【研究者紹介】
レーザー照射を柔軟性や疲労回復に応用

スポーツ科学部 布袋屋 浩 教授

研究
2020年08月26日

スポーツによるケガ・故障の原因に着目、臨床経験を応用し競技力向上へ

「スポーツには楽しみ、健康、ロコモティブなど、さまざまなイメージがありますが、運動後には誰もが『疲れ』を自覚するはずです。楽しいが疲労したり痛めたりするのはスポーツが身体にとってストレス、つまり毒だからです」

スポーツ科学部 布袋屋 浩 教授

スポーツ科学部 布袋屋 浩 教授

これが、医学が進歩した現在においてもスポーツとケガ・故障が切っても切れない関係にある理由と布袋屋教授は語る。しかしそのストレスを受けて、人間の体内にいろいろなホルモンが分泌され、身体が適応し、結果的にパワー、スキルなどが向上するというのは読者もご承知のことだろう。

「スポーツにおいてケガや故障のリスクなしにレベルアップする方法は残念ながらありません。ですからトレーニングによる過負荷の処置、ストレッチやアイシングなどのケアが重要なのです」

本学医学部を卒業後、同整形外科学教室へ入局した布袋屋教授はスポーツ医学研究班に所属。そこでプロ野球、ゴルフなど、さまざまなアスリートの診療に携わった。長くトップアスリートとして活躍する選手の多くは身体の不調に敏感だ。もちろんセンスを武器に活躍し続ける選手もいるが、自分自身の体の構造を理解し、日々のケアをすることがトップを走り続けるために必要な能力の一つなのだ。

「ケガ」と「故障」の違い

スポーツ医学の分野では「スポーツ外傷=ケガ」「スポーツ障害=故障」と厳密に区別し、二つを合わせて「スポーツ傷害」と呼ぶ。自動車に例えると前者は交通事故、後者はオーバーヒートの状態を指す。

「ケガは練習や試合中に骨折、脱臼、断裂などの損傷を負うことですが、受傷部位が治れば問題なくプレー復帰が可能です。しかし故障は練習の繰り返しや局所の過度使用により炎症や疲労骨折などが生じるため、痛みを緩和する治療をしても、過負荷となる原因から修正しなければ、必ず再び同じ症状に悩まされます。故障はスポーツによる病気なのです」

例えば肩を痛めた2人の野球選手AとBが病院へ行くとする。両者とも腱板損傷で、臨床症状、レントゲンやMRI などの画像所見は同じ。しかしAは投げ過ぎ、Bはスライディングでひねったというおのおのの発症原因が異なる場合、対処方法もAはフォーム改良、Bは外傷の治療と全く違うアプローチが必要になる。

「マスコミがケガと故障をほぼ同義に報じているからか、両者に違いがあるとは思わないようです。車を修理するときに、修理士へ不調の発生状況や原因を伝えるのと同じで、体の場合もなぜ痛くなったのか医師が分からなければ適切には治せない。そして故障の場合には疼痛緩和をしながら、原因究明と改善、正しい体の使い方やフォームを習得するなどの再発防止策を立てることが必要になるのです」

コンディショニングに応用

布袋屋ゼミのメンバー

布袋屋ゼミ。各競技部に所属する学生と共にケガや故障の予防・早期復帰やパフォーマンスアップについて研究している

臨床家として患者に施行してきた治療手技を健康な選手のコンディショニングに応用するというのが布袋屋教授の現在の研究だ。具体的には疼痛緩和治療器であるレーザーをツボに照射し、身体の柔軟性や疲労回復に応用する検証実験、走る、跳ぶ、切り返すといった運動種目に対する各種介入実験などを行っている。他にもスポーツ用アクセサリーやマウスガードなどが選手のパフォーマンスに与える影響についても調査しており、同様に簡単な運動で数値の差を出している。

「レーザーもアクセサリーも7割近くが記録を伸ばしていますが、万人に効くわけではない。どの選手に効果的で、どう応用すべきかを知るために介入方法を工夫し症例数を蓄積・検討しています」

競技レベルが高いほど、疲労やケガ・故障によって試合結果が左右されることは少なくない。スポーツ医学は単にスポーツ傷害に対する治療やリハビリ、予防だけではなく、競技力向上の役割も担っているのだ。

スポーツ科学部
布袋屋 浩(ほてや・こう)教授

1990年本学医学部卒。同年同整形外科学教室入局。96年同大学院医学研究科博士課程修了。
東京読売巨人軍、社会人アメリカンフットボール・日産スカイライナーズのチームドクター、駿河台日本大学病院整形外科医局長、本庄総合病院副院長などを経て、2015年に本学教授。
所属学会は日本整形外科学会、日本レーザー・スポーツ医学会など多数。秋田県出身。