日本大学×日大豊山
“桜”のプールから、世界へはばたけ!

~第3回・日大の誇る中高大連携・そして未来へ~

スポーツ
2019年12月23日

令和元年、日本大学豊山高等学校水泳部はインターハイの男子総合において3年連続10回目の優勝を果たした。

それに触発されたのか、日本大学水泳部もインカレの男子総合で12年ぶりに37度目の優勝を飾った。2位に大差をつけての覇権奪還は「水の覇者」復活を大きく印象付け、その中心には豊山高出身の吉田惇哉、関海哉、吉田啓祐がいたことも特筆すべきことだろう。

昭和38年にインターハイで初優勝してから半世紀以上の長きに渡り日本高校水泳界のトップに君臨する日大豊山水泳部。その強さに秘密を探るため、井上敦雄元監督、上野広治元監督(現・日本大学水泳部監督)、竹村知洋監督に迫った。

※全3回に分けてお送りいたします。

中高大連携

——ここまで豊山の話を中心にうかがってきましたが、ここで大学の水泳部について、お聞かせください。現在水泳部には何人が在籍しているのでしょうか?

上野広治日本大学水泳部監督の画像

上野広治日本大学水泳部監督

上野:大学の水泳部には128人が在籍し、寮では70人が生活をしています。寮の敷地内に50mと室内プールの2つがあり、1年中泳げる環境がありますね。また寮の近くにはスポーツ科学部もありますので、流水プールなどの最新鋭の機器でトレーニングすることも可能です。

——流水プールとは?

上野: 最大秒速2.4mという世界記録以上に速い水の抵抗を作ることができる施設で、通常のプールよりも高い負荷をかけてトレーニングができます。日本のナショナルトレーニングセンターにもこのような施設はありません。付属高校生も定期的に使用しています。

——そのような素晴らしい施設も今年のインカレ男子総合優勝につながっているのですね

上野:はい。付属高校では男子は豊山、女子は藤沢が総合優勝をしていますし、豊山中も全中で好成績を残すなど実力をつけてきていたので、真に「水の覇者」を復活させるには大学の総合優勝が不可欠であると考えていました。2位の明治大に100点以上の大差をつけて優勝できましたからね、安堵したというのが正直な気持ちです。女子は昨年を上回る5位に入り、2年連続でシード権を獲得してくれましたし、来年は男女ともに総合優勝を果たしたいですね。

——藤沢高など、豊山以外の付属校にも有力な選手がたくさんいらっしゃると聞いております。他の付属校との交流はどうされているのでしょうか?

上野:主に毎年6月に行われる日本大学体育大会ですね。ここで付属高校だけの対抗戦が実施されているので、優秀選手をピックアップしています。またゴールデンウィークの大学強化合宿に高校生も参加していますね。豊山もこの大会で他の付属校と会って情報交換などをしているよね?

竹村:そうですね。付属校の水泳部顧問はあまり変わりませんし、日本大学体育大会ではもちろん、別の大会でも切磋琢磨しています。

井上:大学の総合優勝というのは付属校に有利に働きますよね。付属校で鍛えて将来日大でできるという先が見えれば選手にとってもモチベーションになりますから。豊山中の選手は強いですが、全員入試を突破して入学してきます。中学から大学まで強い水泳部でできるというのは、競泳を志す者にとっては魅力的でしょうし、中学受験を頑張れる要素になりますよね。

——中高大の連携ということですね。強い大学があるからこそ、強い中学、高校も作れているということでしょうね。そして、みなさまのように素晴らしい指導者がおられてこの強さが維持できているということですね。

井上:もちろん指導者は大事ですが、マネージャーの存在が大きいですよ。選ぶのも一番苦労します。いいマネージャーがいる年は間違いなく強いですから。

——なるほど、マネージャーはどのように選ばれているのでしょうか?

竹村:今はBチームから選出することが多いですね。

井上:我々は授業も会議もあるのでね、練習に立ち会えないときもあります。だから選手を管理するマネージャーは、ときには監督、ときにはキャプテンのようにチームをまとめられる存在でなければいけません。総合優勝を果たしたときには祝賀会で必ずマネージャーを表彰し、OB会から記念品を贈呈しますよ。選手は試合に勝てば賞状やメダルをもらえますが、マネージャーはもらえませんからね。

——学生時代にその職を務められていた上野先生が考える、理想のマネージャー像を教えていただけますか?

上野:平等に人や物をとらえることができ、気配り・目配りができる生徒が向いていると思いますが、一番は水泳が好きということでしょう。水泳だけでなく、何かをサポートする立場にある人にとって大事なことは、その物事が好きで、情熱を持って取り組むということではないでしょうか。

指導から得た教訓

——これまでの指導歴で印象に残っていることは、どんなことでしょう?

竹村:私はインターハイの総合優勝ですね。コーチ時代に3回、監督として4回の優勝は全て印象深いですが、その中でも平成23年と平成29年は特別な思いがあります。どちらの年も豊川高校と優勝を争い、800mリレーで勝負が決まりました。

井上:平成29年は今も続く3連覇の最初の年で、800mリレーの700mぐらいのところで初めて勝ちを確信したという大逆転劇だったね。

竹村:はい。この2つの総合優勝は一生涯忘れない記憶として残ると思います。

——上野先生はいかがですか?

上野:北京オリンピックに柴田隆一と佐藤久佳が選出されたことです。佐藤は400mメドレーリレーで銅メダルを獲得しています。高校時代の佐藤が何度も寮を抜け出し、実家のある北海道に帰ったことも思い出深いですね。

井上:佐藤は私にとっても印象深い選手ですね。コーチたちから「もう北海道に帰しましょう」と言われてね、それでも根気強く指導して、本人も次第に学校にも寮にも慣れてくれた。高校最後のインターハイでは200m個人メドレーと400mリレーで優勝しましたよ。日大進学後には日本人選手として初めて100m自由形で50秒切った選手になりました。

上野:あれはうれしかったですね。

井上敦雄元監督の画像

井上敦雄元監督

井上:あとは長谷川誠も忘れられないね。この子は中学時代日常生活がいい加減で親も中学の先生も心配していて、入学前に豊山の練習に参加していたのですが、この練習もサボるんですよ。しかも何日も。入学前にあれほど選手を怒ったことはありませんね。長谷川はそれぐらい、いい加減な性格だったため、学校に通える距離に住んでいましたが、親の希望もあり、寮に入れました。勉強も練習も1年間まじめにすれば、自宅通学を許可するという条件で。

——そういった選手もいらっしゃったのですね

井上:しかし、それからの練習態度は別人のようでした。結果的に高校3年生のインターハイでは個人メドレー上位入賞、400mメドレーリレー優勝、800mリレーは日本高校新記録で優勝しました。

——井上先生はその2選手が印象深いということですね。

井上:はい。2人から、その後の選手育成あるいは一般生徒の指導に大きな教訓を得ました。学校の先生は選手や生徒が多少失敗しても絶対に諦めてはいけない、根気よく指導すれば立ち直る可能性は十二分にあるということを知らされました。ただ、それには親にも私の指導や意見を理解してもらう必要がありました。一方的に子どもの主張することを受け入れるのではなく、親が愛情と厳しさを持って子どもに接するということですね。学校と家庭が絶えず連絡を取り合い、両方から子どもの指導をすることが大切なんですよ。ですから私は「学校と家庭の二人三脚=連携」を教育方針の1つとしています。

——それは素晴らしい方針ですね。他に何か印象に残っていることはありますか?

井上:昭和57年の鹿児島インターハイですね。当時の豊山はライバル校と比べても実力が抜きん出ていました。そのような状況で全日本ジュニアチームのコーチ要請を引き受け、アメリカへ行きました。帰国はインターハイの2日前だったのですが、戦力分析した結果、問題ないだろうと。

——それほどに自信があったということですね?

井上:はい。しかし、帰国してすぐに鹿児島に行き、選手を見て愕然としました。体は痩せ、表情がなく、目だけがギョロギョロしていてね、完全にオーバーワークでした。

——コーチが日本にいて指導をされていたんですよね?

井上:もちろんです。しかしコーチの責任ではなく、私の責任でした。なぜならこの期間の練習メニューは私が全部作り、コーチはその通りに実行しただけですから。

——試合結果はどうでしたか?

井上:最後の最後まで苦しめられ、最終日の最終レースの800mリレーの最後の100mでようやく優勝を決めることができました。私の監督歴の中でこの経験は大きく、それ以降は優位な立場にあっても油断せずに気を引き締め、戦力的に劣っていても絶対にあきらめるなと選手に強く言い聞かせました。

上野:ミーティングでよく鹿児島のインターハイについておっしゃっていましたね。

井上:それと練習メニューに計画性が必要なのは当然ですが、絶えず選手の表情・体調を観察し、臨機応変に作らねばならないということも思い知らされました。

豊山・日大の未来

——東京オリンピックもいよいよ近づいています。先生方が注目している選手を教えてください。

竹村知洋監督の画像

竹村知洋監督

竹村:2人に注目していて、1人目は日大1年の吉田啓祐です。啓祐は2019年の日本選手権、400m自由形を制していて、筋肉の動かし方が大変優れている選手です。2人目は日大2年の関海哉で、2019年日本学生選手権、100m自由形で優勝しています。関は筋肉の質がよく、柔軟性に大変優れています。

上野:私もその2人に期待しています。あとは本学1年の石川愼之助ですね。インカレの100mバタフライで学生新記録となる51秒11という記録を打ち出しました。これは日本記録に0秒11差に迫るタイムです。

井上:2人の言う選手たちに私も期待していますよ。

——私たちも3人の選手に注目したいと思います。では次が最後の質問になります。豊山、日大の未来についてうかがいたいのですが、今後何か新たに取り組むべき課題はありますでしょうか?

竹村:課題があれば可能な限り改善するようにしていますので新たにということはありません。これまでの日大豊山水泳部に受け続けてきた伝統を継続していくことです。その伝統とは「学校体育」の一環としての水泳部であり、それは「55の教え」に基づいています。

上野:中高大の総合優勝、有望な選手のリクルート、インティグリティ教育の充実ですね。竹村の言う通り、これらは新たなことではなく、常日頃から心がけていることです。

井上:2人の意見と同じです。ただ以前と違い社会も家庭も指導やしつけという部分においては、甘いと感じることが多くなってきています。その点を考え、これまで同様もしくはそれ以上に絶えず選手とコミュニケーションを図らなくてはなりません。欠点を指摘するだけでなく、長所を強調して自信を持たせてあげる、目標に向かうモチベーションを下げないために細かくゴールを設定するなど、選手に信頼される指導者であろうとすることが一番でしょうね。

——ありがとうございます。これからも皆様のご活躍を期待しております。