ワンテーマで広がるドイツ文「企画授業」
今年のテーマは≪日独交流160周年≫

学び・教育
2021年11月24日

日本とドイツの交流は、ドイツがまだドイツ帝国となる1871年よりも10年前の、1861年にドイツの前身・プロイセンと結んだ「日普修好通商条約」の締結によって始まったとされている。

鎖国から開国へと大きく舵を切った日本では江戸幕府が大政奉還し、1868年に明治時代が幕を開けた。その3年後の1871年には、プロイセンを中心としたドイツ帝国が成立し、日独の交流はより強まった。

生かす研究領域の多様性

文理学部ドイツ文学科では、今年で160周年を迎えたドイツとの交流をテーマに、ドイツ連邦共和国大使館の協力も得て、9月20日~10月11日の期間で「企画授業」として各教員が自由に授業を展開した。

「企画授業」は学科全体で一つのテーマを設定し、教員がそれぞれ自分の研究領域の視点からそのテーマを講じるというもの。初めての開催となった昨年度テーマ「ドイツ再統一30周年」に続いて、今年度で2回目となった。

文学・語学・文化の3本柱でカリキュラムを組むドイツ文学科だが、学科教員の専門は多様性に富む。

「その専門領域の多様性を生かし、ほかでは体験できないドイツ文学科ならではの企画を、と考えられたのが『企画授業』です。学生にとって多角的に物事を考えたり、視野を広げるきっかけになれば、との考えで始めました。今回も文学、思想、歴史、言語、教育、政治、社会、音楽、映画といった視点からの講義を行いました。学科内だけでなく、テーマについて興味のある他学科の学生も参加できるようになっています」

と三つの授業を受け持った板倉歌教授は話す。

≪日独交流160周年≫のテーマに沿い、9人の教員が15の授業タイトルで講義。全てオンラインで実施した。

板倉歌教授は、「移民と言語教育」「明治時代の辞書から見える時代」「ことばと移民」の授業タイトルで、専門のドイツ語学、日独対照言語学、語用論を背景に、他国に率先して移民受け入れ政策を採ってきたドイツならではの切り口からアプローチ。

また、初見基教授が教鞭を執った「森鷗外のベルリン」。代表作『舞姫』の舞台でもあったドイツに、鷗外は1884年から88年までの約4年間、陸軍軍医として留学していた。その留学が鷗外の作品に与えた影響を論じた。

音楽専門の横山淳子助教は、ドイツ民謡と日本の唱歌をもとに文化を比較。ネーティヴスピーカーであり、最多の授業を担当したマリア・ガブリエラ・シュミット教授は、実践的なドイツ語の表現力演習で首都の歴史を扱った。

授業一覧

開講日 時限 授業タイトル 担当教員
9/20(月) 3 ≪日独交流160周年≫に関連して 保阪靖人
3 移民と言語教育 板倉 歌
9/22(水) 1

ドイツ民謡と日本の唱歌

-歌詞に表れる日独文化の比較-
横山淳子
9/27(月) 1 森鷗外のベルリン 初見 基
3

近年の映画が伝える東ドイツイメージ

-『グッバイ、レーニン』から『グンダーマン』まで-
渋谷哲也
4 明治時代の辞書から見える時代 板倉 歌
9/28(火) 2

西ドイツの戦後政治

-アーデナウアーからコールまで-
森田 悟
4 日本の中のドイツ 跡守美音
9/29(水) 2

ドイツの歌と日本の歌の交流

-歌詞から読み解く日独文化-
横山淳子
9/30(木) 1 Berlin und Tokyo
-aus der deutschen Perspektive-
Maria Gabriela Schmidt
10/1(金) 3 Deutsch-Japanische Beziehungen Maria Gabriela Schmidt
10/6(水) 2

ことばと移民

-leichtes Deutsch/やさしい日本語-
板倉 歌
10/7(木) 1 Berlin und Tokyo
-aus der japanischen Perspektive-
Maria Gabriela Schmidt
10/8(金) 3 Deutsch-Japanische Beziehungen Maria Gabriela Schmidt
10/11(月) 1

160 Jahre deutsch-japanische Beziehungen

-Wie thematisieren deutsche Medien dieses Ereignis?-
Thomas Schwarz

学生からのビビッドな反響

「これまでの授業後のアンケート調査によると、学生からは授業内容や企画ともに楽しんでいる様子がうかがえ、なかなかの好評を得ています」

と板倉教授。

学科学生からは、それぞれの授業について、興味を持った内容が細かく挙げられているそうだ。

「今回はテーマが≪日独交流160周年≫ということもあり、この間のいろいろな時代を映す日独の文化の対比や関連性に興味を抱くことができたようです。企画について学生からは、『通常の授業とは一味違う内容が扱われるので新しい知識をさらに得ることができる』『教員によってジャンルが異なるので、一つのテーマについていろいろな教員が話すと知識が広がり面白い』『改めてドイツに向き合えるよい機会である』などの意見のほか、『他学科の学生ともディスカッションする機会があり、刺激になった』との感想も届いています。1年生からは、『物事を学術的に捉える勉強になり、意欲が増した』との声もありました。また他学科の学生からも、『自分の所属する学科とは異なる学科の授業を体験できる良い企画で、継続してほしい』との声が届いています」(板倉教授)

学生の声に応え、学科としても今後もこうした「企画授業」に意欲的だ。並行して募っているテーマについては、既に数多くのテーマが学生から寄せられているという。

教員の試みに学生が呼応したドイツ文学科の「企画授業」だが、その狙いである、“多様性”、“多角的”、“視野を広げる”といったコンセプトが、それを求める学生たちのニーズに合致した好例といえるだろう。

教員と学生が一つのテーマを膨らませていく「企画授業」。次回のテーマも楽しみだ。