【研究者紹介】
知識と論理的思考がもたらすインテリジェンス

危機管理学部 小谷 賢 教授

研究
2019年12月11日

スマホを捨て、書を持とう。現代人に必要不可欠な情報リテラシー

危機管理学において「情報」は非常に重要な価値を持つ。同学部の学生は災害マネジメント、パブリック・セキュリティー、グローバル・セキュリティー、情報セキュリティーの四つの分野を学ぶのだが、その全てに関わるのが「情報」だ。日本語では一口に情報と言うが、英語においてはインフォメーション、データ、インテリジェンスなど、これらの単語全てに情報という意味が込められている。

小谷 賢 教授

危機管理学部 小谷 賢 教授

「天気予報で気温、湿度、風向きといった言葉を耳にしますが、これらは情報分野においてはデータになります。天候に詳しくない人にとっては一つ一つのデータを見ても天気を予測することはできません。しかし、これらのデータを気象予報士が分析することで、明日の天気や降水確率を導き出すことができるのです。つまり、いくつかのデータが理論的な分析を経て、付加価値のついた情報になることをインテリジェンスと呼びます」

小谷教授がこの学問に出会ったのはイギリス留学中の大学院時代。イギリスやアメリカにおいて、インテリジェンスにはスパイ機関という意味も込められており、授業ではスパイ組織の歴史や実際のスパイ活動内容などに焦点を当てて展開される。帰国後、防衛省に入省した小谷教授は戦前から太平洋戦争終戦までの日本軍の情報活動について研究を行った。その成果を著書「日本軍のインテリジェンス」で発表し、同作品で山本七平賞奨励賞を受賞している。現在は戦後の日本のインテリジェンスについて研究中だ。

「日本はこれまで対外情報機関を持たないとても特殊な国です。もちろんアメリカの助力があってこそですが、これからはそうはいかないと考えています」

論理的思考を身に付ける

オープンゼミの様子

2018年7月のオープンゼミの様子。100人強の一般見学者の前でゼミ生が議論を行った

付加価値が必要なインテリジェンスを導き出すためには、正しい知識と論理的思考が不可欠だ。情報があふれる現代において、知識や思考を深めるためのデータはどこにでも転がっているが、しっかりと身に付けるためには本を読むことが一番の近道になると小谷教授は考える。

「本以外のツールは情報を右から左に流すなど単発になりがちで、その事象の背景や要因について考えるという過程を経ることが難しい。だから私のゼミでは、学生に年間10冊以上の本を読むことを義務付けています」

もちろん全ての情報源に利点はある。即時性を考えれば新聞、テレビ、ネットの方が優れているのは言うまでもない。要するに使い分けが大切になるのだが、その上でネットの情報、特にスマートフォンが論理的思考を養う弊害になると小谷教授は警鐘を鳴らす。

「スマホを片時も離さない人は多いですし、分からないことでもすぐに答えを出せます。しかし、その行為に慣れ過ぎてしまうと、思考力が奪われるのです。たとえ間違っていたとしても、自分なりの付加価値を付けようと考え、伝えることが重要なのです」

情報の価値

データやインテリジェンスに限らず、情報は大切だと皆が認識しているが、その本質が分からず、扱えない人はあまりにも多い。まずは経済における貨幣、政治における権力、産業における石油と同等の価値があると認識する必要がある。

「私の携帯電話はガラケーですし、SNSなどもほとんどやっていません。それはスノーデン事件、HUAWEI問題など、ネットの怖さを痛感しているからです。それでもSNSの情報から生き別れた家族が奇跡の再会を果たすといった幸せな事例もあります。つまり情報は人を幸せにも不幸せにもするのです」

セキュリティー意識を持ち、情報リテラシーを身に付けることが不可欠だと、小谷教授はこれからの時代を生きる全ての人に訴えているのだ。

危機管理学部
小谷 賢 (こたに・けん)教授

立命館大国際関係学部卒。英ロンドン大大学院修士課程、京都大大学院博士課程修了。
防衛省防衛研究所主任研究官、防衛大学校講師、青山学院大講師等を経て現職。
専門は国際政治学、インテリジェンス研究。著書に「イギリスの情報外交」「日本軍のインテリジェンス」「インテリジェンス」「インテリジェンスの世界史」「モサド」など。京都府出身。45歳。