30分で新型コロナの感染判定
今秋の実用化に大きな期待

文理学部 化学科 桒原 正靖教授

研究
2020年07月13日

新型コロナウイルスの暗雲が地球を覆う中、文理学部の一研究室が一躍世界の脚光を浴びている――。

桒原正靖教授を中心とする共同研究チームが、新型コロナウイルスの感染を約30分で判定できる世界初の検査法の開発に成功したのだ。このほど塩野義製薬とライセンス契約を締結。迅速、安全、簡便に感染者の診断と隔離が行えるようになる革新的技術のため、早期実用化に向けいやがおうにも期待が高まっている。

研究チームは桒原教授と化学科のスタッフ3人、東京医科大の河島尚志主任教授らで構成。2015年から研究を進め、技術シーズの創出からわずか5年で大きな成果にこぎつけた。

唾液で簡単に検査

桒原正靖(くわはら・まさやす)教授

桒原 正靖 教授

新たな診断法である「SATIC(サティック)法」は、唾液などの検体を95度で約2分間加熱した後、試薬を入れ37度で20~25分間ゆらすだけ。検体の中に新型コロナウイルスのRNA(リボ核酸)が含まれていると試薬の色が茶色から透明に変わり、肉眼でも確認できる。

PCR検査はウイルスのRNAからDNAを作り、それを増やす必要があり、採取から検査まで4~4.5時間かかるが、SATIC法はこの工程が不要で精度を維持したまま一気に時間と手間を省ける。

桒原教授は今回の快挙について分かりやすく説明してくれる。

「昔は一枚の写真を手に入れるにしても、撮影してカメラ屋さんに持ちこみ、現像・焼き付けをしてもらい、数日後に取りに行きました。今では個人のスマホで撮り、インターネットで個人のパソコンで即座にプリンアウトできます。それくらいの違いがあります」

専門の技師と検査器に頼る必要がないため、一般外来や空港検疫、イベント会場などでの活用が見込まれている。さらに咽頭拭い液を必須とせず唾液やたんからも検出できるため、検体採取に伴う医療従事者への感染リスクも低減できるという。

第2波に対応

世界保健機関(WHO)は、感染者の40%が無症状患者から感染しているとの研究例を示している。「新検査法が実用化されれば、これらを一気に判別し、新たな感染を未然に防ぐ手立てになり得るのです。秋口までに量産体制が整えば、第2波に対応できるのではと思っています」と桒原教授。

塩野義製薬は臨床試験などを速やかに実施した上で、体外診断用医薬品として薬事承認の取得を目指す方針だ。

がんにも応用

新検査法の威力はこれにとどまらない。

「がんの術中迅速判断に応用できます。今は手術中に病理切片を採って標本を作り、病理医が判断していますが、熟練を要し、人により判断が違うというリスクもあるそうです。十数分で良性か悪性か分かれば切除範囲もその場で判断できます」

スーパー銭湯のレジオネラ菌や弁当や給食をつくる食品工場での雑菌検査、競技スポーツのドーピング検査、ノロウイルスの拡大を防ぐ老人ホームなどにも応用範囲が広がるという。

人間界だけではなく動植物も恩恵を受けそうだ。「豚コレラ、口蹄疫、鳥インフル、果樹ウイルスは、今は感染すれば即、大量殺処分されますが、病気のものだけに対応し、あとは温存できます」

早期の実用化を期待してやまないのは人類だけではないかもしれないのだ。

癒やしは珈琲で

新検査法のキットを手に研究室で(2020年7月6日)撮影・取材

新検査法のキットを手に研究室で(2020年7月6日)

大の珈琲好き。研究室の片隅には伊デロンギ社のエスプレッソマシンやスイス・ネスレのコーヒーマシンが陣取る。メディアの取材攻勢が続く中、一杯の珈琲だけが、唯一のくつろぎとなる日々が続きそうだ。

桒原正靖(くわはら・まさやす)教授
平成6年岡山大工学部卒。11年同大学院自然科学研究科博士課程修了。博士(学術)。
米バージニア大博士研究員などを経て、21年群馬大大学院理工学府准教授。30年から本学文理学部教授。日本化学会、米国化学会など所属。広島県出身。