【研究者紹介】
「微生物=生き物」の概念に衝撃受ける

生物資源科学部 成澤 直規 准教授

研究
2020年11月24日

虫歯の原因となるミュータンス菌、
食品成分でバイオフィルムの抑制

幼い頃から生物に興味があった成澤直規准教授は大学入学後、初めて顕微鏡で微生物を見た。それが研究の道に進む入り口となった。

「目には見えないですが、これも生き物だということを認識しました。それまで微生物=生き物という概念がなかったので、衝撃を受けました。また古川壮一先生との出会いによって、より深く微生物に興味を持つことになりました」

学部を卒業後、本学と東京大の大学院を経て国立感染症研究所に博士研究員として4年間勤務。その際に恩師である古川准教授の誘いがあり、本学へ戻ってきた。

「研究者になったのも、今ここにいるのも古川先生のおかげです。先生は5年前に若くして亡くなられてしまいましたが、私に大きな影響を与えてくださった、一生忘れることのできない恩師です」

ミュータンス菌

生物資源科学部 成澤 直規 准教授

生物資源科学部 成澤 直規 准教授

口腔微生物を専門とする成澤准教授が「仕事上のパートナー」と呼ぶのがミュータンス菌(正式名称=ストレプトコッカス・ミュータンス)だ。

口の中にはさまざまな微生物がいるが、ミュータンス菌は虫歯を引き起こす原因菌で、基本的にヒト口腔に存在し、母子感染(口移しや食器の共有など)によって広がる微生物だ。

「ミュータンス菌は歯の表面に付着する能力に長たけていて、粘着性のあるバイオフィルムを作り出し、これが虫歯の原因となります。食後、歯を磨かずに放置すると表面がざらつくと感じた経験を多くの方がされていると思いますが、これはミュータンス菌が歯の表面にバイオフィルムを作り始めている一つのシグナルです」

ブラッシングをすることでバイオフィルムは取れるが、蓄積してしまうと酸を発生させ、歯が溶けてしまう。これは口腔内でミュータンス菌しか起こすことができない特徴なのだという。そして驚くことにミュータンス菌は乳酸菌の一つなのだそうだ。

「口の中にはたくさんの乳酸菌がいます。ミュータンス菌はその一つで、他の乳酸菌との違いは歯に付着できるか否かということです。多くの方が乳酸菌にポジティブな印象を持たれていると思いますが、実はネガティブな面もあるのです」

新たな納豆の開発へ

実験室で撮影、成澤准教授と大学院生

実験室で大学院生と

成澤准教授の現在の主な研究はミュータンス菌を食品の成分で抑えるというものだ。その一つが納豆で、納豆に含まれるタンパク質分解酵素(ナットウキナーゼ)を加えることでバイオフィルム構造体が形成されなくなるということを発見した。そしてミュータンス菌に効く納豆の開発を現在は行っている。

「市販されている納豆を600種類以上集めて成分を比較しているのですが、DNAレベルでは主に3種の納豆菌に分類され、あまり特徴がありません。そこで全くのオリジナルの納豆菌を捕まえ、育種することに研究をシフトさせています。ちなみに自然界には3種以外にも、たくさんの納豆菌が存在しています」

この研究は生物資源科学部のブランド創生研究に採択された。現在は大学の近隣から、わらを集め、そこから発酵力が強く酵素を多く蓄積する納豆菌を探している。大豆中のタンパク質が分解されるとアミノ酸になる。納豆の粘りはアミノ酸の一つであるグルタミン酸が重合することで強い糸引きが生まれるため、ナットウキナーゼの存在は重要である。

「これらは臨床実験の結果ではなく、あくまでも実験レベル、試験管の中での話です。ですから現状では、どれだけ納豆を食べれば虫歯にならないと断言はできませんし、実用化にも至っていません。それでも将来的には歯磨き粉に成分を加えたり、納豆の中のいいところだけをうまく食品の中に取り入れられるようにしたいと考えています」

生物資源科学部​
成澤 直規(なりさわ・なおき)准教授

2002年本学生物資源科学部卒。04年同大学院修士課程修了。08年東京大大学院農学生命科学研究科博士後期課程修了。博士(農学)。10年日本学術振興会特別研究員(PD)。12年本学生物資源科学部助教。19年から同准教授。20年国立感染症研究所客員研究員。北海道出身。