学生の理解向上を目指して
-教員の教え方公開-

文理学部・心理学科 菊島 勝也教授
「心理学ゼミ―箱庭療法」

学び・教育
2022年03月07日

近年、授業の在り方が問われている。現場では、各教員が自身の科目に合った教育方法を創意工夫し、学生の理解向上を目指して日々努めている。それぞれの科目ではどのように学生と向き合い授業を進めているのか。その手法と実践にフォーカスする「教員の教えるテクニック公開」。
第4回は、文理学部・心理学科の菊島勝也教授の授業を紹介する。

支援する側とされる側の目線、両方を体験することで気付きを得られる

臨床心理学の中で、クライアント(心理相談者)への心理療法の技法の一つ「箱庭療法」。砂の入った箱の中に、人、動植物、建物などのミニチュアを置き遊ぶことで、何かを表現する胸の内を引き出す心理療法だ。「言葉を使わなくていいので、自分の気持ちを言葉でうまく表現できない人にも向いていますし、つくった後で心理職と話し合うことにより、自分の気持ちに気付くことができます」と菊島勝也教授。

双方の意見を知る

心理療法の技法の一つ「箱庭療法」

心理療法の技法の一つ「箱庭療法」

1960年代に日本に入ってきた「箱庭療法」は、子どもから高齢者まで対象となる。菊島教授も30年前、本学在学時に実際に取り組んだ。

ゼミでは、学生が自身でつくってみた箱庭の印象やテーマを説明した後に、菊島教授や他の学生からフィードバックを受ける。周りの人からの見え方で、気付きを得るためだ。今年度のゼミでは、まず菊島教授が心の問題を抱えた子どもの架空の事例を出して、心理職の立場でどう支援するかをオンラインでディスカッションした。その後で、箱庭療法やカウンセリングのロールプレイにより、心理職とクライアントの両方を体験することが重要だと菊島教授。この質問だと話しやすい、話しにくいと身をもって体験してもらうことが、ゼミでの狙いだ。

時代に合わせた変化

箱庭を作成する学生

ゼミの学生には、文理学部心理臨床センターで菊島教授が実施している、幼児対象の子育て支援グループ活動「桜っ子カフェ」へのボランティア参加を推奨している。

菊島教授から「体験」というワードが多く出た。それは自身が感じた時代の移ろいによるもの。「小さい子どもと一緒に遊んだ体験がほとんどない学生が多い」。自分の記憶がある幼い頃のイメージしかないので、2~3歳の幼児とやり取りして遊べると思ってしまう。いきなりキャッチボールをすると幼児は相手をしてくれない。まずは、その子が何に興味を持ち、どんな遊び方をしているか観察した上で、子どもの横で、一緒に過ごすと、スッと入れる瞬間がある。そのような体験を重ねることで、子どもの発達段階や心理学的特性の理解を深めることができるという。

初めて箱庭をつくる本田さん(左)、中園さん(右)

初めて箱庭をつくる本田さん(左)、中園さん(右)

最近の学生は、インターネットにつながっている時間が多いため、リアルな人とのコミュニケーションの体験が少なくなっているかもしれない。教科書的に教えるだけではなく、体験を通じて学ぶことが必要だ。「子どもへの臨床心理学的支援において、さまざまな立場を体験してほしい。子どもへの心理的支援のためには、段階的にまずは子どもと一緒に遊べるようになってほしい」と学生に接している。

ゼミに参加した心理学科4年の中園麻菜美さんは「箱庭について、先生やゼミ生から言われて気が付くことが多かった」、同3年の本田美礼さんは「フィードバックを受けてみて、自分のつくった箱庭の中に自分自身がいるという視点が持てた。授業でただ聞いているより楽しかった」と振り返った。

<プロフィール>
文理学部
菊島 勝也(きくしま・かつや
)教授
本学文理学部心理学科卒。専修大大学院文学研究科心理学専攻博士後期課程修了。博士(心理学)。愛知教育大准教授を経て、平成21年に本学文理学部准教授、令和2年から教授。研究分野は臨床心理学。