教授座談会

広い視野と専門性を兼ね備えた危機管理のエキスパートを社会へ

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理論と実務の融合を実現する教育環境

福田:本日は、来春開設される危機管理学部で教鞭を執る4名の教員が集まりました。まずはそれぞれの先生が専門とされる研究分野についてご紹介ください。
安藤:私の専門分野は国際法です。個人の国際犯罪の処罰に関心を持ち、国際テロリズムへの法的対処として、国際法がいかにテロリストを逃がさないという枠組を構築してきたかを研究しています。戦争犯罪や近年ソマリア沖での増加が問題となった海賊行為なども研究対象です。
河本:私は警察庁関連の民間研究機関で、危機管理、組織犯罪対策、邦人の海外における安全対策などの研究に携わってきました。とりわけテロ対策を専門とし、世界のテロ組織の戦略・戦術を分析しながら、国内でどんな対策が講じられるべきかを研究しています。緊急事態が発生した際に、被害を最小限に抑えるための手法も大きな研究テーマで、テロや大規模事故の被害者を救護・搬送するための警察・消防・医療機関・自治体の連携や、平時からの準備・訓練のあり方についても考察しています。東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けてセキュリティ強化が急がれていますが、そのためにはまずいかなる脅威が存在し、現状の対策にどのような脆弱性があるかを把握しなければなりません。そうしたリスク評価の手法もまた、私の研究領域の1つです。
工藤:私は国内外の航空法を専攻しており、航空機事故の遺族救済のあり方などを研究してきました。2001年にアメリカで起きた同時多発テロが物語るように、航空機はテロに利用される可能性があることから、最近はテロリストに関する情報を各国が共有する体制の構築に関する研究も進めています。小型無人航空機ドローンの運用をめぐる法整備や、東京五輪を見据えての安全規制についても検討しています。
福田:私は災害から大規模事故、テロ、戦争・紛争、情報セキュリティまで、危機管理学全般を研究対象としています。近年は南海トラフ地震や首都直下型地震が懸念されることから、自治体や企業の防災対策や、住民の避難行動に関する研究にも力を注いでいます。
この危機管理学部には、ほかにも危機管理に関する多様な分野を研究テーマとする教員が結集します。研究を専門的に行う「研究者教員」と、豊富な実務経験を持つ「実務家教員」がバランスよく集まり、危機管理学を理論と実務の両面から学べるのが特色だと思います。

オールハザードの教育で社会の要請に応える

福田:この学部が開設される背景として、現在の日本には危機管理をめぐるどのような問題があると思いますか。
河本:さまざまなリスク要因の増大を受け、警察・消防・自衛隊のみならず、自治体や企業などでも災害や情報セキュリティなどに対応する体制づくりが迫られるようになりました。しかし日本にはこの分野を体系的に学んだ人材が乏しく、担当の部署に配属された人は、そこで初めて危機管理について勉強するのが実態です。日本の危機管理体制全体の底上げを図るには、大学で危機管理学という学問を構築し、専門知識やスキルを持つ人材を輩出することが喫緊の課題だということです。
安藤:日本人が海外で危機に遭遇する可能性も高まっていますし、いまやあらゆる危機が容易に国境を超えてやってきます。世界で発生している難民や移民の問題とも、日本は今後無関係ではいられないでしょう。そうしたことを考えると、危機に対応するための基本的な知識をしっかりとした学問体系のなかで学んでいくことは非常に有用ですし、社会に出たときにさまざまな局面で役立つはずだと思います。
福田:グローバリズムの拡大がリスクを増大させているということは、アメリカで起きた同時多発テロ以降、特に痛感させられます。テロに限らず、新型インフルエンザの感染拡大といった問題も深刻になっており、多様化する危機にオールハザードの視点で対応することが求められるようになったといえるでしょう。
工藤:私が専門とする航空法には、危機管理学部の専門科目の柱となる「災害マネジメント」「パブリックセキュリティ」「グローバルセキュリティ」「情報セキュリティ」の4領域が反映されています。現在は日本大学法学部で航空法をゼミナールのテーマにしていますが、その学生たちの就職状況は非常に良好です。その理由として社会のニーズにマッチしているからだと考えています。たとえば、動きが早い危機管理への対処法を追いかける積極性や、問題解決をするための思考力が鍛えられること。また、航空法の研究素材は英文の資料が中心なので、語学力やグローバルな視野も養えます。危機管理学部に設置される専門科目群はいずれもそうした側面を持つので、安藤教授の弁にもあった、「社会に出て役立つ能力」をしっかりと身につけることができるはずです。

法学教育をベースにリスクリテラシーを涵養

福田:危機管理学部で展開される教育の特色として、どんなことが挙げられますか。
工藤:危機管理学部の卒業生には、法学の学士号が与えられます。日本法律学校を起源とする日本大学では、百数十年にわたって法学教育を行ってきた歴史があり、危機管理学部でもリーガルマインド(法的思考をする姿勢)が重視されます。リーガルマインドとは、事実を見極めてこれにルールを的確に当てはめて、合理的な結論に導く論理的思考をいいます。危機管理学部においては、いわば建物の1階部分が法学教育、2階部分が危機管理に特化した教育だということができるでしょう。危機管理関連の専門教育課程では、社会に存在する脅威を、前述した「災害マネジメント」、「パブリックセキュリティ」、「グローバルセキュリティ」、「情報セキュリティ」の4領域に大別し、法学教育を土台としながら、各領域のリスクリテラシー(リスク管理に必要な情報を収集・分析し、活用する能力)を養成していきます。
河本:あらゆる危機管理は、法律に基づいて行われます。つまり危機管理を実践するには関連する法律を理解・解釈し適用することが欠かせませんが、危機管理と法律を合理的に連携させるノウハウを持つ人材が少ないため、これまでは震災発生時に法律を適切に活用できず有効な対策が打てないといった状況が見られました。だからといって超法規的に対応できるものではありませんから、危機管理に携わる人材には、バックボーンとして法律の知識とともにその趣旨を理解して適切に運用できる能力を備えていなければならないのです。

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きめ細かな教育で有為な人材を社会へ送り出す

福田:そうした法学教育をベースとして、2年次からは各学生が希望する進路に応じて「行政キャリア」または「企業キャリア」を選択し、4領域から自身の将来に必要な知識を身につけるための科目を履修しながら専門性を深められるのも本学部のカリキュラムの特長です。
工藤:文系・社会科学系の学部の多くはゼネラリスト養成に重きが置かれていますが、この危機管理学部は社会科学系でありながら、スペシャリストやエキスパートを養成しようとしています。危機管理の分野は特殊で社内養成が難しいといわれるため、本学部で学んだ学生は、入社時から危機管理セクションの中核メンバーとして活躍することが期待されるわけです。
河本:「行政キャリア」の履修者の具体的な進路としては、警察官や消防吏員などの公務員が想定されます。一方の「企業キャリア」の履修者は、ありとあらゆる分野の民間企業に就職する道が開かれるでしょう。災害、事故、情報セキュリティといった観点からだけではなく、最近の企業はコンプライアンス(法令順守)の意識を強めていますし、さまざまな不祥事に的確に対応することも求められています。海外に進出する企業では現地の安全対策強化の重要性が増すなど、多面的なリスクマネジメントが求められており、これまで日本の大学ではそのための人材があまり育成されてきませんでした。私は実際に多くの企業の方から、危機管理に携わる人材が不足しているという声を聞いており、この学部の卒業生に対する期待の大きさを肌で感じています。
安藤:社会からの要請もあり、これからは危機管理の現場に多くの女性が進出することが望まれるでしょう。たとえば被災地の避難所で活動する警察官や消防吏員は男性が主体であることが多いため、女性や乳幼児のいるお母さんへの細かな配慮までは、なかなか気が回らないといった面があります。行政機関でも企業でも、女性ならではの視点での危機管理が求められていますから、ぜひ多くの女子学生にもこの学部で学んでもらいたいと思います。また、日本人が海外で危機に遭遇するだけでなく、日本国内で外国人が何らかの危機に巻き込まれるという事態も想定されますから、今後は危機管理能力と併せて、語学力も備えた人材が特に重用されるはずです。本学部では英語に加えて中国語や韓国語を履修できますから、語学力の研鑽にも力を入れられます。
河本:3年次にインターンシップに参加できるよう、警備会社、情報セキュリティ会社、危機管理コンサルタントなどを始めとする企業との協力体制も整えています。大学で学んだことを危機管理の現場で実践し、そこで得た知見や課題を学部に持ち帰ってさらに学びを深めることを通して、より高い教育効果が期待されます。
工藤:ゼミナールを始めとする少人数制の演習科目が豊富に設けられるのも特色といえるでしょう。また、公務員志望の学生には、日本大学の公務員試験支援センターと連携するほか、危機管理学部独自の講座も設けるなどして、万全のサポートを行う予定です。日本大学法学部では選抜制の研究室が設けられ、仲間同士が切磋琢磨することで自らを高めていますが、危機管理学部でも、勉学へのモチベーションをアップさせるためのそうした取り組みを用意する構想があります。

多様な経験を通じて人間力を高めることも大切

福田:最後に、危機管理学部を志す受験生の皆さんに、充実した4年間を過ごすためのアドバイスをお願いします。
安藤:いかなる種類の危機であれ、危機管理に携わる人にとって不可欠なのは、1人ひとりの人間を守るという視点です。そうしたことも意識しながら、人間性を高めつつ、危機管理について学んで欲しいと思います。大学時代は無限の可能性のかたまりであり、また実社会の一員として本格的な一歩を踏み出す入り口でもあります。危機管理を学ぶ仲間たちとともに人間力を育みながら、多様な経験もすることが大切です。
工藤:本学部では演習系の科目を充実させていますが、ここでは主体的に臨むことが求められます。そういう環境のなかで、将来の目標に向かって貪欲に学んで欲しいですね。だからといって勉強一辺倒ではなく、キャンパスライフを謳歌することも重要で、三軒茶屋という地の利を生かして、大いに楽しんでもらいたい。サークルやイベントなど、学生生活を豊かにするための要素も、できるだけ多く提供したいと考えています。
河本:キャンパスの置かれる世田谷区や警察署、消防署などとの連携を図り、学生が救命講習を受けたり、地域の防災や防犯の取り組みに参加したりできる体制も構築する予定です。実際に地域でどのような危機管理が行われているかを知り、そこにどのような課題があるかを考えることで、座学だけでは得られない多くのことが学べるでしょう。危機管理学部が地域にとっても大切な資産となり、区民の方たちから頼られる存在になるよう学部をあげて取り組んでいきたいと考えています。
福田:危機管理学は新しい学問分野で、この学部創設は日本大学にとってもチャレンジングな試みですので、世界で広く貢献できる学部にしていきたいと思っています。

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福田 充 教授
ふくだ みつる

東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。専門は危機管理学、リスク・コミュニケーション。内閣官房委員会委員、コロンビア大学戦争と平和研究所客員研究員などを歴任。日本マス・コミュニケーション学会会員、警察政策学会会員など。著書に『メディアとテロリズム』(新潮新書)、『テロとインテリジェンス〜覇権国家アメリカのジレンマ』(慶應義塾大学出版会)、『リスク・コミュニケーションとメディア』(北樹出版)など。現日本大学法学部教授、日本大学大学院新聞学研究科教授。博士(政治学)。

安藤 貴世 教授
あんどう たかよ

東京大学教養学部教養学科国際関係論分科卒業。東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻博士課程単位取得退学。専門分野は国際法。個人の国際犯罪の処罰に関する研究などを中心に行っている。博士課程在籍時には、2002年に日本政府代表随員として、国連本部にて開催された国際刑事裁判所(ICC)準備委員会および締約国会議に参加し、2006年より3年間、外務省に任期付職員として勤務。現日本大学国際関係学部准教授、日本大学大学院国際関係研究科准教授。博士(国際関係)。

河本 志朗 教授
かわもと しろう

同志社大学経済学部卒業後、山口県警察官。外務省出向、警察庁警備局を経て、1997年より公益財団法人公共政策調査会で国際テロ対策や危機管理などの調査・研究に従事。2011年より科学技術・学術審議会専門委員(安全・安心科学技術及び社会連携委員会)。2015年より日本大学総合科学研究所教授。専門はテロ対策、国際テロ動向。著書に『テロ対策入門』(亜紀書房・共著)。

工藤 聡一 教授
くどう そういち

日本大学商学部卒業。駒澤大学大学院法学研究科博士課程修了。近畿大学法学部助教授、日本大学法学部准教授、インディアナ大学ロースクール客員研究員等を歴任。主著に『航空宇宙法の新展開』(八千代出版、共著)、『新航空法講義』(信山社、共著)。現日本大学法学部教授、日本大学大学院法学研究科教授。博士(法学)。


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