写真のイノベーションによる「影」に着目、著書が経営学の各賞を受賞

経済学部 兒玉公一郎教授

研究
2021年09月24日

経済学部・兒玉公一郎教授の著書『業界革新のダイナミズム:デジタル化と写真ビジネスの変革』(白桃書房、2020年)が、経営学関連の各賞を受賞。今年6月には「第37回組織学会高宮賞(著書部門)」、9月2日には「2020年度日本経営学会賞(著書部門)研究奨励賞」を獲得した=写真。

時代の変化。光と影

本書が扱ったのは、写真のデジタル化というイノベーションに直面した街の写真店(DPE※)のビジネス。フィルムで写真を撮って、写真屋で現像・プリントするという、かつての消費パターンが、デジタルカメラの登場・普及によって根本的に変化し、旧来の街の写真店はビジネスそのものの消滅の危機に直面した。デジタル化によるイノベーションという「光」に対して、それによって斜陽化していく「影」の側面に目を向けた。

写真のデジタル化が、写真フィルムのメーカーに及ぼすネガティブな影響は、社会的にも注目されてきたが、サプライチェーンの末端にある街の写真店への影響は経営学会ではほとんど話題にされていなかった。この研究に着手した10年ほど前、写真のデジタル化によって業界自体が消滅してしまうとまことしやかに語られていたものの、実際にはかなり粘り強く存続していた点に関心が向いた。著書の中では、その理由を技術や戦略の切り口から分析した。

土台は酒屋の跡取り

『業界革新のダイナミズム:デジタル化と写真ビジネスの変革』(白桃書房、2020年)

『業界革新のダイナミズム:デジタル化と写真ビジネスの変革』(白桃書房、2020年)

地方の酒屋の跡取りとして育った兒玉教授。2003年に酒類販売免許が完全自由化。コンビニ等が酒類を販売し、規制に保護されていた産業がまるごと危機に陥る様子を目の当たりにした。そういった土台が、研究の視点、著書に生かされた。「節目で写真を撮る機会はあってもデータで保存されてそのままになっています。次の10年は、データの所在が分からなくなり、紙焼きにして残すことが大事になるかもしれません」と、研究の先を見据えている。

「DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉を最近よく見かけますが、まずは10年や20年経っても変わらないものを追求していきたい。今年着任したばかりで、右も左も分かっていません。まずは足元の教育と研究が大事」と考えている。

 

※DPE(Development Printing Enlargementの略)は、撮影した写真フィルムの現像処理などをサービスとして取り扱っている店の総称。DPEの呼び名は日本のみ通用するもので、英語ではPrint Serviceなどと呼ばれるのが一般的。

<プロフィール>

兒玉 公一郎(こだま こういちろう)教授
宮崎県北諸県郡高城町(現都城市)出身。
一橋大商学部卒業。一橋大大学院博士後期課程修了(商学)。明星大経営学部准教授を経て、2021年4月より本学。
著書『業界革新のダイナミズム:デジタル化と写真ビジネスの変革』(白桃書房、2020年)が、今年6月には「第37回組織学会高宮賞(著書部門)」、9月2日には「2020年度日本経営学会賞(著書部門)研究奨励賞」など経営学の各賞を受賞した。