【研究者紹介】
進化する獣医再生医療技術

生物資源科学部 枝村 一弥 准教授

研究
2020年04月01日

研究成果がJST「社会還元加速プログラム」に採択。日大発"犬のiPS細胞"で目指すベンチャー化

生物資源科学部 枝村 一弥 准教授

生物資源科学部 枝村 一弥 准教授

少年時代は水泳やサッカー、テニスなどのスポーツに興じ、藤枝東高時代は部活で水球に打ち込んでいたという枝村准教授。獣医師の道を志すきっかけとなったのは、高校2年生のときに家族で犬を飼い始めたことだった。

「定期検診などで地元の動物病院へ連れていったときに『こういう道もあるんだ』と。そこの院長先生がいい人で、高3のときに病院実習をやらせてもらったことが大きかったですね」

かくして本学農獣医学部(現・生物資源科学部)に進んだ枝村青年は、卒業年に国家試験を一発でクリアし、獣医師の免許を取得。その後、東大大学院でさらに研さんを積み、2003(平成15)年に助手として母校帰還を果たした。

その間、12年に取得した小動物外科専門医の資格は、日本人として2人目の取得で、今もまだ全国で10人ほどしかいないという。13年と15年には学部内の動物病院で東武動物公園飼育の希少種ホワイトタイガーの子の膝手術を手がけ、一般メディアでも話題となった。

世界で唯一の細胞

准教授の現在は「研究・教育・臨床」の三本柱に、等分に注力する毎日だ。

「どれも満遍なくこなすべきというのが、大学院時代の恩師の教えでした。学内での講義・実習、大学院生の研究指導などのほかに学会や獣医師会など学外の仕事もあってハードな毎日ですが、スポーツで培った体力の貯金に助けられています」と笑う。

研究面では、本学に赴任した当初から動物の再生医療という課題に取り組んできた。従来の再生医療には主に「骨髄間葉系幹細胞」「脂肪由来間葉系幹細胞」の二つの幹細胞が使われていたが、いずれも抗炎症効果や組織を保護する働きに限定され、一定の治癒効果が得られなかったという。

「組織を完全修復するためにはES細胞(胚性幹細胞)やiPS細胞(人工多能性幹細胞)が必要で、動物医療でもそれを作れないか、というのが一つの発想でした。そこで、たまたまiPS細胞を研究している本学OBの先生が慶応大にいて、動物に還元したいということで共同研究を続けた結果、犬のiPS細胞が確立したのです」

このiPS細胞はウイルスを使用せず、ヒトや動物の成分を含まない培地で培養された「世界で唯一、臨床応用可能な犬のiPS細胞」とのことで、現在、本部知財課と共同で特許出願中という。

ペット飼育者に希望の光

学部内動物病院の処置室で。枝村 一弥 准教授。

学部内動物病院の処置室で。同院では整形外科疾患の動物を担当。取材日も終了後に骨折した犬の緊急オペに向かった。

また、枝村准教授はこの研究成果を「獣医再生医療技術の事業化検証」としてJST(国立研究開発法人科学技術振興機構)の「社会還元加速プログラム」に応募し、こちらは昨秋、正式に採択された。

「名付けてiNUstem(イヌステム)です。NUは日本大、stemは幹細胞。iPS細胞はそのまま分化できるので、いずれ骨折や脊髄損傷、創傷治癒や角膜の病気、全身の炎症性疾患などに適用するものを製品化できればと思います。日本は狂犬病フリー国でもあるので、日大発の犬のiPS細胞由来製品を世界中に届けたいですね」

少子高齢化が加速する日本では、犬や猫のペットを家族の一員として飼う人が急増している。病気やケガに際しても人間と同様の医療を施し、末永く大切にしたいと願う人たちにとって、日々進化する動物再生医療技術は大いなる希望の光といえるだろう。

枝村准教授を代表者に大阪府立大、麻布大、慶応大などの教員らと連携して続く研究も、近い将来のベンチャー化を目指してこれからが本番だ。すでに「免疫の病気や腫瘍に由来する疾患iPS細胞の作製」「献血の代わりとなる血液細胞の貯蓄」「糖尿病の犬猫に移植する、インシュリンを出すβ細胞の創生」など、iPS細胞を利用した開発プランに順次着手しているという。

生物資源科学部
枝村 一弥(えだむら・かずや)准教授

平成11年本学農獣医学部獣医学科卒。15年東京大大学院農学生命科学研究科修了。博士(獣医学)。同年助手として本学生物資源科学部に赴任。専任講師を経て27年から現職。
主な研究分野は獣医外科、運動器疾患、再生医療。小動物外科専門医(24年資格取得)。動物再生医療推進協議会理事。動物のいたみ研究会会長。静岡県出身。44歳。