音楽を通して人と人をつなげるオーケストラへ!
日本大学管弦楽団、活動再開への道のり

取り組み・活動
2021年06月07日

バイオリン、フルート、トランペット、クラリネットにコントラバス――多彩な楽器の奏者が一堂に会し、華やかなハーモニーを奏でるオーケストラが日本大学にもある。日本大学管弦楽団、通称日オケだ。

1968年の発足以来、その演奏は学内外の多くの人々に感動を与えてきた。それが2020年3月、新型コロナウィルス感染拡大の影響により、いっさいの活動が停止に追いこまれてしまう。1年以上経った今も、音はやんだままだ。

人が集まり、音を合わせてこそのオーケストラ。それが叶わない今、団員が楽団に向ける思いとは?2021年春、日オケを率いる3人の団員に話を聞いた。

お話を伺った人
・団長/ホルン担当 青木元成さん(文理学部社会学科3年生)
・コンサートミストレス/バイオリン担当 石井莉紗さん(経済学部経済学科3年生)
・広報チーフ/オーボエ担当 澁澤恒輔さん(文理学部地理学科3年生)

個性豊かなメンバーが奏でるダイナミックな演奏

2018年に50周年を迎えた日本大学管弦楽団(以下、日オケ)。毎年6月と12月に定期演奏会を開催する他、大学地元の商店街が主催する音楽祭りや野外フェスなど地域イベントにも出演。卒業式を始めとする大学祝典行事では校歌演奏を担当するなど、幅広い演奏活動を行っている。

メンバーは、法・文理・経済・商・理工・生産工・生物資源・芸術など首都圏にある学部の学生約80人、外部から招く指揮者とトレーナーだ。その中身はというと、幼少の頃から楽器を習っていた、大学で初めて楽器に触れた、高校まで野球やサッカーに打ちこんでいた、芸術家肌など、さまざまな学生が勢ぞろい。個性豊かな面々が、いざ音楽に向かうとなれば一つにまとまり、息の合った演奏を響かせる。

「迫力のある音を出したいときは勢いとパワーのある学生が、繊細なハーモニーを聞かせたいところでは協調性のある学生が活躍するというように、一人ひとりの個性が生かされている。個性豊かなメンバーが奏でる、抑揚のあるダイナミックな演奏が日オケの神髄」と青木さんは誇らしげに語る。

一体感のあるハーモニーを生み出すオーケストラの舞台裏

数十人から成るオーケストラ。一体感のある演奏をするために、指揮者の他にも様々な役割がある。石井さんが担当するコンサートミストレス(男性はコンサートマスター)は、いわば演奏者のリーダー。指揮者の意図をくみ取り、演奏中は音の出だしやテンポをボーイング(弓の動き)やアイコンタクトで演奏者に指示し、楽団を統率する。各パートをまめるのはパート・リーダーだ。音楽の表現や表現を左右するボーイングなどは、コンサートミストレスとパート・リーダーが話し合いながら決めている。「メンバーとコミュニケーションを取りながら音楽をつくり上げていく過程も、オーケストラの醍醐味」と石井さん。

一方、楽団の運営を引き受けるのが、団長や広報などのマネジメント部門だ。団長の青木さんは、楽団の代表として運営方針の決定や大学との調整役を担い、広報の澁澤さんは、演奏会の集客や楽団公式SNSの運営など楽団外部に向けた活動を担当。メンバーが演奏に集中できる環境を整える。

「学生らしく、メッセージ性のあるエネルギッシュな演奏で観客を感動させたいと、メンバーが日々一丸となって取り組んでいる。演奏会でクライマックスを迎え、すべてを出しきり、お客様からの本当に温かい拍手喝采に包まれたとき、このために頑張ってきたと胸がいっぱいになる」(青木さん)

活動できないオーケストラに多くの新入生が入団

通常であれば週3回、八幡山にあるサークル学生会館などを拠点に合奏練習やパート練習を行い、定期演奏会の直前ともなれば、ほぼ連日練習となる。それが2020年3月以来、まったくできない状況となってしまった。

「演奏できないだけでなく、みんなと集まることもできない。自分も含め、どうやって団員のモチベーションを維持すればいいのか悩んだ」(石井さん)

「昨年入団してくれた新入生と、一度も顔を合わせられずにいる。もし、何も教えられないまま自分たちが卒業し、1年生が取り残されてしまうことになったら…。楽団存続の危機を感じた」(澁澤さん)

不安に包まれる日オケに小さな変化が起きたのは、活動再開の目途が立たないまま迎えた2021年の年明けのこと。きっかけは、青木さんが「今できることをやってみよう」と企画したリモートアンサンブルだ。群馬、埼玉、神奈川の自宅にいる団員がそれぞれに演奏動画を自撮りし、青木さんがそれを集めて1本の動画に編集。団員と共有した。

「完成した動画を見たら、まるで3人が同じ場所で一緒に演奏しているようだった。離れていてもつながることはできると、大きな励みになった」(青木さん)

他の団員も刺激を受けた。「離れ離れでは合奏できない」そう思っていた石井さんも、この方法なら、と一念発起。バイオリンパートでリモートアンサンブルに挑戦しようと、メンバー18人から音を集めているところだ。

そして迎えたコロナ禍2年目の春。団員は精力的に新入生募集活動を展開した。例年は学生食堂や各学部に出向いて新入生歓迎コンサートやチラシ配布などを行うが、それができない昨年からはオンラインやSNSを駆使。今年はより多くの新入生が参加できるよう、ビデオ会議システムzoomを使ったオンラインの入団説明会を複数回開催し、また、オンラインでも日オケの雰囲気が伝わるようにと、グループミーティング用の機能を使って希望の楽器・学部ごとの交流も行った。そこでは、授業の履修登録など新入生の相談にも対応。入学後も通学が制限され、学生との交流がままならない新入生にとって、先輩から大学生活について直接教わる貴重な場にもなった。

活動の結果は上々。例年約20人が入団するところを、1次募集の段階で25人が入団し、今も入団の問い合わせが続いているという。

コロナ禍で見つけた日オケの新たな使命

活動できない状況が1年以上続き、楽団はバラバラになってもおかしくなかった。それにもかかわらず団員が離れることなく、多くの新入生が入団した理由を、澁澤さんは「こんな状況だからこそ、みんなが人とのつながりを求めているのだと思う。日オケは今、音楽をするだけではない。みんなの大切な居場所としても機能している」と話す。

仲間と音楽について熱く語り合ったり、他愛ないおしゃべりをしたり、先輩が後輩を指南したり。大学生活には学生が集う場が不可欠だ。3人は「何としても日オケを存続させ、これからは音楽を通して人と人がつながり、学生がより楽しく活動できる場を目指していこう」と決意を新たにしている。

目下、活動再開に向けて奔走中の団員たち。一日も早い練習再開を目指し、練習時における感染拡大予防のためのガイドライン作成など、感染予防に徹底した環境整備を進めている。目標は、12月の定期演奏会開催だ。

「実現した暁には、困難を乗り越えた喜びと感動をみんなと分かち合いたい。そして指揮者、トレーナー、演奏会に足を運んでくださるファンのみなさん、エキストラとして協力してくれる外部奏者の方々、OBOGなど、日オケをいつも応援し、支えてくれているみなさんに心から感謝を伝えたい」と3人は口をそろえる。

ようやく見えた道筋を、全団員が今、心を一つにして歩き始めている。仲間が集まり、音と音を合わせられる日々が再び訪れることを信じて。