「私は女子にしばられない」

広い視野で未来を切り拓く人間教育
日本大学豊山女子高等学校・中学校 柳澤一恵 校長

付属校
2020年10月08日

付属校唯一の女子校である日本大学豊山女子高等学校・中学校(以下、豊山女子)では、2016年に着任した柳澤一恵校長のもと、「私は女子にしばられない」をキャッチフレーズに、従来の女子教育にとらわれない学校改革を行っている。

国際交流教育とキャリア教育を軸とした教育改革や、快適な学校生活のための取り組みなど、画期的な改革の原動力となっているのは、教育者であり母親でもある柳澤校長ならではの視点とバイタリティだ。

一人の人間として社会で活躍してほしい

「女子教育についてどう思いますか?」という問いに対して、柳澤校長は「女子教育、男子教育ではなく『人間教育』をするべき」と語る。日本に根付く「女子はこうあるべき」という固定観念を取り払わない限り、女性が一人の人間として社会で活躍することはできないからだ。
こうした思いを基に生まれたのが、同校の教育姿勢を表す「私は女子にしばられない」というキャッチフレーズだ。

「女性をしばるものは社会的な制度や価値観ですが、女性が女性自身をしばっている面もあるのではないかと思います」
「女子だから」という枠を取り払いたい思いは、校長自身の実体験によるところも大きい。

同校赴任前の32年間、柳澤校長は日本大学豊山高等学校で教員と教頭を務めた。
「男子校で女性教員が少ない環境でしたが、女性だからという甘えは一切許されませんでした。そもそも誰も女性だと思ってくれませんでしたね」
と闊達に笑うが、ご主人が病気を患い、柳澤校長が家庭を支えた経験からも、女性が仕事を持つことの大切さを痛感したという。

「生徒たちには、ゆくゆくは起業家を目指してほしいと思っています。日本の女性の管理職比率は約10%でまだまだ男性社会ですから、自分で会社を立ち上げてやりたいことをやる。社会でたくましく活躍してほしいのです」

意欲を高める英語力向上プロジェクト

「女子だからできないのではなく、女子だからできることを推し進めたい」と語る柳澤校長。

「女子だからできないのではなく、女子だからできることを推し進めたい」と語る柳澤校長。

学びに関する改革の柱は、国際交流教育とキャリア教育だ。

「語学力を高めることで、世界を舞台に活躍できる女性になってほしいというのが一番の目的です。まずは英語を楽しいと感じ、もっと話したい、勉強したいという意欲を高められるようなプログラムを多数導入しました」

語学指導などを行う外国青年招致事業「JETプログラム」を利用し、昼休みや放課後にネイティブ教員との会話を楽しめる「English Room」を開設したほか、放課後に学べる英会話教室の実施、中・高とも英検を全員受験とするなどして英語力の向上を図っている。

「実は私も娘を豊山女子に通わせた母親です。娘が中学生の頃、英会話スクールに通わせていたのですが、放課後は時間の制約も経済的な負担も大きい。そんな経験から、学校の中に英語力向上を実現できる環境をつくったのです」
母親目線での「こんな仕組みがあったらいいのに」という気づきを形にしたというわけだ。

また、これまで高校でのみ行っていた海外英語研修を中学一年から実施。春休みを利用してニュージーランドにホームステイをするプログラムで、生徒にはバディー(プログラムをサポートしてくれる現地生徒)が一人ずつ付き、授業やアクティビティなどに参加する。

「早い時期に海外体験をすると、それが刺激となって視野が広がります。帰国する時には、生徒はすっかり大人びて、顔つきまで変わっているんです」とその成果を実感している。

国際交流教育で世界最高峰の学びに触れる

高校では、2017年度から進路に応じた三つのクラス編成を行っている。国公立大や難関私立大学・難関学部を狙う「A特進」、日本大学への進学を目指す「N進学」、理数のスペシャリストを育成する「理数S」だ。

その中で「A特進」はとくに英語教育に力を入れており、2年時に米国・ボストン研修旅行を実施、世界で活躍できる女性リーダー育成を応援する「LADYプログラム」に参加する。現地では、ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学、名門女子大・ウェルズリー大学で大学生たちと交流しながら、ディスカッションやプレゼンテーションを行う。
「研修旅行の目的は、学問に取り組むグローバルな姿勢を肌で感じてもらうことです。現地で働く日本人女性に講演をしていただくなど、キャリア教育としても充実させています」

「N進学」「理数S」では、今年新たにオーストラリア修学旅行を計画。ホームステイをしながら現地の高校を訪問するほか、現地で活躍する日本人女性との交流などを予定していたが、コロナ禍の影響で残念ながら中止となった。

「海外に出ることだけがキャリア形成ではありませんが、さまざまな働き方や生き方があることを知ってほしい」と柳澤校長は期待する。

また、さらに海外で学びたいという生徒のために、1年留学制度やTerm留学も採用し、ニーズに応じた学びをサポートしている。

ICTの活用でコロナ禍の授業もスムーズに

柳澤校長は教育のICT化にも力を注ぎ、生徒全員がタブレット端末を利用できる環境をいち早く整えた。一人ひとりの理解度に合わせた演習が行える学習アプリ「すらら」や、次世代のキャリア教育教材と言われる「ENAGEED」にもタブレットを活用する等、積極的に推し進めている。

「生徒も教員もICTの活用に慣れているため、コロナ禍でもオンラインによる授業やホームルームをスムーズに行うことができました」

休校期間中、多くの学校で学習の遅れが危惧されたが、同校では授業の遅れはまったくなかった。保護者からは「オンライン授業やアプリの活用で、休校中もよく勉強していてありがたい。豊山女子に入れて良かった」という声も届いているという。

「そう言っていただけることが一番嬉しいです。困難な時期ですが、先生方が本当に熱心に取り組んでくれているおかげです」

女子の枠にとらわれず、可能性を広げてほしい

柳澤校長は、夏服のポロシャツやリュックサックの導入、自転車通学の許可など、快適な学校生活のための改革も行ってきた。

「生徒たちの生活が快適になるなら即実行」と話すが、長く続いた慣習を打ち破るのは、言うほど簡単ではないはずだ。しかし、柳澤校長が願うのは「生徒たちが元気に明るく過ごせること」。思いは形となり、今校内には「女子にしばられない」活発さがあふれている。

校長就任から5年目、改革を推し進める中で気づいたのは、「機会を与えて挑戦させれば、生徒たちはいくらでも力を発揮する」ということだ。

「『女子だから』と枠を決めずに、自分がしたいことに挑戦し、自分だけの人生をつかんでほしい」

柳澤校長の温かな眼差しの先には、たくましく未来を切り拓く生徒たちの姿が映っているにちがいない。