SDGsに取り組む本学馬術部の日常
「人馬一体」で目指す強く地球に優しい競技部

取り組み・活動
2021年11月04日

「馬が合う」。乗馬に由来し、馬と乗り手の呼吸がぴったり合っている様が転じて、人間同士にも用いられ、気が合うことを言うようになった。
他にも「馬の耳に念仏」「馬子にも衣装」など「馬」を用いた言葉が多く存在する。日本では古くから動物の中で「馬」が人間に近い存在だったことが想像できる。

その馬を操り、まさに人馬一体を競うスポーツが「馬術」だ。1900年の第2回パリ大会で五輪正式種目となった馬術。動物と一緒に競技を行う唯一の種目で、男女の性別で分けることなく競う唯一の競技でもある。「多様性」、そして人だけではなく馬という動物を扱い生活することで自然と浮かび上がる「SDGs」のキーワード。

本学馬術部は1924年(大正13年)に創部。大正、昭和、平成、令和と4元号にわたり活動。他の競技部の寮生活とは違う「馬」と学生が歩幅を合わせて共生してきた。馬の生活と地域とのつながり、多様性に富み、環境問題にも目を向けるその取り組みを、SDGsの項目に沿って紹介する。

馬の表情で疲れているか分かる

朝4時30分。真夏でもまだ空は暗い時間に始まる。季節関係なく365日、同じスケジュールで世話をする。
朝早いことに目がいくが、朝の厩舎の状態で、馬の体調を確認する大切な時間だ。

一日の始まりは早い。朝4時30分から全員参加のミーティングで、スケジュールや共有事項を確認して一日が始まる。

ミーティング後は決まったルーティンで馬の世話をして、授業の始まる9時には終える。

朝飼(馬体チェック、36頭の世話)
馬房掃除、馬の手入れ
各自馬具の手入れ

この流れを365日繰り返す。

「慣れですね。父も競走馬の世話をやっていて、それを見ていたので」と、平山直人主将(生物資源科学部4年)。

診療班は馬の脚を触り、腫れや熱を帯びていないかチェックする

診療班は馬の脚を触り、腫れや熱を帯びていないかチェックする

馬体チェックは診療班が行う。
「馬を引いて歩いて歩容が悪かったり、馬体を触って腰や足が張っていないか異常がないか。早期発見を大事にしています」(松若流星・生物資源科学部4年)

常に獣医のコーチがいるわけではないため、日々の馬の体調を伝え連携を取るために診療班は欠かせない役目だ。

「足が腫れていたら試合に出られないので、体に痛いところはないかをチェックします。顔を見たら疲れているか分かります。人間と同じように表情で分かります」(重藤エディット彬・生物資源科学部4年)

今年、全日本学生三大大会で団体戦11連覇を目指す平山主将

今年、全日本学生三大大会で団体戦11連覇を目指す平山主将

寮と馬場の近くにある生物資源科学部で獣医学を専攻している学生も多い。座学で勉強したことを実践できる環境にある。

班はほかにも、装蹄、輸送、総務(大会エントリーなど事務)などがあり、2年生から割り振られ、それぞれ4年生がまとめている。
動物を扱いながら、組織がしっかりとできている。

「馬術のうまさは同調性にある。馬の動きに合わせて乗ること。だから毎日乗って、毎日触らないといけない。同じことを毎日できるかが大事」と、指導する小川登美夫コーチは言う。

廃棄を有効活用。馬糞(ボロ)を肥料に

SDGsマークの12と17版

馬は草食動物のため、馬糞(ボロ)が体調を確認する上で重要になる。
とはいえ、人間よりはるかに大きい体躯の馬が36頭もいれば、廃棄する量も多い。

添加剤をまいて発酵させ肥料会社に引き取ってもらうことや、廃棄場所に捨てにいっていたこともあったが、輸送費も掛かるなど問題もあった。

活用するボロは毎朝馬房掃除で収集する

活用するボロは毎朝馬房掃除で収集する

そんな折、寮の食事を作ってくれる方の御子息が藤沢市議会議員を務めていた縁で農業組合に橋渡しをしてもらい、藤沢市農業委員会を通して農家に肥料としてボロを無償で引き取ってもらうことになった。

そこで作られた野菜を寮に持ってきてもらうなど、地域交流にもつながり資源が循環する仕組みが出来上がった。

動物に触れることで前へ前へ

乗馬、馬術を始めるきっかけに、セラピーの要素がある。
ホースセラピーとは、馬と触れ合うことでその人に内在するストレスの軽減、あるいは自己効力感を高めることを通じて、精神的な健康を回復させることが期待できる動物介在療法の一つである。
対人関係がうまくいかない人が、馬との信頼関係を築いていくことで、コミュニケーション能力を高められることが知られている。

また、現代社会では動物と触れ合う機会があまりないため、本学馬術部では地域の子供を対象に乗馬体験を実施し、その機会を提供している。

実際に乗馬体験から乗馬を始めたという声を聞くという。いつか、ここで乗馬体験した子供が馬術部に入部することがあるかもしれない。

SDGsの3番

<実績>
・六会小学校 円行地区 子供体験乗馬
・天神町自治会、桜が丘自治会 子供会触れ合い乗馬
・近隣在住のインドネシア人技能実習生の触れ合い体験及び文化交流
・藤沢市青年会議所 主催「未来予想図フェスタ」に地域貢献活動として市の公園で引馬乗馬体験
・藤沢市生涯学習部 子供向け乗馬教室を開催
・六会ホースショー

大学から馬術を始めた学生を対象にした馬術大会。ルールやマナーを学び、他大学との交流を目的として開催。2019年までに21回を重ねている。

馬でつながり文化も言葉の壁も超えて通じ合う

SDGsの5と16番

五輪種目で唯一男女が同じフィールドで争う。

本学馬術部も男性18人、女性17人とほぼ同数の部員が在籍。力や技術に頼らない人間力を育み、性別や能力に関係なく誰でも活躍できるクラブを目指している。

現在、生物資源科学部2年のアンナ・ボルトニックさんは、ポーランド出身でフランスの大学から留学している。

10歳で競技を始めたアンナさん。馬を介して文化や言葉の壁を超える

10歳で競技を始めたアンナさん。馬を介して文化や言葉の壁を超える

「フランスと日本は馬術生活のシステムがすごく違います。世界では自分の馬を持って毎日同じ馬に乗って生活することがスタンダード。日本の大学のように、いろんな馬に乗ってみんなで世話するということはない。ここは大きな家族みたいなチーム。家族で過ごして経験を積んでいくことが違いです。ヨーロッパでは得られない経験だと思いました」

馬を介して、貴重な経験を求めて日本へ。来日してから語学を勉強して、日本語検定2級を取るまでに上達。インタビューも日本語で答える。

日本とヨーロッパの一番の違いは?
「先輩後輩という日本独自の関係です。1年経って私も先輩になりましたが、ヨーロッパではこういったシステムはないです。大きなショックでした。みんな友達なのがヨーロッパです」

馬術部は毎日の練習、世話をする馬との関係、そして部員とのコミュニケーションにいたるまで、馬を介して通じ合える。そこに言葉や性別は関係ない。競技性と、日本独自の部活文化が相まって、意識せずとも持続可能な社会を学び実践している。365日休むことなく。

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