年金の年金積立金を管理・運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がESG(環境・社会・ガバナンス)投資に積極的に取り組み始めたことに、注目が集まっています」

厚生労働省が所管するGPIFは世界最大の投資ファンド、アブダビ投資庁(運用資産約9千億ドル)を規模ではるかに上回る運用を行っている。企業の環境への取り組みや社会活動への関わりが投資の尺度になることにより、ESG投資が脚光を浴び、従来の財務報告書を再構成して、ESGに関連する情報を包含するIRに企業は力を入れ始めている。

2018年の日本の統合報告書発行企業数は約450社で、冒頭の薬品、商社など国際競争が厳しい企業や、消費者の存在が身近にある流通・小売業界が先進的な取り組みを行っている。

SDGs重視に

「さらにこの傾向を後押ししているのが15年の国連総会で採択された『持続可能な開発目標』(SDGs)です。『誰一人取り残さない』世界の実現に向けて、30年までに貧困や飢餓を撲滅し、持続可能な開発を推進するために掲げた17の目標で、日本政府も16年に内閣総理大臣を本部長とする推進本部を設置しました」

「要は短期的な利益のみを追求せず、SDGsに沿って社会的課題の解決のために長期的な企業価値の創造をいかに行っていくかに投資家は注目し始めており、価値創造のストーリーに基づく将来志向の情報が求められているのです。財務報告の“本丸”はあくまでも財務諸表ですが、財務報告と統合報告の境界にある新たな会計・開示問題をアカデミックに研究しています」

「今」をきちんと説明

研究のもう一方の柱が非営利組織の会計だ。昨今の大学の不祥事を一つの契機に、学校法人のガバナンスの在り方も問われており、東京大学は先に統合報告書を発表。大学の広報戦略として、SDGsへの取り組みを説明し始めた大学の事例も新たな研究課題に加わった。

「SDGsへの対処について本学はまだ明確な方針を示していないようですが、私大のガバナンス体制や社会との関係の見直しが、情報開示といかに連携して進められるべきか、学生には今起きていることを正確に伝えたいと思います」

こたつから発信

卒業を前にゼミ生らと

卒業を前にゼミ生らと

学部卒業時に、地元出身高校から事務長兼教諭として誘いがあり、院では当初、学校法人会計の勉強をしていた。その後、指導教授の突然の移籍により、新たな指導教授と出会い、国際会計論の研究に巡り合ったのがこの世界に入ったきっかけ。

「連結会計の大家として知られていた指導教授の真摯な研究姿勢に魅せられ、将来は研究者としてやっていこうという気持ちが芽生えました」

趣味は演劇やバレエの鑑賞と華やかだが、執筆作業は「貧乏学生時代の習慣がいまだに抜けなくて」ともっぱら自宅書斎のこたつ。こたつから繰り出す情報発信はしっかりと企業と世界を見据えている。

経済学部
古庄 修(ふるしょう・おさむ)教授

青山学院大経営学部経営学科卒。同大学院経営学研究科博士後期課程満期退学。博士(プロフェッショナル会計学)。関東学院大経済学部教授などを経て平成20年4月から現職(財務会計論)。
27~29年度公認会計士試験委員。神奈川県公益認定等審議会委員。国際会計研究学会理事など歴任。主著に「統合財務報告制度の形成」。熊本県出身。56歳。