スポーツを支える人々
~ネクスト・キャリア・フロンティア~

Vol.5 八田盛茂 氏【後編】
北海道マラソン組織委員会大会長(農獣医学部〔現・生物資源科学部〕 食品ビジネス学科卒)

卒業生
2020年12月04日

スポーツにはすごい力があるんですよね。
だから、学生にもそれを伝えたいんです

日本陸上界にあって、数々のトップアスリートを輩出してきた北海道。八田さんは、その流れを途切れさせぬよう、継続的な選手育成・強化を担うことになった。さらに国内でも参加者数で10傑(2019年=21,255人)にも入る、33年の歴史を誇る北海道一の名物レース「北海道マラソン」の大会長として。また、“スポーツを通じた地域活性化”を掲げて、来年行われる予定の東京五輪マラソン、競歩も開催地の代表として先頭に立って指揮を執る。御年63歳、まだまだ意気軒高だ。

陸上競技の「普及」と「強化」

小樽運河ロードレース大会

小樽運河ロードレース大会にて(「八田もりしげ」オフィシャルサイトより)

2017年に道陸協会長となった八田さんが掲げる普及活動のスローガンは、「北海道から世界へ」だ。

冬のスポーツが盛んな北海道にあって、陸上競技を選んでもらうためには、中学からでは遅い。

小学生のうちに、競技に参加してもらえるよう、これまで全道大会だけでなく、道内11地区でも小学生向けの陸上教室や記録会を積極的に行ってきた。

それが、先のオリンピアンや日本記録保持選手たちにとっても、最初の登竜門になってきた。

「北海道はアスリート素材の宝庫。その素材をいかに陸上競技に引き込み、育てるかが重要なんです」

一方で、強化活動の対象は、中高生。

豊富な陸上競技専門の教員を中心に強化委員として、選抜選手たちを、中学生は強化合宿で、高校生は春・秋の沖縄合宿で指導しているという。

普段の部活顧問の指導だけでなく、こうした種目専門教員の指導を受けてきた結果、ここ数年は、毎年インターハイチャンピオンを輩出している。

3年後の2023年には、全国高校総体の開催も決まっている。

「2023年は今の中学2、3年生が主役となります。北海道選手が多く表彰台に立てるよう、強化施策を行います」

と鼻息は荒い。

ただ、課題もある。

道内には、他県にあるような総合運動公園が少なく、会場確保のハード面に頭を悩ませる。

高校総体では、陸上競技においては、札幌駅から車で30分弱にある厚別公園陸上競技場を使用する予定だ。

「他にも、競技役員(審判員)の方々の高齢化も深刻です。以前のようにボランティアを募集するだけでは人数は足りませんから、発想を柔軟にして、取り組んでいかないといけません」

道陸協でも、求められているのは、物事を決めるいわば“政治”だ。

スポーツで「北海道から世界へ」

数多くの肩書を持つ八田さんは、道陸協だけでなく、これも縁あって、請われて本学のスポーツ科学部の講師や東海大学の国際文化学部の客員教授としての顔も持つ。

教鞭を執る際には、常に説くのが、

“スポーツを通じた地域活性化”だ。

「スポーツにはすごい力があるんですよね。だから、学生にもそれを伝えたいんです」

具体的には、こうだ。

「例えば、私が大会長を務める北海道マラソンは、その経済効果だけでも約25億円と言われています」

真夏に行われる北海道マラソンは、既に国内外のランナーにとってもブランド化しており、世界大会や五輪の選考レースとしても注目されている。

また、経済効果もさることながら、昨夏、過去最多となる13,457人の完走ランナーたちの味わった達成感や感動は、計り知れない。

ましてや、東京五輪マラソンでは、北海道マラソンをアレンジしたコースが「東京五輪マラソンコース」として誕生する。

「札幌開催が決定した以上、またとないチャンスとして、全力で大会成功に向けて取り組む所存です。全世界で放映され、注目されるだけに、最高の環境・コースを提供し、アピールしたいですね。また、五輪コースは、後世に受け継がれる“五輪レガシー”として維持し、現状の北海道マラソンを更に進化させた大会になるよう繋げていく予定です。こうしたことが、北海道に元気を与えることができると、確信しています」

マラソン大会、という一つのコンテンツで、インバウンドも期待できるのだ。実際に、北海道マラソンへの海外からの参加者は、年々延びている。

道内、国内はもちろん、海外に、“Hokkaido”、“Sapporo”の名が知れ渡ること。これぞ「北海道から世界へ」を地でいく、地域活性化の最たる例だろう。

大切にしてきた祖父からの教え

そんな八田さんには、政治家になる前から心に決めていることがある。

「いつからか、『初心忘るべからず』っていう言葉が、自分の信条になっています。祖父から言われて、ずっと大事にしてきました」

政治の世界に魅せられた幼少時代から、自身の夢を叶え続けている理由には、こうした愚直な姿勢があってこそ。だからこそ、熱い想いが実を結んだに違いない。

信念があり、明るく笑いが絶えない八田さんの周りには、毎日、沢山の人が集まって来る。インタビュー中にも。

「ごめんなさいね。ちょっと(電話)良いですか?」

そう言って、地元の支援者なのか、人懐こい北海道弁で話す姿は、飾らない人柄が滲んで、大先輩ながら何とも微笑ましい。

「いや今日は日大の取材なのよ、ほら、この人たち皆んな広報紙の人たちさっ」

写真撮影に行く道すがらも、止まっていた車中に知り合いの本学校友会会員を見つけると、近寄って行って当たり前のように話し掛ける。こんなおおらかで陽気な性格は、やはり北の大地が育んだものなのだろうか。

家族は、奥様とお嬢様がお二人。今は二人とも嫁いで、愛する妻と犬と、小樽市内に暮らしているそうだ。

「小樽はね、年間700万人以上の観光客が訪れる街なんです。札幌、函館に次いで、多い。北海道が『食と観光の地』と呼ばれていますが、小樽もそのまま同じことが言える」

札幌にも車でも電車でも1時間足らずで行ける港町も、コロナ禍が去ったなら、来年の東京五輪マラソンと競歩の前後には、国内外から大勢の来訪者が予想される。

レース当日には、札幌市内のコース沿道には多くの地元民も駆け付けることだろう。

間近で観る五輪と世界最高峰のランナーたちのレース。

その群衆の中から、未来のオリンピアンも生まれるかもしれない。

そんな選手たちに、どんなメッセージがあるのか、最後に聞いてみた。

「日々の練習を怠らないことですよね。本番では、練習で辛かったことを思い出して、“これまでやったんだから大丈夫”と平常心で戦って欲しいですね」

「自分なんかが言うことでも無いんですが」と、添えたご自身の立ち位置、スタンスは、終始、気負わず、偉ぶらず。いやはや、末は国会議員か閣僚か。小樽が生んだ政治家・八田盛茂さんの真骨頂、ここに見たり。

<プロフィール>
八田盛茂(はった・もりしげ)

1956年(昭和31年)12月27日、北海道虻田郡真狩村生まれ。3歳で小樽に移住。
幼少期からスキーが得意で中学、高校(余市高等学校)では陸上部に。大学は本学生物資源科学部食品ビジネス学科に進学。
1970年、大学卒業後、地元名士の勧めを受け、国家公務員資格を取得し、郵政職員となる。1995年には特定郵便局長となり、10年間勤め上げ、退職。2年の充電期間を経て、市議会議員から最後は議長まで務めた父の背中を追うように、自身は北海道議会議員に立候補し、初当選。以来、現在で4期目。
自民党北海道支部連合幹事長、北海道陸上競技協会会長、北海道マラソン組織委員会大会長ほか兼任。