【研究者紹介】
「耳管開放症」治療の第一人者

医学部 大島 猛史 教授

研究
2020年09月09日

全国から訪れる患者を診察、手術、耳鼻咽喉科学の研究にもいそしむ

自分の声が耳の奥で響く。耳の中がふさがった感じがするーー。こんな不快な症状が続き、日常生活にも支障を来す「耳管開放症」。軽症者まで含めると、日本人全体の約5%に相当する約600万人が罹患しているという。

大島教授は、この「耳管開放症」を治療する第一人者だ。全国から訪れる患者を診察し、手術もする。これまでに見た患者数は、国内の医療機関で最も多い。診察以外の時間には、耳鼻咽喉科学全体の研究にいそしむ。また、医師免許を取得して間もない研修医や、専門医を目指す専修医の指導、免許取得前の学生への講義などもあり、医師・研究者・教育者として多忙を極めている。

3~4cmの細い管

医学部 大島 猛史 教授

医学部 大島 猛史 教授

東京都板橋区にある本学医学部の附属板橋病院。この1階奥に、さまざまな外来診療科が並んでいる。その中の一つである耳鼻咽喉科には毎週月曜日午前、全国の「耳管開放症」患者が大島教授の診察を受けるために、各地の開業医や大学病院の紹介状を持ち、予約を取ってやってくる。毎週木曜日には、大島教授が重症患者らに手術を施し、快方に向かわせる。

大島教授によると、耳管は鼓膜の奥と喉の奥をつなぐ細い管。長さは3~4cm。普段は閉じているが、耳の働きに応じて開いた状態にもなり、ちょっとしたことで機能がバランスを失う。「耳管開放症」は開いたままになってしまう機能障害だ。

「耳管開放症」の治療法は限られており、漢方薬を服用するのが一般的。大島教授は研究の結果、生理食塩水の点鼻(鼻の奥に噴霧したり、垂らしたりすること)を最初に試みるよう推奨している。重症患者への手術は「耳管ピン挿入術」と呼ばれる。鼓膜を切り、長さ23mmのシリコン製チューブを耳管に差し込み、一定期間そのままにしておくやり方だ。シリコン製チューブは、大島教授が母校の東北大で同僚教授と改良を重ねたもの。生理食塩水の点鼻とともに、治療効果が高いと評価されている。

動物モデル

附属病院に隣接する基礎教育研究棟の中に、大島教授の研究室がある。
ここを拠点に、「耳管開放症」に関する動物モデルの実験などについて、さまざまなプランを練る。主な具体例では、院生に指示して、実験動物の顔面近く三叉神経を一部切断し、耳管の周囲の筋肉が萎縮して耳管が開きやすくなったモデルを作り、「耳管開放症」の研究と治療を前進させた。それまでは、耳管開放の状態を動物モデルで作り出すのに、良い方法がなかったという。

研究室では、診察した「耳管開放症」患者の臨床解析も行っており、有用なデータが国内で最も多く蓄積されている。

感覚器の研究

日本耳鼻咽喉科学会での講演の様子

日本耳鼻咽喉科学会で講演

「(目、耳、鼻、舌などの)感覚器を研究してみたかった。特に聴覚は非常にサイエンティフィックなところがあり、突き詰めたらどうなるのか興味があった」ーー。大島教授は、耳鼻咽喉科学を志した東北大の医学生だった頃を懐かしむ。

大島教授はその後、内耳の感覚細胞や、音を取り込む聴覚の受容メカニズムについて、長い間研究を重ねながら、難聴の治療などを続けた。

そのうちに、難聴の大きな原因となる中耳炎、中耳炎の発症に深く関わる耳管へと研究対象が広がり、「耳管開放症」のエキスパートになった。現在の研究は耳鼻咽喉科学全体に及び、これまでに発表した論文は172本、執筆した著書は40冊にも上る。

スペシャリスト

大島教授は、本学医学部の耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野の主任教授でもある。経験豊富な専門医から若手医師まで約20人のスタッフを束ね、感覚器に加え生体機能が集中する頭頸部全体について、幅広く医療を展開している。大島教授は「社会から真に求められているのは、疾患に対する深い知識と卓越した技術を有するスペシャリスト」と考えており、日々力強くスタッフをけん引している。

医学部
大島 猛史(おおしま・たけし)教授

1986年東北大医学部卒。92年同大学院医学系研究科博士課程修了。2007年同大学院耳鼻咽喉・頭頸部外科准教授。14年から本学医学部教授。
日本耳鼻咽喉科学会代議員、日本耳科学会理事、耳管開放症研究会代表幹事。
著書に『今日の耳鼻咽喉科・頭頸部外科治療指針』(医学書院)など。静岡県出身。