【研究者紹介】
コロナ禍で揺れる中小企業マインドにメス

経済学部 児玉 直美 教授

研究
2020年12月01日

得意の数値モデルで政策評価。悪戦苦闘した体験をゼミに反映

経済学部 児玉 直美 教授

経済学部 児玉 直美 教授

児玉直美教授はこの5月、コロナ禍で揺れる小規模企業の影響をオンライン調査したばかりだった。

対象は従業員20人以下の零細企業の経営者や自営業者で、今年1月の平均売上高はほぼ前年並みだったが、2月はマイナス2%、3月はマイナス10%、4月はマイナス18%と急落したという。

ただし、緊急事態宣言を一部解除した5月14日を挟む2度のアンケート結果からは、目を引く変化の兆しが見えた。

5月8日の調査とその1週間後を比較すると、売上予測や投資といった企業マインドが明らかに好転したのである。当初5月末まで予定されていた緊急事態宣言が、東京や大阪などを除く39県で解除されたことから、事態が意外に早く収束すると見通したためだ。

効果的なワクチンの普及やコロナウイルスの早期収束も企業マインドを改善すると指摘する。

緊急事態宣言は経済を犠牲にして感染症を抑制するという政策だが、長引くにつれ経済との両立問題が浮上。その中で児玉教授は、感染症の抑制自体が中長期的な景気対策になると結論づけた。

さらに感染症抑制政策と景気浮揚政策のどちらに財政を注ぎ込むべきかとの問いに対しても、感染症抑制の方が効率的と強調。「3年後に振り返って、コロナの時にはこうすべきであったという政策評価は要らない、今何をすべきかが知りたい」としている。

地球物理からの転身

教授はもともと地球物理学専攻だった。高校時代に、地球が何枚かの岩盤だというプレート理論の雄大さに魅了されて、理学部へ進学。しかしその頃にはプレート理論は学問としては完成しており、選んだテーマは地球環境問題。モデルを構築して何百通りものシミュレーションを繰り返した。

就職もその延長線上で環境省なども考えたが、地球温暖化はエネルギーの問題と説得されて通商産業省(現・経済産業省)に入省。大気汚染や水質汚濁、エネルギー多消費問題で論議を呼ぶ化学関係の部署に配属された。

その後、得意のシミュレーション能力を生かして、国土計画やエネルギー計画、政府経済見通しに取り組み、出向で一橋大学にも派遣された。

事業継承も研究

ゼミ生と児玉教授

一堂にそろったゼミ生と児玉教授(中央)

大学でもデータ分析や政策評価に従事したが、そこで知ったのがテーマ選択の自由だった。官庁では配属された先々で、業務に興味が湧いて面白くなっても、2、3年で担当を変わらなければならない。

研究で成果を出さねばならないとの重圧があったにせよ、25年目に迎えた第3の転身が、本学の経済学部教授なのである。

現在は「企業の参入・退出と経済成長」のテーマで科研費を得て、事業継承の研究にも取り組む。後継ぎがいるから企業が好調なのか、好業績だから後継者に恵まれたのか、因果関係を特定しようというわけだ。

研究では後継ぎのいる方が、確かに利益率が高い。それもIT投資など事業の効率化でコストを抑え、利益を確保しているとか。政策評価の手法や考え方が、企業のマーケティングの効果測定などにも適用できるというのが教授の考えである。

1年前から始めたゼミの学生は、2年生が19人に3年生が20人。毎週のゼミでは中小企業の創業や廃業を題材に、情報収集の方法から、データ分析の手法、レポートの書き方、プレゼンテーションのやり方まで多岐にわたる。

「自分で目標設定をして、必要な情報を取得。説得的な資料作りや発表、質問・情報発信をする能力は、社会に出てからも求められるスキルでしょう」

高校までの勉強なら一つの回答で済むが、社会に出てからは答えのない課題に応じてさまざまな能力が必要になるというのである。

教授自身が、仮定や前提条件を変えると、結果が大きく変化するシミュレーションの世界で悪戦苦闘してきた。そんな体験に裏打ちされた教訓に違いない。

経済学部
児玉 直美(こだま・なおみ)教授

1991年東京大理学部卒。93年同大学院理学系研究科修了。通産省(現・経産省)、国土庁(現・国土交通省)を経て、2013年一橋大経済研究所准教授、18年から本学経済学部教授。
東京地方最低賃金審議会委員、経産省経済産業研究所リサーチアソシエイト、公正取引委員会競争政策研究センター研究協力者などを務める。長野県出身。