よこはま動物園(ズーラシア)飼育展示第二係長・医療係長(農獣医学部〈現・生物資源科学部〉獣医学科卒)
よこはま動物園(ズーラシア)は、横浜市が持つ国内最大級の動物園。絶滅危惧種を中心とした、約100種750頭の動物を飼育している。本来の生息環境を模した風景の中で、動物の生息地での姿に思いを巡らせることができる。園内の広さは、東京ドーム10個分に相当する45ヘクタール余り。観覧しやすいように、世界の地域・気候帯別に区分してある。樹木や草花など植物も豊富だ。レストランや売店、子どもの遊び場などもあり、家族連れが一日中楽しめる。バスで園内を巡ることもでき、毎年約100万人が訪れる。恩田英治氏は、園にとって不可欠な飼育員や獣医師らを束ね、動物の保全等に多大な貢献をしている。
―普段のお仕事の内容を教えてください。
恩田 絶滅の恐れがある希少動物をできるだけ多く繁殖させ、保全につなげることが、この動物園の使命です。そのためには、動物を健康に飼育管理すること、適切な飼育環境を提供することが重要となります。そうすることは動物たちの自然な行動を引き出し、来園者に喜んでもらうことにもつながります。
そのため私は、70人の飼育員や4人の獣医師らとともに、さまざまな問題の解決に当たっています。また繁殖のために、国内外の他の動物園との間で、動物を預けたり引き受けたりすることが頻繁にありますので、その調整などもします。今後、このような動物園間のネットワークがさらに重要になると考えていますので、より良い関係づくりには気を配っています。
―心掛けていることは何ですか。
恩田 動物園を存続、発展させるために、お客さんが楽しい時間を過ごし、再訪してくれるような場所になることが重要と考えています。動物たちに対しても「動物福祉」の視点を常に忘れず、現状が動物の生息に適した環境になっているかどうかを考え、改善の努力を怠らないようにしています。
例えばゾウの放飼場は、本来の生息環境を考えて、床面に土を敷いてあります。清掃のしやすさなどからコンクリート床が選ばれることが多く、当園でも獣舎の内部はコンクリート床になっています。そのため現在、ゾウの弱い足の裏を保護できるように、床に砂を敷く工夫をしています。
恩田英治(おんだ・えいじ)
1974年 甲府市生まれ
1993年 日本大学農獣医学部獣医学科入学
1999年 同学科卒業
2005年 横浜市入庁、同市立野毛山動物園に配属
2008年 同市繁殖センターに配属(所長)
2011年 同市環境創造局動物園課に配属
2015年 同市立金沢動物園に配属(飼育展示第二係長)
2019年 同市立よこはま動物園に配属(飼育展示係長兼医療係長)
―働きがいがありそうですね。
恩田 私が生まれ育った山梨県甲府市の実家近くに、国内で4番目に古い歴史的な動物園があり、子どもの頃からよく足を運んでいました。動物好きというより、そこの平和で穏やかな雰囲気が、心地よかったからです。その後、動物園で働きたいと思い始め、日大の農獣医学部(現・生物資源科学部)獣医学科で勉強して獣医師になりました。それから民間動物病院の勤務を経て横浜市職員になり、このズーラシアを含む市内3カ所の動物園で、獣医師として働いてきました。当然働きがいはありますし、このように働けること自体が、幸せなことだと思っています。
―日大での学びは、今の仕事にどう生かされていますか。
恩田 獣医師の資格を取得したことが、動物の健康管理に携わることにつながっているわけですから、日大での学びは全てが大変に貴重でした。6年制の獣医学科の後半3年間は、臨床繁殖学研究室に所属し、多くの先輩や企業、酪農家といった多くの関係者とつながりを持ち、人間関係を大事にすることも学びました。それが今でも、大いに役立っています。
―日々の学生生活はいかがでしたか。
恩田 前半の3年間は、獣医師の資格取得を意識して、真面目に勉学に励みました。自由な時間も多かったので、趣味である映画鑑賞もよく楽しんでいました。研究室での3年間は、獣医療の勉強や人間関係のほか、臨床繁殖学の研究に関連する事柄に、たっぷりと時間を割きました。例えば乳牛の乳を材料にして、細菌の検査をしたり、乳牛に多い乳房炎の改善について研究したり。研究材料である乳牛の乳を採取するために、キャンパスのある神奈川県藤沢市から茨城、千葉県の酪農家の所までよく出かけました。
また、研究室では研究用の牛、馬、犬を飼っており、4~6年生の研究室メンバー計20~30人のうち、主に4年生が中心になって、交代で世話をしていました。
―日大の魅力はどこにあると思いますか。
恩田 各学部とも他大学と比べて、設備が充実しており、勉強する環境はかなり快適だと思います。生物資源科学部だけ見ても、キャンパス内や近隣地、全国各地に多くの施設があります。特に農場や演習林、臨海施設など、自然の中での体験学習の場となる施設が整っています。私が在籍していた農獣医学部の頃は、2年生の夏休みに、北海道へ牧場実習に行く機会も与えてもらいました。研究室に入ってからは、2週間ほど海外研修に参加するなど、実に多くの勉強をさせていただきました。
―後輩へのメッセージがあれば、お願いします。
恩田 私は2010年から現在まで、生物資源科学部の獣医学科で、非常勤講師として野生動物学の講義をさせていただいています。昨年はコロナ禍のためオンラインという形で、全く学生の顔を見ずに終わってしまいましたが、毎年、最終講義の時に学生に伝えていることがあります。それは、社会に出て仕事をする上では、いろいろな考え方を持つ人たちと、その意図を理解してきちんと議論できることが大前提になる、ということです。コミュニケーション能力が必須であるということです。恵まれた環境を十分に生かして、獣医療の勉強に限らず、さまざまなことを学び、いろいろな経験を重ね、多様な価値観を身に付けてほしいと思います。
よこはま動物園 ズーラシア
〒241-0001 横浜市旭区上白根町1175-1
TEL 045-959-1000
開園時間 9:30~16:30(入園は16:00まで)
休園日 毎週火曜日(祝日の場合は開園し、翌日休園)
アクセス 相鉄線「鶴ヶ峰」駅北口、相鉄線「三ツ境」駅北口
JR 横浜線・横浜市営地下鉄「中山」駅南口下車
各駅から「よこはま動物園行き」のバスで約15分
URL http://www.hama-midorinokyokai.or.jp/zoo/zoorasia/