スポーツを支える人々
~ネクスト・キャリア・フロンティア~

Vol.2 島田慎二 氏【後編】
Bリーグチェアマン(法学部新聞学科卒)

卒業生
2020年08月21日

この競技の人たちの為に頑張ろう、と思えたことが一番の理由です

島田さんが2012年に社長に就任した千葉ジェッツは、以後、7年間で驚異的な成長を遂げた。破産寸前だったチームは、17.6億円の売上を出す成功モデルとなり、Bリーグになってからは4年連続売上リーグ1位を達成。その手腕を周囲が放っておくはずはない。同じB1に所属するライジングゼファー福岡からも経営アドバイザーとして招聘され、異色の全日本テコンドー協会からも理事の打診があり、受けた。「見るのは潜在的な可能性」と言い切る敏腕経営者は、その全てを辞任して、Bリーグチェアマンとなった。

『B.LEAGUE BEYOND 2020』

チェアマンの仕事は忙しい。

「いつも何してるんですか? と聞かれて、何してるんですかね? と自分でも思っているところが正直あって(笑)。Bリーグというプロリーグ、公益社団法人の理事長、それを“チェアマン”という風に呼んでいるんですね。本来の仕事は、公益法人らしく、社会的責任を重く持ちながら、とはいえ、プロリーグなので事業的なビジネスの観点もある。公明正大にしっかりとガバナンスを整えながら、組織運営をしていく。バスケットボールというコンテンツの魅力と価値を最大化し、事業拡大もして、日本のバスケットボールの普及、育成、強化を行っていく、というのが大きな仕事なんだと思うんです」

現在Bリーグは、B1、B2併せて36チームが日本全国に点在している。初代チェアマンの川淵三郎氏、二代目チェアマン・大河正明氏からバトンを受け、島田さんが三代目を引き継いだ。

ちょうど一年前の昨年2019年7月、リーグは『B.LEAGUE BEYOND 2020』という名の中長期計画を発表した。「超えて未来へ」と副題の付いた計画には、「バスケットボールで日本を元気にします!」から始まる、VISION、MISSION、VALUEが書かれている。

VISION
・国民的スポーツとしての認知度向上
・NBAに次ぐリーグとしての地位確保
・憧れの職業NO.1、就職したい起業NO.1

MISSION
・世界に通用する選手やチームの輩出
・エンターテインメント性の追求
・夢のアリーナの実現

VALUE
・BREAK THE BORDER
~前例を笑え、常識を壊せ、限界を超えろ~

 

日本がコロナ禍に遭った今春、リーグの2018-19シーズンは28節(3月15日)を最後に中断し、そのままシーズンは幕を閉じた。

そして、7月1日、『B.LEAGUE BEYOND 2020』を掲げた前チェアマンの大河氏体制から託されて、島田さんは新たなチェアマンとなった。

「リーグが『B.LEAGUE BEYOND 2020』で掲げた中長期計画の方向性は踏襲すると宣言して、そこに含まれている『2026年構想』のデジタルマーケティング、メディアカンパニー、アジア戦略、などは全て進めています。ハード面のアリーナ建設のところだけ、どうしてもコロナ禍で財政基盤が傷んだり、経営強化に転じたので少子化になってアリーナを作る必要があるのか? など不可抗力によって議論が再熱したりもしているので、柔軟にやらないといけない状況になっていますが、方向性は(中長期計画通り)向かっていると思います」

リーダーとしての本領発揮はこれから

チェアマンになってから、早速、全チームの代表に向けてオンラインで所信表明をした。そこで出した宣言は、聴く者に大きなインパクトを与えた。

〇全36チームの1クラブも破綻させない
〇クラブ支援にリーグとして最低7.6億円のコロナ支援金を準備する
〇Bリーグ動画の月間視聴者数を5倍にする
〇万が一、達成出来なかった場合には、未達割合に応じて役員報酬を返上する

苦難に際した時こそ、経営者の資質が問われるのは、世の常。千葉ジェッツでクラブ経営を引き受け、どん底時代からリーグ1の収益を上げてきた島田さんだからこそ、説得力は大いに増してくる。泥臭くやり切るリーダーだからこそ。

「私にとってバスケットボールの魅力は、この競技が好きな選手や関わっている人たちから必要とされていること、この人たちの為なら頑張ろう、と思えたことが一番ですね。どうやったら強くなる、とか、どうやったら競技性として良いのか、とか言うのは、私よりも長けたスペシャリストが沢山いるので、僕の仕事はその人たちが活躍し易い状態を作ること」

あの川淵氏が、一昨年、「大河さんを助けてあげて欲しい」と、当時、千葉ジェッツ代表だった島田さんに、Bリーグの副理事長就任を要請した。「ジェッツの仕事を続けても良いなら」と異例の兼務で引き受けた時に、わざわざジェッツの感謝祭に出向いてジェッツの支援者の前でお詫びをしたという。いかに島田さんがリーグから必要とされていたかが分かるエピソードだ。

今月の7月13日、リーグは2020-21シーズンの開幕日を「2020年10月2日」と発表した。

本来であれば、東京2020オリンピックでバスケットボールも日本代表として、Bリーグ選手たちの戦いの後のシーズンのはずだった今季、リーグにとっても、バスケットボール界にとっても、大きなチャレンジが始まろうとしている。

以前、別のインタビューで、島田さんはこんなことを言っている。

「僕は(中小企業の活躍を通して)地方創生に貢献したいと思っています。そして、日本にはバスケットボールだけでなく、野球、サッカー、バレーボール、卓球など各地に400~500のスポーツチームが点在している。スポーツは地域を活性化できるすごいコンテンツなんです」

社長業を休止し世界中を旅していた時も、スポーツ観戦はゼロ。

「スポーツするのは好きでしたが、観ることには全く興味が無かった。今は違いますけど(笑)」

スポーツの世界もビジネスの世界も、基本は一緒。結局は、誰とやるか、だ。

「この人たちの為なら頑張ろうと思えてしまえば良いんです。皆と一緒にワクワク、ドキドキしながらチャレンジしていく。せっかく人生捧げるなら、そういうメンタリティになれないと全てを注げないですから」

クールなようで熱く、結論を先に言うがプロセスも大事にする。ビジネスライクに聞こえたフレーズに必ず人間味が薫る。縦横無尽に駆け回っていても、頭の中は常に冷静。そんなイメージを与える、正に「バランス」の人だ。

「置かれたところで咲きなさい」
「キラリと光るナイフは誰かが見つけてくれる」

インタビュー中、随所に島田さん語録があった。

新たなBリーグというガラス張りの“厨房”の中で、こんな語録を残す“ラーメン屋の店主”が作る麺が、不味いはずは、ない。

<プロフィール>
島田慎二(しまだ・しんじ)

1970年(昭和45年)11月5日、新潟県岩船郡朝日村(現村上市)生まれ。
幼少期は野球、中学からサッカーをはじめ日大山形に進学。大学は一般入試で本学法学部新聞学科に入学。卒業後は、マップ・インターナショナル(現HIS)に入社し、3年後の1995年に法人向け旅行会社ウエストシップを立ち上げ共同経営者として起業。2001年、アメリカ同時多発テロ事件を契機に独立し、ハルインターナショナル社長に。2010年、39歳で同社をバイアウトし、セミリタイア後、2012年に千葉ジェッツ社長に就任。2017年にはBリーグ副理事長を兼務し、2020年7月1日より現職。