東京2020オリンピック競技大会 柔道女子・78㎏超級
金メダリスト 素根輝選手

素根選手素根選手
勝利の瞬間、その瞳にあふれ出たものは、念願のメダルに勝るとも劣らず輝いていた――。
東京2020オリンピック競技大会の柔道女子・78㎏超級決勝において、本学の素根輝選手(スポーツ科・1年)は世界ランキング1位のオルティス選手(キューバ)との激闘に勝利し、女子最重量級では2004年アテネ大会以来の金メダルを獲得。さらに新種目の男女混合団体戦でも日本チームの銀メダル獲得に貢献した。
「必ず金メダルを獲ります」と誓って臨んだ東京五輪、その戦いを振り返りながら、金メダルを手にした今の思いを語ってもらった。
素根選手

─ 金メダル獲得おめでとうございます。五輪から1ヵ月半が経ちましたが、今どんなお気持ちですか?
ありがとうございます。ずっと五輪での金メダルを目標に頑張ってきたので、それを達成することができてうれしい気持ちと、ホッとした気持ちと両方あります。これまで、いろんな方に応援して頂いてきたので、五輪が終わってからはそうした方々にお礼や感謝を伝えるという日々が続いていて、ちょっと忙しいですね。
 
─ 久留米に凱旋したときはどんな感じでしたか?
皆さん、とても喜んでくださって、金メダルを獲れて良かったなと改めて思いました。市民栄誉特別賞も頂き、とても光栄ですし、うれしかったですね。たくさんの方からお祝いの言葉やメッセージも頂きましたし、それを見て「優勝したんだな」という実感が湧いてきました。
 

メダル

─ 母校・南筑高校の松尾先生や後輩たちは?
はい、先生はとても喜んでくださいました。五輪が延期になってから南筑高校を練習拠点とさせて頂き、とてもお世話になっていましたから、そういう意味でも金メダルを見せることができて良かったと思います。後輩たちは金メダルを持って「重~い」って言ってました(笑)。
 
─ 2つのメダルはお家でどのように飾りますか?
いや、これは飾らず、傷つかないように大事になおしとき(しまっておく)ます。

勝因は自分らしい戦いができたこと。

─ 五輪での試合、初戦の畳に立つときはどんな思いでしたか
いい緊張感で臨めたと思いますが、プレッシャーというのはあまり感じませんでした。あの日はすごく集中していましたし、初戦をしっかり投げて勝つことができ、勢いがついたと思います。

─ 体格の大きい相手との戦いが続きました…
そうですね、日々の練習から大きい相手を想定して、組手や間合いだったり、技だったり、課題を決めて毎日コツコツと練習してきました。そうして積み重ねてきたものを一戦一戦出すことができたと思います。特に組手を意識して試合に入り、そこを徹底して戦えたことが金メダルにつながったと感じています。
 
─ 初戦(2回戦)、準々決勝と自分のペースで戦いができていたように見えましたが?
日ごろからそこは意識しています。相手がどういう組手で、どういう技を掛けてきてというのは全部頭に入れて試合をしていました。受けの部分もしっかり意識して、落ち着いて対応できていたと思います。

トルコのサイト選手と対戦した準々決勝。
3 分33 秒に体落としからの押さえ込みで合わせ技一本を決め完勝した。

─ 準決勝では、前半はキンゼルスカ選手(アゼルバイジャン)に釣り手をつかませてもらえませんでしたが、大内刈りから袈裟固めへの合わせ技一本での見事な勝利でした。
組手を徹底して、先に攻めて投げにいくという戦い方を考えていましたが、なかなか思い通りにはいかないだろうなと…。過去に負けたことのある相手でしたから、組手から1つ1つ、冷静に対応していこうと集中していました。中盤で先に相手に「指導」を与えることができたので、自分のペースで戦えるようになりました。最後は投げた瞬間にこれでいけるなと思いましたし、抑え込んで絶対に離さないという気持ちでいました。足技から寝技への移行というのがしっかりできたので、戦いとしては良かったと思います。

─ メダルが確定したうえでの決勝、強敵のオルティス選手との戦いでした。
決勝には行けましたが、1位と2位では全然違うので、「必ず金メダルを獲るんだ」という強い気持ちで臨みました。すごく集中していたので、本戦の4分間はあっという間に終わりましたね。お互い手の内を知っているので探り合いで…、けっこう慎重になっていたと思います。組手も厳しいので、自分の形に持っていくのが難しかったですね。
 
─ 延長に入ってから戦い方を変えたのですか?
そうですね、少し山場を作るというか、自分の攻めのスピードを上げるという部分で変えてみたりしました。そのあと両者に「指導」が入りましたが、オルティス選手は試合の進め方がすごく上手い選手ですから、ここで自分が攻めていかないとまた「指導」をもらってしまうと思ったので、そこからまた攻め方を変えました。どこかひとつ持てたら、すぐ足技だったり担ぎ技に入っていくというように…。さらに相手に先に2つ目の「指導」が入ったことで流れをつかんだというか、もう1つ「指導」が入れば勝ちだなというのは考えましたね。

本戦と延長戦を合わせて9分近くの死闘となった決勝戦。オルティス選手に指導3が与えられ、素根選手が勝利を収めた。

─ 最後はオルティス選手に3つ目の「指導」が入っての反則勝ちでした。
やはり投げるのは難しいと感じたので、ここは違う攻め方で勝ちに行こうと思い、先に組手を持って何か仕掛けていこうというのを考えていました。最後の場面も、五輪の決勝ではなかなか「指導」が入りにくいと聞いていたので、そう簡単には入らないだろうと思っていたのですが、そこで「指導」が入ったので…。勝った瞬間はホッとしたというか、肩の荷が下りたような、そんな感じでした。

優勝に感極まり、あふれる涙をこらえながら畳を降りた。

─ オルティス選手と抱き合ったときに涙があふれてきていましたね。
そうですね、めっちゃ泣いてて…。オルティス選手が言葉を掛けてくれたのですが、よくわからなかったです(笑)。やっぱり、五輪が1年間延期になったことで苦しい思いもしてきましたし、それが報われたことで「頑張ってきて良かったな」と思えた瞬間だったので、すごくホッとした気持ちだったですね。

─ 試合直後のインタビューでは涙声ながらしっかりお話されていました。
まずは、この大変な状況の中で五輪を開催して頂いたことに感謝の気持ちでいっぱいでしたし、たくさんの方々に応援して頂いて勝つことができたので、ほんとに周りの方々への感謝の気持ちで話していました。でも、自分の中で優勝したことが信じられないというか、状況がよくわからないという感じでした。そのあとすぐに表彰式だったのですが、まだ実感が湧いていなかったですね。たくさんの方々から「おめでとう」とメッセージを頂いたり、喜んでくださる姿を見たときに、「あ、優勝したんだな」と思ったんですけど、今でもそんなに実感は湧いてないというか…(笑)。

─ 表彰式では笑顔が輝いて見えました。
表彰台に立った時は夢の中にいるような感覚でしたが、目標を達成でき、一番高いところに立って君が代を聞くことができて、とてもうれしい気持ちでした。この階級の中では私は一番小さいんですけれど、「小さくても努力すれば勝てるんだ」というのを見せたいという気持ちがあったので、それをしっかり優勝という形で皆さんに見て頂くことができて良かったと思っています。

1年延期を含めて東京五輪は自分を成長させてくれた。

─ 翌日には男女混合団体戦に出場して、3試合を戦いましたが、臨む気持ちというのは個人戦とは違うものでしたか?
最初のドイツ戦は2対2からの登場でしたが、前の選手が負けたとかは関係なく、自分の試合に集中して1点を取りにいこうと考えていました(結果は合わせ技一本勝ち)。準決勝(ロシア・オリンピック委員会)も個人戦と同じ気持ちで目の前の相手を倒すという思いで臨みました。

─ 決勝のフランス戦は0-2となった厳しい状況でしたが…。
まずは勝って流れを変えたいというのがありましたね。個人的にも対戦相手のディコ選手は国際大会で連勝している今勢いのある選手だったので、試合をしておきたいなという気持ちもありました。4年前に1度対戦して勝ってはいたんですが、そこから強くなっているので、今回対戦することができて良かったです。ただ、試合途中に相手に膝に乗られてちょっと傷めてしまって…。痛かったのですが気にせずに、とにかく勝つことだけを考えてやっていました。自分の得意な形で攻めていって、最後は相手が掛けつぶれたところをしっかり抑え込んで(横四方固め)勝てたのは良かったと思います。

男女混合団体戦では3試合を戦って3勝と一人気を吐いた。(後列左から2人目)

─ 残念ながら団体戦は銀メダルでしたが、その結果については?
とにかく一致団結して優勝を目指していたので、2位という結果には悔しい気持ちが強いです。しかし、あの素晴らしいチームの一員として、東京五輪の舞台で戦えたことはすごく幸せだと思っています。
 
─ 東京五輪は素根選手にとってどういうものだったでしょうか?
大会を通じて自分自身をとても成長させてもらったと思います。たくさん苦しい思いもしましたが、ああいう大きな舞台で金メダルを獲ることができて本当に良かった。五輪が1年延期になって先が見えない状況が続きましたが、どういった状況の中でも努力する大切さを感じましたし、そうした中で頑張る、踏ん張るという気持ちが、自分を成長させてくれたと思います。

素根選手の勝利を祈願するため、伊勢神宮まで参拝しに行ったという北田典子女子柔道部監督(右)。「素根選手が信条とする“三倍努力”という言葉の通り、この1年はすごく練習を積み上げてきたと思うし、勝ったあとの泣いている姿を見て、本当に苦しかったんだろうなというのが伝わってきて、テレビを見ながらもらい泣きしました」

─ 次の目標はパリ五輪での金メダルになると思いますが、そのために今後どういう点をより強化したいと考えていますか?
技もそうですし、組手の技術だったり、パワーもまだまだつけていきたいですし、スタミナも強化していきたいので、すべての面でもっともっと強くなっていけるよう日々努力していきたいと思っています。これからは東京を拠点として練習するので、出稽古とかも多くやっていきたいと思います。

─ 3年後はよりパワーアップした素根さんが見られるということですね。
そうですね、今よりさらに強くなった姿で…次の目標はパリ五輪での金メダルですが、そのために目の前の大会1つ1つを大事に戦っていこうと思います。ただ、金メダルを獲ったことで、他の選手にも研究されるでしょうし、勝つのが難しくなってくると思うので、そこは覚悟を持って、より強い気持ちで乗り越えていかなければいけないなと思っています。
 
─ これからも期待しています。ありがとうございました。

Profile

素根 輝 ​[そね・あきら] スポーツ科学部1年
2000年生まれ。福岡県出身。久留米市立南筑高卒。中学3年で出場した世界カデ大会70kg超級で優勝したのを皮切りに、国内外の大会で表彰台にのぼる。全日本選抜体重別3連覇、全日本女子2連覇ほか、'18年はアジア大会、ワールドマスターズを制覇し、'19年の世界選手権(東京)は初出場初優勝。'21年3月のGSタシケント大会でも優勝。4月から本学に入学すると共にパーク24に所属。7月の東京五輪では78㎏超級で金メダル、男女混合団体戦で銀メダルを獲得。得意技は大内刈り、体落とし。座右の銘は「三倍努力」。