【研究者紹介】
困難な骨の垂直方向への再生に挑戦

歯学部 佐藤 秀一 教授

研究
2020年02月12日

歯周病で溶ける顎骨再生の30余年、地道な実験重ねた日々も佳境に

父親が日大医学部の産婦人科主任教授だった上に、父母の祖父はともに歯科医という家柄。親戚も医者か歯科医ばかりとあっては、この世界へ進んだのは自然の流れだったのだろう。

歯学部へ入学した当時も、虫歯(う蝕)が減って「これからは歯周病が最大の課題になるだろう」と盛んに言われていたそうだ。以来、30年余り。その脅威は強まるばかりで弱まることはなかった。

歯周病は、口の中にたまった菌が出す毒によって、歯を支えている顎の骨が溶け、歯そのものが抜け落ちてしまう恐ろしい病気。その失った骨を再生させようというのが、佐藤教授の研究テーマである。

動物で垂直への再生確認

佐藤 秀一 教授

歯学部 佐藤 秀一 教授

その研究が注目されるようになったのは、困難とされる縦(垂直)方向へ骨を増やすのを、動物実験で成功させたことからだ。うまくいけば、これを顎の骨の成長に利用することができる。

具体的な手法はこうだ――。ウサギの頭に内径8mm、高さ4mmのおわん状のチタン製帽子をかぶせ、その中に組織の再生に必要な細胞と、足場となる移植材、成長を促進する薬剤の3因子を投入。3カ月ほどかけて、その成長を確認するというわけである。

ただし、教授は「条件によって、垂直方向に骨が再生するのを確認できただけ」と、いたって慎重だ。というのも、骨がどのような仕組みで垂直方向に再生されたのか具体的な理屈がまだまだ解明されていない。そこを解き明かして初めて、実際の患者を想定した治療法として確立できるのである。

骨の再生には3因子の組み合わせが重要だが、その組み合わせはそれこそ無限大。近年の実験動物に対する使用制限もあり、実験はウサギからネズミに、かぶせる帽子も内径4mmのプラスチック製に縮小させた。現在もそれらを組み合わせた、気の遠くなるような細かな作業を、地道に重ねる実験の日々が続く。そこは「永遠のテーマ」だ。

iPS 細胞を開発した京都大学の山中伸弥教授率いる研究グループに象徴されるように、今や再生医療は世界中の研究者が切磋琢磨して競い合うホットな分野なのである。

文部科学省の科学研究費助成事業から支援を受けて進める佐藤教授の研究も、現在が佳境。垂直方向の再生では骨は下から再生してくる。しかし、下からの再生には限界がある。そこで上からも再生させようというのが当面の研究テーマだ。

「骨の表面には骨膜という骨を再生させる成分をたくさん含んだ組織があり、それを剝がして上から使いたいのだが、剝がしてしまうと一部が傷んで、そのまま使えない。人工的に造るかという段階で四苦八苦している」

歯周病対策は歯ブラシ

テレビの医療番組に出演した佐藤教授

テレビの医療番組に出演した佐藤教授

長年向き合ってきた歯周病だが、歯周病を完治させる治療法は、いまだない状況である。

そのような中で、失った歯の代わりとなるインプラント治療が普及してきた。しかし、歯周病がひどくなって歯を抜くと、抜いた後に顎の骨が真っ平になる。そうなると、インプラント治療はできない。そこで、真っ平になった顎の骨をどのようにしたら確実に高く(垂直方向)増やせるかが課題となるわけだ。  

「インプラント治療は非常に優れた治療法ですが、自分の歯に勝るものではありません。この研究成果を歯周病の治療にぜひ、応用させたい」

日本歯周病学会常任理事でもある佐藤教授は、「歯周病の根本対策は、歯ブラシです」とマスコミでも啓発に努めている。

「たかが歯ブラシ、されど歯ブラシ」だが、毎日、部屋の隅々まで掃除するのが難しいように、歯ブラシを毎日きちんとすることが難しいのは十分に理解している。

「歯磨きをきちんと行うには結構な時間がかかります。年をとれば、よけい面倒になるものです」

患者を理解し、それに寄り添おうとするほど、責任は重くなっていくばかりだ。

歯学部
佐藤 秀一(さとう・しゅういち)教授

昭和63年歯学部卒。平成2年に本学助手。米ミシガン大へ1年間の留学の後、専任講師、准教授を経て、27年から教授。
日本歯周病学会常任理事、日本歯科保存学会理事、ライン歯科研究所評議員、日本口腔保健協会評議員、東京都歯科医師会広報委員(学術)、日本歯周病学会指導医、日本歯科保存学会認定指導医など。博士(歯学)。神奈川県出身。55歳。