主張
  モノからヒトへのグローバルスタンダード化
   副総長(学務担当,工学部長) 小野沢 元 久 氏(おのざわ・もとひさ)


 国際化時代を迎え,日本の高等教育は大きな転換期にある。経済のグローバル化が進む中で,企業が国際的に活動する際に国際標準化機構(ISO)認定を求められるように,個人にも国際的に通用する資格が必要な時代を迎えた。日本の高等教育は,このような国際的流れの中で,いかに国際競争力を身に付けた人材を教育していくかが,重大な課題となっている。
 これまでの日本における高等教育は,専門職業人の養成としての基礎よりも,むしろ学問的な基礎に重点が置かれていた。限られた地域(国内)の企業を対象に,終身雇用という契約条件の下に人材を供給する「地域限定素材供給型」の教育であった。企業は受け入れた素材を徹底した社内教育システムで磨き上げ,社内向けの実務者に育ててきた。したがって企業は,育てやすい人材を要求するようになり,大学で何を学んだかというより,どういう偏差値の大学で学んだかを強く問うようになり,結果として過激な大学受験競争を煽るようになった。
 このような大学と企業との分業体制は,戦後の日本の高度成長を支えた,効果的な社会の仕組みとして定着し,評価されてきた。従業員は個人としてよりも,企業戦士としての役割を全うすることを使命とし,企業の看板と信用が個人の信頼につながっていた。そして,あらゆる点で企業体の保護のもとに置かれ,雇用形態は,就職というより「就社」であるといえる。したがって,倒産や合併などが起こればそれまでの組織でのみ通用したスキルがほとんど役に立たなくなるというリスクに見舞われる。
 ここにきて,産学官の連携に暗い影が差し込めてきた。産業社会のボーダレス化が進むと共に,企業間競争が厳しくなり,企業は即戦力となる優秀な従業員を求め,また従業員はより待遇の良い企業を求めるようになり,人材の流動化が進行しつつある。かつての社会の仕組みは次第に崩れ,高度な専門性を身に付けた個人の能力が重視され,具体的な評価基準が必要とされるようになった。
 このような背景の中で,工業製品だけでなく,職能資格のグローバルスタンダードに対する社会のニーズが高まっている。この資格は特定分野のスペシャリストとしてのキャリアを形成し,その道のプロとして生きてゆけるもので,まさに「就職」である。
 例えば技術者の分野で,その中核とされるのが,米国のエンジニア資格プロフェッショナルエンジニア(PE)である。この資格は単に技術力だけではなく,倫理やマネジメントも含めた総合能力を客観的に評価した資格として世界的に認知され,米国では弁護士や公認会計士と並ぶ高いステータスを得ている。
 日本の企業が海外で事業を展開する上で,技術者にPE資格が求められるようになったのは当然であり,日本の工学教育はこの現状を避けて通れない。これからの工学教育は,より一層国際整合性を高め,教育プログラムの標準化と認定化に向けて努力することが,緊急の課題であり,国際化時代の新しい教育への挑戦でもある。(副総長=学務担当,工学部長)

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