ロシアによるウクライナ侵攻で、われわれは何を考え、何を学べばいいのか

危機管理学部(三軒茶屋キャンパス)

学び・教育
2022年08月10日

危機管理学部は6月16日、三軒茶屋キャンパスで学部教員5人による討論会「『ロシアによるウクライナ侵攻』を考える」を開催した。学部学生約60人が聴講し、討論後には専門家顔負けの質問などで議論を深化させた。

討論会の模様は、学部のホームページ「オープンキャンパス特設サイト」で公開中。

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予測可能だった侵攻、欧米が放置

登壇したのは福田充(危機管理学)、小谷賢(インテリジェンス研究)、安藤貴世(国際法)、吉富望(防衛政策)の4教授。司会は先﨑彰容教授(近代日本思想史・倫理学)が務めた。

司会を務めた先﨑教授

司会を務めた先﨑教授

冒頭、4教授によるそれぞれの専門分野での発表が行われた。

福田教授は、ウクライナ侵攻は突然始まったわけではなく、第2次チェチェン紛争(1999年〜)、南オセチア紛争(2008年)、シリア内戦(10年〜)、クリミア紛争(14年〜)という20年来の流れの中の出来事であり、「歴史を見ていれば十分予測可能であったが、国際社会や米国はこれを放置していた。ロシアと宥和政策を取っていた日本にも責任がある」と断じた。

続いて小谷教授は、ロシアの偽情報(フェイクニュース)に対し、米国は機密情報をあえて公開し、英国と共にウクライナにも提供するという「正しい情報で偽情報を駆逐する」作戦が奏功し、100年の伝統があるロシアの偽情報工作を不発に終わらせていると指摘した。

自由、民主主義、基本的人権という価値を守る

安藤教授は、プーチン大統領を国際刑事裁判所(ICC)で裁くには、①逮捕状の発付②身柄の拘束―というハードルがあるものの、戦争犯罪といった重大な国際犯罪に責任を有する者に対し、「不処罰を許さない」という姿勢を国際社会全体で示すことが重要と述べた。

吉富望教授

吉富望教授

陸上自衛隊出身の吉富教授は、ウクライナが抵抗を続けられる最も重要な理由として「自由、民主主義、基本的人権という価値を守るためには多くの人命が失われてもやむを得ない」とする「国民の抵抗意識」を維持し続けていることだと指摘。

翻って「人命より重要な価値というもの、侵略されたら抵抗するのか、しないのか、ということをどれだけの日本人が真剣に考えたことがあるのだろうか」と疑問を呈し、ウクライナ防衛より日本防衛は遙かに難しく厳しい環境にあるとの認識を示した。

フェイクニュースには日本語能力の涵養が重要

安藤貴世教授

安藤貴世教授

この後、先﨑教授が論点をリードする形で、①国際機関の可能性とその限界②情報社会の中でどう生きるべきか③日本が学ぶべき教訓―などについて意見交換を行った。

安藤教授は国連の安全保障理事会が常任理事国ロシアの拒否権で機能不全に陥っていることを踏まえ、国連総会の緊急特別会合が開かれ、ロシアへの非難決議が採択されたことに言及。そうした状況において、「総会の機能強化が重要ではないか」と述べた。さらに米中の不参加で日本が最大の分担金拠出国となっているICCにおいて、日本がリーダーシップを示していくことが重要だとした。

小谷賢教授

小谷賢教授

情報社会に関しては、小谷、先﨑両教授がフェイクニュースを峻別するには日本語の能力と情報リテラシー(活用能力)を普段から涵養(かんよう)することの重要性を強調。「タイトルだけでなく文章を最後まできっちり読んで理解するのは当然至極。誰が書いたのかを見極め、情報の裏を取ることも必要」(小谷氏)と語った。

市民一人ひとりが平時から議論を

日本としての教訓では、吉富教授が日本の防衛に関し「米国や国際社会からの支援に期待する以上、相互主義の観点からは今、日本がウクライナに何をしているかが問われる」との認識を示した。

福田充教授

福田充教授

小谷教授は「日本は自由と民主主義の理念を標榜する以上、領土・領域に加え、こうした理念も守っていく必要がある」とした上で、「ウクライナ危機が突きつけているのは、命を懸けてまで守らなければいけないものは何なのか、という点にある」と語った。

福田教授は、防衛研究や有事への言及が一部でタブー視されてきたことに触れ、「日本が戦争や安全保障にどう向き合うべきか、市民一人ひとりが平時から議論し、決めて行く。その姿勢が重要だ」と述べた。

学生からの質問は教授陣をうならせた

学生からの質問は教授陣をうならせた

学生との質疑応答では、①日本の国際社会での役割と貢献 ②ロシアのプロパガンダとフェイクニュースへのリテラシー対応 ③北大西洋条約機構(NATO)のウクライナ支援と戦争激化における安全保障のジレンマ―などといった質問が矢継ぎ早に飛び出し、「本学部で数年間学ぶとこれだけの質問ができるようになるわけですね」(先﨑司会者)と教授陣をうならせる場面もあった。

最後に先﨑教授は「社会の複雑な成り立ちを学び、その先の解決策を模索していくのが大人であり大学教育の場です。参加者も視聴者も一人ひとりがこの戦争や災害の危機を乗り越えられる大人の一員になってほしい」とのメッセージを送り、討論会を締めくくった。