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や行

かぼちゃと風船画伯

 著者は日本大学芸術学部中退のノンフィクション作家。本書は、棟方志功とともに版画界で「2人の天才」と言われた谷中安規(1897-1946)の生涯を描いている。
 谷中は旧豊山中学出身で、本学ともゆかりがある。幼くして実母を亡くし、継母にも疎んじられて育った薄幸な生い立ちの谷中は、結婚もせず、貧乏にもめげずひたすら絵を描き、版木を彫るという生き方を貫いた。住んでいた東京の3畳のアパートを空襲で焼き払われた。焼け野原にバラックを建て、かぼちゃの種を蒔き、訪れた人々に「おかぼちゃ様のお陰で生きられる」と繰り返す。
 風のように現れ、風のように去っていく奇妙な版画家と言われた。日夏耿之介、佐藤春夫、内田百閒らの評価と知遇を得た。しかし、栄養失調で力尽き、49歳で世を去った。ゆかりのある人やファンは命日を「かぼちゃ忌」と呼んで偲んでいる。
書籍名 かぼちゃと風船画伯
著者名 吉田和正・著
月号 1999年冬季号 No.78
価格 1,800円(税別)
出版社情報 東京都千代田区大手町1-7-1、読売新聞社