今年は東京五輪イヤー
陸上競技部3選手が、仲間、目標、夢を語る!

北口(やり投げ)×橋岡(走り幅跳び)×江島(棒高跳び)

スポーツ
2020年01月15日

いよいよ今年は東京五輪イヤー。昨年ドーハで行われた世界陸上に出場した陸上競技部所属の北口榛花、橋岡優輝、江島雅紀の3選手に、スポーツ科学部に入学してから現在までの軌跡、競技との向き合い方、仲間に対する思い、五輪へ向けての目標などを語ってもらった。

昨シーズンは?

――昨年を振り返っていかがでしたか。

橋岡:総合的に見て少し、いいシーズンでした。世界陸上に出場して8位に入賞しましたが、悔しい気持ちの方が大きかったです。それでも次の東京五輪につなげるためには入賞しなくてはいけないと考えていたので、少し、いいシーズンという1年でしたね。

江島:僕にとっては復活できたシーズンです。1年を通して大きなけがをしなかったのは初めてでしたし、一昨年は記録が伸び悩み、棒高跳びに対する恐怖心が初めて生まれていたのですが、克服できました。結果的に諦めかけた世界陸上の切符も手にできてうれしかったですね。

北口:昨年は海外で長く過ごすというチャレンジをして、2年続いた苦しい状況からやっと抜け出すことができ、自分が思い描く競技人生の在り方に近づけた1年でした。日本記録を2度更新しましたが、狙った試合で結果を残すことができなかったので、満足はしていません。これからの課題が見えたシーズンでもありました。

北口榛花選手

北口 榛花(きたぐち・はるか)
スポーツ科学部競技スポーツ学科4年。1998年3月生まれ。北海道出身。旭川東高卒。自己ベストは2019年北九州陸上カーニバルの66m00(日本記録)。国際大会:16年U20世界選手権優勝。19年ユニバーシアード競技会2位。国内:第103回日本陸上競技選手権大会優勝(大会新)

――皆さんは他の2選手にどのような印象を持っていますか。まずは橋岡選手についてお聞かせください。

北口:頼もしいですね。後輩ですが、心配することはないですし、橋岡の試合を見て楽しませてもらっています。陸上はトラック競技がまだまだ人気ですが、これからのフィールド界を引っ張ってもらいたいです。

江島:日本選手権では3連覇、世界陸上で8位に入るなど、一歩先を行く存在です。有言実行の男で、自分の世界というか、常に明確な目標を持っているので、勝つべき試合でしっかり結果を出せるのだと思います。そしてとても真面目な人間です。

橋岡:真面目なのは“陸上に関しては”ですよ。改めて褒められると恥ずかしい(笑)。僕から見た江島はオンとオフがはっきりしていて、陸上も含めて全てを楽しんでいる姿が素晴らしいと思います。競技に関しては跳躍で悩んでいる姿を近くで見ていましたが、最後には世界陸上出場を決めましたし、能力の高さを証明してくれました。江島、北口さん、サニブラウン・ハキームなど、恵まれた世代の一員として大きな舞台にみんなで立てたのはうれしかったです。今後の江島にも期待しています。

北口:私もうれしかった。同じ大学で、さらにダイヤモンドアスリートとして活動できて心強いです。橋岡の言う通り、江島はオンオフの切り替えがとてもはっきりしていて、私はオフにするのが苦手なタイプなので、最近はちょっと見習い始めています(笑)。

江島:ありがとうございます。僕にとって北口さんは身近な存在ですが、日本記録を出していますし、背中を追い続けたい先輩です。尊敬しています。

北口:本当に? 2人は絶対に私のことを先輩だと思ってないですよ(笑)。

橋岡:いや思っていますよ(笑)。本当にすごい先輩で、日本記録を出した時にはみんなで興奮しました。ただ、世界陸上では満足できる結果でないのは分かったし、悔しい思いをしているだろうなと見ていました。悔しさがありながらも記録を出しているので、うまくかみ合い始めたらすごいですよね。今後を楽しみにしています。

世界で得たもの

――大学入学後、どのようなことを改善し、成長につなげたのでしょうか。

橋岡:高校の時は助走のスピードが遅く、ピットよりも100m走の方が速いという状態でした。入学後に森長正樹先生により良い体の使い方、特に助走スピードを上げるための大きな筋肉の使い方を教わりました。走ることはもちろん、入学後にウエイトトレーニングを本格的に始めたことで、助走スピードは上がり、結果にもつながっています。例えるなら高校時代に基礎となる骨格を作り、入学後に肉付けをしているということですね。

北口:私は大学入学時、マンツーマン指導で競技を続けていたのですが、途中からいろいろな人に話を聞き、そこから取捨選択をしていくというスタイルに変わり、このようなつながりが増えたことで今のチェコ人コーチに出会うことができました。また高校時代から助走が苦手で、一生懸命走らなくてはならないと考えていたのですが、今はどれだけ楽に走れるかを考えて取り組むようになりました。考え方が変化したのは、たくさんの方からアドバイスを頂けたからですし、苦手なことをプラスに捉えることができるようになったのは入学後の成長ですね。

江島雅紀選手

江島 雅紀(えじま・まさき)
スポーツ科学部競技スポーツ学科3年。1999年3月生まれ。神奈川県出身。荏田高卒。自己ベストは2019年上総走高跳・棒高跳記録会の5m71(日本歴代3位タイ)。国際大会:17年ユニバーシアード競技会4位。18年U20世界選手権4位。国内:第103回日本陸上競技選手権大会優勝

江島:僕は踏み切りが苦手で、そこから逃げているところがありました。その状態から踏み切りと向き合えたのは、橋岡や北口さんといった仲間やコーチが僕のことをしっかりと見てくれていて、「やらなきゃいけない」と思えたことが大きかったです。また以前は棒高跳びの選手や経験者だけに話を聞いていたのですが、橋岡など他の跳躍選手にもアドバイスを求めるようになりました。それで視野が広がり、練習はもちろん、人間的にも変わり、成長できた3年間でした。

橋岡:大学に入ってから海外遠征や合宿に行くことが多くなり、その中でいろいろなコーチに教えてもらう機会も増えたことで僕にも視野の広がりがありました。それからはグローバルな選手になれたというか、日本国内では収まらないところまで来ていると実感するようになりました。

――海外遠征や合宿を通して、外国人選手との違いを感じることはありますか。

橋岡:骨格的な部分でもちろん違いはありますが、それが直接強さにつながるとは思いません。日本人であれ外国人であれ、自分に合ったスタイルを確立している選手が結果を出せると考えています。どんなに体格や運動神経に優れていても、自分自身のスタイルを熟練させなければ世界で戦えないと思いますね。

北口:それとどんなに強い選手でも失敗するし、強い選手も自分たちと同じ人間なのだということに世界陸上や海外の試合に出場して気付きました。以前はTV画面で見ていて、そこは別世界と感じていましたが、実際に同じピットに立つと世界で戦う選手のいろいろな面を見ることができるので、それからは自分と変わらないと思うようになりました。

江島:同意見です。やっているトレーニングはそこまで変わらないし、日本人でもやれますね。

橋岡:画面越しに見ていたときはその舞台への憧れも強いですし、潜在意識で「この人たちはすごい」と思い込んでいたのだと思います。その点を払拭できたのは世界陸上に出場して得た収穫ですね。もちろん現時点で世界記録を狙える選手は、自分たちも含めた他の選手よりも確立したものを持っているとは思いますけど。

ライバルはだれ

――世界陸上を戦い、ライバルもしくは「すごいな」と感じた選手をあえて1人挙げていただけますか。

江島:スウェーデンのデュプランティス選手ですね。あのセルゲイ・ブブカ選手の世界記録を超えると目されている、史上最年少の6mジャンパーです。僕は6mを一つの目標にしているのですが、彼は10代でその記録を跳んでいますし、実際に跳躍を見て、僕が勝つには最低でも2、3年は必要だと痛感させられました。他の選手には壁を感じませんでしたが、彼は別格ですね。

橋岡:世界陸上で優勝したジャマイカのゲール選手ももちろん素晴らしいですが、3位のエチェバリア選手(キューバ)ですね。僕と同じ年齢で、世界陸上前のダイアモンドリーグでは8m65を跳んでいます。同い年であるからこそ、もし僕と同じペースで成長されてしまったら、それは大きな脅威ですよね。

北口:私にはそのような選手はいません。中国選手の安定感は素直にすごいと思いますが、自分もそのレベルにかなり近づいたと感じていますし、今の女子やり投げに突出した選手がいないというのもあります。2人が挙げた選手は私も知っているけれど、やり投げで誰が強いか分からないでしょう?

江島:確かに分からないですね。

――海外遠征や試合で得たこと、苦しかったことはありますか。

北口:世界陸上が終わってから多くの国のコーチに励ましていただいて、世界とつながれていると感じ、海外遠征にたくさん行って良かったと思いました。あとは海外の試合に多く出場したことで、世界陸上のピットにはたくさんの友人がいて、臆することなく試合に臨めたのもプラスになっています。つらいのは、言葉ですね。今の拠点がチェコの田舎で、チェコ語とドイツ語が話されています。どちらもまだ話せないので、チームのみんなで食事に行って勢いよく話されると全く分かりません。おしゃべりが好きな私にはちょっとつらい。あとは遊べるところが少ないとかですかね。

橋岡 優輝選手

橋岡 優輝(はしおか・ゆうき)
スポーツ科学部競技スポーツ学科3年。1999年1月生まれ。埼玉県出身。八王子高卒。自己ベストは2019年アスリートナイトゲームズイン福井の8m32(日本歴代2位)。国際大会:19年世界陸上競技選手権ドーハ大会8位、アジア選手権優勝。国内:第103回日本陸上競技選手権大会優勝(3連覇)

橋岡:それはよく分かります。錦織圭選手を輩出したアメリカのIMGアカデミーに1カ月滞在したのですが、徒歩圏内にスーパーが一つしかなくて、練習にしか打ち込めない環境は苦しかったです。得たことは、海外の指導法に触れることで引き出しが増えたことですかね。

江島:主な遠征先がアメリカで確かに移動が大変というのはあるけれど、他に苦しいと思うことはないかな。でもそれは言葉ができるようになったのも大きいです。言語が競技にもつながっていて、英語ができないときは聞きたいことも聞けず、やはりつらかったです。今では1人でも海外遠征に行きますし、オフの時間も楽しんでいます。

橋岡:江島はディズニーランドが好きなので、アメリカでもオフのときに行っていますよ(笑)。

江島:アメリカでは3回行きました。東京は年間パスポートを持っています(笑)。でもそれがあるからこそ厳しい練習にも耐えられます。走りながらディズニーのことを考えて笑ってしまうことがあります。

橋岡:それは知らなかった(笑)。

江島:自分でも気持ち悪いと思いますが、そうすることで練習が楽しくなるし、メンタルを保つこともできていると思います。

北口:厳しい練習はきついからこそ楽しくやりたいよね。それは私も心掛けています。ご褒美にスイーツを食べるとか。試合中に緊張でうまくいかなくなったらリセットするために甘いものを食べます。昨シーズンはカステラでした(笑)。

橋岡:小さなことですけど、つらい練習の後にいつもより少しだけ高いご飯を食べるとか、甘いものを食べるとか、そういったご褒美があると思えば楽しくなります。

江島:それでなくても橋岡はメンタルが強いよね。

橋岡:自分でも芯があると思っているし、ブレないと思います(笑)。自分が楽しくてやっている陸上なので、プレッシャーも感じません。試合は選手の強さや周囲の期待が変わるだけで、記録会でも世界陸上やオリンピックでもパフォーマンスを最大限引き出すことが一番重要なのは変わらないし、何より自分が楽しむというのは一貫しています。世界陸上のときにはワクワクしかなかったです。

北口:そうだね。今後タイトルを取ったらプレッシャーを感じたり、変わることがあるかもしれませんけど。

――最後に東京オリンピックでの目標を教えてください。

江島:2人とは違い参加標準もクリアしていないので、オリンピックの決勝で戦って入賞というのが、僕にとって必要なことだと思っています。まずはこの冬しっかりトレーニングに励みます。

橋岡:僕はメダル獲得です。金を狙う気持ちはもちろんありますが、年齢のことなどを考えると競技人生のピークはその先のパリやロスになると思うので、まずはしっかりと自分の力を出し、色にはこだわらずにメダルをもらって自信をつけたいです。

北口:同じくメダル獲得が目標です。出場できるだけでうれしいことですが、どうせやるならメダルが欲しいですし、それが可能な位置まで自分のレベルが上がった自信があるので、その日に向けて準備をしていくだけですね。