“飛込"という競技を「かけがえのないパートナーのようなもの」と話す伊藤選手。2020年東京五輪が決まった当時、中学2年生だった伊藤選手は「絶対に自分がそこに出るんだ」という強い思いがあったという。その後、JOCエリートアカデミーにも所属して、競技力と共に人間力も磨きながら、3m飛板飛込を本命種目として着実に成長してきた。だが、2019年、所属クラブから言われ、経験豊富なベテランの村上和基選手(三重県スポーツ協会)とペアを組み、シンクロ種目でも五輪出場を目指すことになった。「高飛びはさほど得意ではなかったので、村上選手にくらいついていけるように必死に練習しました」
伊藤・村上組は2019年4月の日本室内選手権で優勝、9月の日本選手権でも2位となり、五輪代表が現実味を帯びてきた。しかし、東京五輪の延期が決まると「最初の頃は心の行き場を失っていました」。自粛期間中は村上選手と一緒に練習することもできなかったが、「気持ちを切り替えて頑張ろう」と励まされ、「少しずつ五輪への思いを前面に出して調整した」と努力を重ねてきた。

「全力で挑戦する姿勢があれば、結果はついてくると思う」と力強く語った伊藤選手。得意としていた3m飛板飛込はミスもあって不本意な成績に終わり、「悔しいとしか言いようがない」。


2021年5月、飛込の五輪世界最終予選を兼ねたW杯東京大会が2週間延期の後に開催された。シンクロ高飛込は6本の試技を行い、それぞれの演技点・同調点と技の難易度から算出される得点の合計で競い合う。 ※男子の場合
大会初日、予選に挑んだ伊藤・村上組は、4本目を終え全体5位につけていたが、5本目の試技(後宙返り3回半抱え型)で「2人ともオーバー(回転しすぎ)してしまった」と乱れ、得点を伸ばせず一気に10位まで落ちた。決勝進出の条件は12位以内。最後の試技の前に「落ち着いて飛ぼう」と村上選手から声を掛けられた伊藤選手は、「点数を気にせず、自分のできる最高の演技をしよう」という気持ちで飛込台に立った。6本目もミスが出て得点を伸ばすことはできなかったが、全体では11位に入って決勝進出を決めた。
「宙返りを多くして体をコントロールし、まっすぐ入水できるように」と修正して臨んだ決勝も、2本飛んで3位と好スタートを切ったものの、その後の試技が乱れて最終順位は12位と悔しい結果に。「入水のツメが甘かった」と反省した伊藤選手は、「練習で調子が良かったので、本番でもっと上手く決められたんじゃないかと悔しさがあります」。
大会後、選考結果を待つ数日は「きわどい順位だったので、不安な気持ちでいっぱいでした」と言うものの、世界と戦える力を証明したことが評価され、開催国枠で伊藤・村上組がシンクロ高飛込の代表に内定した。
「入水のキレは重要なポイントなので、水しぶきの量にはこだわっていきたい。それぞれの演技の質を高め、2人のシンクロ性と成功率を上げることで、上位に食い込みたいですね。W杯では12位でしたが、ベスト6に入れる演技を持っていると思うし、全力で挑戦する姿勢で演技をすれば、結果もついてくると思います」と五輪に向けて抱負を語った伊藤選手。「コツコツが勝つコツ」という言葉を大切にしているそうで、「高校生の頃からコツコツ下積みをしてきたことが、五輪につながったと考えています。昔からの夢の舞台に出られるのはとても光栄ですし、結果を残して両親に恩返しできたら…」と、最後は爽やかな笑顔を見せた。

プロフィール

Hiroki ITO ​[いとう・ひろき]

文理学部4年
1999年生まれ。神奈川県出身。帝京高卒(JOCエリートアカデミー8期生)。JSS宝塚所属。小学1年生の時にダイビングチームに入会し、飛込を始める。中学1・2年の時に飛板飛込で全国JOCジュニアオリンピック大会を連覇。'18年日本学生選手権の3m飛板飛込・10m高飛込で優勝、'19年日本室内選手権シンクロ高飛込優勝、'20年の日本学生選手権でも3m飛板飛込優勝。'21年5月のW杯東京大会の成績により、シンクロ高飛込での東京五輪代表が内定。