ICTを利用した文理学部国際化プロジェクト

『英語連続講演会』を4回にわたって開催

学び・教育
2022年02月04日

海外からそれぞれの分野に精通した先生方に英語で講演をしてもらう『英語連続講演会』が、本学創立記念日である2021年10月4日にスタートし、12月11日に全4回の講演を終えた。

全4回で行われたこの連続講演は、オンラインで海外の大学と共同学習を行うCOIL(Collaborative Online International Learning:オンライン国際協働学習)への取り組みも実施する、本学大学院文学研究科英文学専攻、本学文理学部英文学科の閑田朋子教授が代表者を務める、文理学部人文科学研究所総合研究「ICTを利用した文理学部国際化」プロジェクトによって主催された。

講演は英語で実施され、スクリーンに英語字幕を表示、研究グループの教員がチャットで随時、難しい用語の日本語訳や簡単な解説を補足した。

ICTを活用することで、世界の一流の先生の講義を英語で聞く貴重な機会となった。

気候変動と健康の関係性を読み解く

記念すべき第1回は、英・ダーラム大学のグレン・マクレガー教授により気候変動と健康についての講演が行われた。

マクレガー教授は、2018年の広島の洪水被害、2021年の北アメリカの熱波との関係性から、夏だけでなく春先の熱波も増えており、気候変動は確実に進んでいることを説明。地球の地表温度は18世紀の産業革命の時代から陸地で1.59度、海面温度は0.88度も上昇していることが分かっているという。

そういった科学的証拠から、気候変動が人類の社会的な生活、健康に対してどのような影響を及ぼすのかについて議論を進め、場合によっては死に至る人体への影響も考えられるとして問題の重要性への注目を促した。

気候変動によって起こりうる将来をどう予測し、私たちがそれにどう適応していくか、昨今うたわれているSDGsの取り組みとも関連して、私たちが気候変動を回復させるためにどのような行動をしていく必要があるのか、改めて考えるきっかけを与える講演となった。

日本文学を異なる目線から見直す

第2回は、米・ワシントン大学のエドワード・マック教授による、ブラジルと「日本近代文学」をテーマにした講演。

中でも、日本からブラジルへの移民が始まった1908年から1941年の33年間に注目して話が進められた。日系人たちは日本文学を読むだけでなく創作にも励み、植民地文学やブラジル日系文学の系譜といったものを形作っていったことが、1932年に発表され、新聞の賞も獲得した『投機的農業の時代 An Age of Speculative Farming』(ソノベタカオ)を例に丹念に説明された。

そこで最も大切なポイントは、自分たちが幼少期から今現在に至るまでに身に付けてきた、日本人による文学的な価値観を「批判的に」見直してみよう、というもの。見方、視点、立場が変われば、評価の基準が変わる。

マック教授は「ルーブリック」という言葉を使い、日本人が日本文学を評価するために共有してきたルーブリック、いわゆる評価基準を見直してみると、また新たな視点で日本文学を見ることができることがあると説明。ブラジルという他者の目を通して日本文学を見ることで、そこにある暗黙の前提(日本人が抱いている単一民族国家観など)が見えてくることを示した。

加えて、上記のようなブラジルでの日系人の創作活動の歴史が知られていない現状から、ブラジルと日本の歴史を互いによく知り、見直すことが大切であるとした。

言語から見えるロシアと日本の文化の違い

英語連続講演会も後半に入る3回目では、ロシア・イルクーツク州立大学のナジェージダ・ウェインベルグ准教授が、ロシアにおける日本と日本語教育に対する興味をテーマに講演を行った。

ナジェージダ・ウェインベルグ准教授は、ロシアと日本の関係や言葉の使い方について細かく丁寧に説明してくれた

ナジェージダ・ウェインベルグ准教授は、ロシアと日本の関係や言葉の使い方について細かく丁寧に説明してくれた

まずは歴史からロシアと日本の関係性を読み解いた。最初は船の難破から始まった日本とロシアの交流。今では45ものロシアの大学で日本語が教えられており、ロシアにおいて日本語は身近なものとして扱われている。日本のアニメに興味を持ったり、日本に旅行したいと考えて日本語を勉強している人が多いのだという。

そして、ナジェージダ准教授は日本滞在経験などに基づき、⽇本⼈とロシア⼈のコミュニケーションをより円滑にするためには、お互いの文化へのさらなる理解が必要との見解を示した。

その中で、日本語とロシア語の大きな違いとして「褒め言葉」が取り上げられた。日本では批判をする場合でも皮肉の意味を込めて褒め言葉を使うが、ロシアでは決して使わない。

また、例えば「ちょっと難しい」という言葉が難易度を表すだけではなく断りの意味でも使われるといった、さまざまなニュアンスを持つ表現が多いことが日本語の難しさであるという。

そうした言葉のニュアンスの違いを知ることは、その背景にある文化を知ることであり、異文化間でのコミュニケーションの困難を克服する上で大切であることが伝わる講演となった。

世界で起こっている現実をどう捉えるか

12月11日に行われた最終回は、南アフリカ・ケープタウン大学のワングイ・キマリ博士の講演。「ナイロビのスラムと社会生活」がテーマとされた。

日本ではなかなか知り得ない世界の現実をワングイ・キマリ博士は教えてくれた

日本ではなかなか知り得ない世界の現実をワングイ・キマリ博士は教えてくれた

キマリ博士からは、ナイロビのスラムであるマザレ地区で起こっている現実が伝えられた。同地区は植民地時代の分割統治政策がいまだに影を落とし、水道の未整備などの問題を抱えている。

そして、仕事がない中で若者が前を向いて生きていくために行った事業が弾圧され、人が亡くなったという事例も交えつつ、「そもそもの生きるための生活が脅かされている人たちがいて、その問題を解決するためには経済、政治、衛生といった問題を別々に考えたり解決したりするのではなく、全て一つの事象として捉えて考えていかなければならない」と説明した。

本当の意味でニュートラルな都市作りとは何なのか。自分たちにとって手に入りにくい情報にこそ大事なことが詰まっているのにもかかわらず、なぜそういった情報は手に入りにくいのか。

学生たちにとって、日本で暮らしているとなかなか気付くことが難しい問いを考え直すきっかけになった。

全4回にわたった英語連続講演会には多くの学生が参加し、活発な意見交換が行われた。各回の最後に行われた質疑応答では、どの講義も1時間近く行われるほどだった。

普段は接する機会のない、海外の先生方との交流は、本学の学生にとってとても有意義な時間となった。この経験を生かし、国際的な感覚を身に付け、実社会に役立てていくことが期待される。