【研究者紹介】
自動車用エンジンの高効率化に挑む

理工学部 飯島 晃良 准教授

研究
2020年04月22日

燃料削減でCO₂排出を抑制、自動車産業と地球環境に貢献

飯島准教授は、自動車に搭載されているガソリンエンジンの熱効率を向上させる研究を進めている。熱効率が上がれば使用燃料が減り、燃焼に伴うCO²排出も抑制でき、地球温暖化の防止に役立つ。電気自動車は価格や航続距離、電池重量などの面で難題を抱え、伸び悩んでいる。ガソリンエンジンを使う通常の車や、エンジンと電気モーターを併用するハイブリッドカーの優位性は、非常に高い。飯島准教授の研究は今後長期間にわたり、世界の自動車産業と地球環境に多大な貢献をすると予想される。

可視化エンジン

理工学部 飯島 晃良 准教授

理工学部 飯島 晃良 准教授

千葉県船橋市の理工学部船橋キャンパスに、小型発電機ほどの大きさの実験用エンジンが7基ある。このうち数基は、上部に特殊なガラスをはめ込んであり、内部が見えるようになっている。

飯島准教授が自動車メーカーなどから入手したエンジンを改良し、普通は見ることができないエンジン内の燃焼を外からのぞけるようにした「可視化エンジン」だ。

燃焼の様子を観察できるため、エンジンの性能向上や燃料の研究に役立つ。飯島准教授はこれに関連する研究で、2008年に自動車技術会賞浅原賞を受賞したのをはじめ、17年に小型エンジン技術国際会議最優秀論文賞を受賞するなど、数々の表彰を受けた。「可視化エンジン」のパイオニアともいえる。

ノッキング

飯島准教授によると、自動車を運転中、低速でアクセルペダルを踏み込んだ時や高速に至る途中などに、突然、異音や振動が発生することがある。エンジン内の異常燃焼(ノッキング)によるもので、エンジンの構造上の宿命でもある。

エンジンは、シリンダー(燃焼室)内で空気とガソリンを混ぜた混合気の圧縮度合を高めるほど、熱効率が高まり燃費が良くなる。しかし高めすぎると、過度の圧力と振動でエンジンが破損する。

世界の自動車メーカーはノッキングの制約を受けながら、100年以上かけて少しずつエンジンの性能を上げてきた。だが、ノッキングがなぜ、どのように起きるのかというメカニズムは、未解明な部分が残っている。

革新的燃焼技術

ドイツの国際会議で学生らと、集合写真

ドイツの国際会議で学生らと

内閣府が中心となった国家プロジェクト、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)で、さまざまな専門分野を持つ大学・公的研究機関の研究者が集結し、18年までの5年間にわたり「革新的燃焼技術」の研究が行われた。自動車用の内燃機関の熱効率を飛躍的に向上させ、環境負荷の低減を目指したものだ。

飯島准教授はこのプロジェクトの中で、ガソリン燃料チーム「燃料・ノック抑制班」の一員として、自前の「可視化エンジン」を駆使し、ノッキングが起こる瞬間の燃焼室内を詳しく観察。ノッキングの解明に、それまでより一歩踏み込んだ内容の論文をまとめ、大きな成果を上げた。

HCCI

自動車メーカーのマツダは19年12月、新世代ガソリンエンジン「SKY ACTIV-X」を搭載した新型車を発売した。独自の燃焼制御技術である「火花点火制御圧縮着火(SPCCI)」を使い、少ない燃料で高効率な燃焼を実現したという。

飯島准教授によると、SPCCIはガソリンエンジンの点火プラグによる火花着火と、高温高圧の空気の中で自然に軽油を燃やす、ディーゼルエンジンの圧縮着火の特徴を併せ持っている。夢の技術といわれる「予混合圧縮着火燃焼(HCCI)」を、一部の領域で実現したものである。

HCCIは、ノッキング現象をうまく利用した技術で、飯島准教授の主要研究テーマの一つでもある。マツダのように新たなエンジンの開発に応用できるほか、ガソリンエンジンの性能アップにもつなげられる。マツダの新世代エンジンの開発チームでは、飯島准教授の下でHCCIの研究をしていた院生が活躍している。

理工学部
飯島 晃良(いいじま・あきら)准教授

平成14年本学理工学部機械工学科卒。16年同大学院理工学研究科機械工学専攻博士前期課程修了。富士重工業(現・SUBARU)スバル技術本部。
18年本学理工学部副手。助手、助教を経て28年から准教授。博士(工学)。技術士(機械部門)。
日本機械学会、自動車技術会、日本燃焼学会などに所属。茨城県出身。39歳。