【研究者紹介】
歯科医療の新分野でリーダーシップを

松戸歯学部 鈴木 浩司 准教授

研究
2020年04月15日

いびき・睡眠対策で社会に発信、「スポーツ日大」飛躍の原動力にも

2日にわたる3試合。413球を一人で投げ抜き、金メダルに輝いた歓喜の表情にはマウスガード(MG)の白さもひときわ輝いていた。

2008年北京五輪のメダリスト、上野由岐子選手からMGの製作依頼があったのは大会の1年前。金メダルの威力はすさまじく、その製作者も「笑っていいとも」や「さんまのスーパーからくりTV」などバラエティー番組に呼ばれることに。

東京五輪でも活躍

松戸歯学部 鈴木 浩司 准教授

松戸歯学部 鈴木 浩司 准教授

「おかげで力を発揮するには奥歯をかみしめた方がいいのは誤り、というのがようやく認知されてきました。上野選手の場合、投球時に歯を食いしばるのではなく、ベロを出す癖があるという宇津木妙子監督の話をヒントにしました」

下顎をMGで固定したところ癖も治り、上野選手からは「北京では指の皮がむけて力が入らないのに力投できた」と感謝された。

東京五輪を控え、空手、ソフトボール、男女ラグビー、サッカーなど各競技選手の歯科治療、MG製作で多忙を極める一方、日本オリンピック委員会の強化委員として代表選手への歯科治療、リハビリや薬物・睡眠指導も行っている。また、日本アンチ・ドーピング機構のドーピング検査員(DCP)としてアスリートの検査にも携わる。

治療で競技力向上

一方、“口に入れるもの担当”として、睡眠時無呼吸やいびき防止に効果があるマウスピース(MP)治療を行う、いびき外来長も兼任する。

「目下の一番の研究テーマは、スポーツ選手の睡眠状態を歯科的に治療して、競技力向上に生かすことです」

社会人ラグビー選手42人の睡眠検査を行ったところ、7割は睡眠に問題があった。6人にMP治療を行った結果、寝坊続きで遅刻の常習犯だった外国人選手は「寝たってこういうことなんですね」と感慨を示し、いびきに悩まされていた選手の家族からは大いに感謝された。

それだけではない。MP治療の前後で反応テストを行った結果、リアクションタイムが大幅に改善した。これを中学3年の受験生に応用した結果、集中力が高まり、母親から「先生、成績が上がりました!」と報告があったという。

昨年11月下旬、その研究成果が認められ日本睡眠歯科学会の学会賞を受賞した。

日大の総合力で

「自分の睡眠は正しいという思い込みを捨て、いびきは病気という認識を持つだけでも競技力は改善します」

正しい睡眠知識を得るため「睡眠健康指導士」の資格も取得。歯科治療から睡眠にアプローチする分野では日本をけん引する立場だが満足はしていない。

「駅伝では東海大学が既に睡眠に注目しだしました。本学は板橋にも駿河台にも睡眠の専門医がいる。メンツはそろっている。スポーツ科学部や競技スポーツ部と連携し、日本大学がリーダーシップを取って進めていけば必ず可能性が開けるはずです」

“スポーツ日大”がさらに花開く、その際のキーワードは睡眠かもしれない。

オフは選手に同行

上野選手、同所属チームの監督、コーチとの写真撮影

上野選手、同所属チームの監督、コーチと

医者一家に生まれたが、高校生の時は芸能界に憧れた。両親にそのことを話すと、「まずは歯医者になってから芸能人を目指せと言われて。完全に丸め込まれました」(笑)。バラエティー出演で往時の夢が少しはかなったのかもしれない。

スポーツ歯科医として、MGの歯型取りなどで同行する試合や合宿はほとんどが土日か夜。「出掛けるとき、家族からは趣味なの、仕事なのと言われています」

「これからの歯科医療に必要なのは虫歯治療だけではなく、歯をいかに守るかとか、いびきや睡眠対策など健康に関する新しい分野。若い人を育て、そういうところで日本大学がうまくリーダーシップを発揮し、社会に発信していきたい」

松戸歯学部
鈴木 浩司(すずき・ひろし)准教授

本学大学院松戸歯学研究科修了。平成13年松戸歯学部専修医。助手、専任講師を経て31年同口腔健康科学講座・顎口腔機能治療学分野准教授。
24年同付属病院いびき外来長、28年同スポーツ健康歯科科長を兼務。
日本スポーツ歯科医学会認定医、日本睡眠歯科医学会認定医、日本オリンピック委員会強化委員、日本アンチ・ドーピング機構シニアドーピング検査員。埼玉県出身。51歳。