【研究者紹介】
見えないものを解明する数学の「手術」

文理学部 茂手木 公彦 教授

研究
2021年08月30日

見えそうで見えない3次元の世界に魅せられて。あるきっかけから数学の道に。 教職への思いを学生に託す。

もともと好きだった科目は歴史。育った横浜市は、当時まだ畑に土器が転がっていた。黒曜石の矢じりを見つけたこともあり、考古学の道に進みたいと思っていた。数学に興味を持ったのは高校時代。「2次方程式の解と係数の関係」が出てきた時だった。「解を求めないのに、和や積が求められるのが不思議」に感じた。「原理が分かり数学が面白くなった瞬間をハッキリ覚えています」。数学の道がひらけた瞬間だった。

コーヒーカップとドーナツ

文理学部 茂手木 公彦 教授

文理学部 茂手木 公彦 教授

茂手木公彦教授の専門は低次元トポロジー。トポロジーとは、ものの形の性質を探求する学問で、いろいろな次元から「形」をとらえ、通常は目に見えない世界の形をつかむ。地球は地上から見ているだけでは「丸い」とは分からないが、地平線に向かって歩き元の地点に戻ってくれば、丸いと分かる。視点を変えることで見えてくるものがある。

トポロジーでは、三角形と四角形を区別しない。ゴムのように伸び縮みさせれば、三角形にも四角形にもなるからだ。だから取っ手の付いたコーヒーカップとドーナツも、穴を持つ形として、同じだと見なされる。「柔らかい幾何学と言われています」コンピューターの発展にともない、研究の手法や幅も広がっている。

見えそうで見えない3次元

人間は3次元に住むため、2次元の形を離れたところから見ることができる。「宇宙からの映像を見れば地球が丸いことは一目瞭然です」高さを獲得することで、3次元の立場から2次元を認識できる。 

一方、3次元は「見ることができそうでできない次元」だ。3次元を認識するための
考え方に「デーン手術*」がある。円環を一カ所切り、貼るときにねじる。するとメビウスの輪のように裏表がない不思議な図形が得られる。この切り貼り(手術)の考え方が、3次元を認識する一歩になる。

*デーン手術
ドイツの数学者M.デーンが1910年に提唱。空間を“手術=切り貼り”して、新しい3次元の形を生み出す手法。通常、3次元全体を認識するにはより高次元から見る必要があるが、デーン手術により3次元にいながら3次元の形を作り出せる。

教職志望学生への思い

学部生時代に高校教員を目指していたこともあり、ゼミは教職志望学生が多い。中学・高校の教科書は学年のレベルに合わせているため、全てが書かれているわけではない。疑問を感じる生徒がいたときにどう答えるか、ゼミでは「知っていて言わないのと、知らなくて言わないのとでは意味が違う」と指導。まずは学校で一番の先生になり、教員として一流になってほしいと、自身が描く教員の姿を学生に託している。

文理学部
茂手木 公彦(もてぎ・きみひこ)教授

1985 年横浜国立大教育学部卒。89年九州大大学院理学研究科博士課程退学。91年理学博士。九州大理学部助手を経て、92年本学文理学部専任講師。2002年教授。神奈川県出身。趣味はサイクリングとドライブ。