【研究者紹介】
一人一人が笑顔で生きられる社会を目指す

危機管理学部 鈴木 秀洋 准教授

研究
2020年04月28日

行政実務の最前線から研究者へ。
多様な個々人の安全・安心を守る行政を研究

命を守る行政

危機は災害やテロリズムに限らない。児童虐待、DV、差別、いじめ、ストーカー、貧困――命を日々脅かされる人たちが、見えないところにたくさんいる。さまざまな問題を抱える、多様な一人一人の命を守る「危機管理行政」。それが、鈴木准教授が切り拓こうとしている分野だ。

危機管理学部 鈴木 秀洋 准教授

危機管理学部 鈴木 秀洋 准教授

父親は警察官。さまざまな犯罪被害の話を見聞きして育ち、子どもの頃から「誰もが笑顔で生きられるということが、なぜ、こんなにも難しいのだろう?」と考え続けてきた。

大学では法律を専攻。警察官や検察官を目指した時期もあったが、迷った末、社会のさまざまな課題解決に関わることができる行政、中でも、住民と顔を突き合わせ、喜怒哀楽を共にしながら課題を解決していくことができる、住民最前線の自治体行政を選んだ。

公務員時代は、危機管理課、東京23区法務部、子ども家庭支援センターなど、さまざまな現場を担当。性的マイノリティー、災害弱者、DV被害者、虐待に苦しむ親や子どもたち…たくさんの困っている人、生きづらさを抱えた人、助けが必要な人たちと出会い「どうすれば、この人たちが笑顔になれるか?」一心に考え、動いてきた。

行政実務最前線での経験は「住民の権利利益を向上し、個々人の尊厳を守るために、多様な一人一人の問題に向き合うのが行政。行政にできることはもっとある」との信念を揺るぎないものにした。

公務員は天職と思っていたが「一人一人が安全・安心に生きられる社会の実現のため、より広い観点から課題に取り組みたい」と、大学教員・研究者に転身。今は、個々人の命を守る法制度設計の理論構築と実践に取り組み、また「社会を変えるには若い世代の育成も重要」と、学生とも真剣勝負で向き合う日々だ。

現場と対話を重視

児童虐待防止の法制度設計について日本記者クラブで会見の様子

児童虐待防止の法制度設計について日本記者クラブで会見

目黒区、野田市、札幌市――社会に衝撃を与える児童虐待死事件(検証委員を務める)が相次ぐ中、鈴木准教授は子どもを守る体制についてこう指摘する。

「センセーショナルな児童虐待死事件が起きると、児童相談所の対応ばかりが注目されますが、子どもに関わる機関は、保育所、学校・教育委員会、保健機関、医療機関、警察、里親、民間施設・団体、弁護士など複数あり、児童相談所はその一つにすぎません。各機関が子どもを守るとの思いを共有し、凸凹をつないで積極的に連動するための制度構築と、その具体的運用が求められています」

児童相談所中心の「点」の支援から脱却し、市区町村中心の「面」の支援へ移行するため、鈴木准教授は2022年度までに全市区町村が設置を義務付けられている「子ども家庭総合支援拠点」設置に向けた調査研究と、設置推進に取り組んでいる。子ども家庭総合支援拠点とは場所ではなく、市区町村を中心とする地域ネットワークが、子どもと親を切れ目なく継続的に支援する「機能」のことだ。

鈴木准教授は全国の自治体や関連機関へのヒアリング調査、現場との検討会を重ね、研修や自治体へのアドバイスも行うなど、実効性のある拠点運用の仕組み作りに奔走する。

こうした取り組みの他、災害時に高齢者や障害者、妊産婦、乳幼児など特別な配慮が必要な人を受けいれる「福祉避難所」の制度設計や運用、ストーカー被害者支援の自治体向けマニュアルの作成など、鈴木准教授は研究者となった今も、実務に積極的に関わる。大切にしているのは、可能な限り現場に足を運び、多くの人々と対話することだ。現実の課題と向き合い、現場調査から得たエビデンスと法的根拠をもとに、解決策となる制度設計を提示する。「何より、私は人が好きなんです。つらく困難なことも、人と会って話しながら一緒に解決していけば力が湧く」と笑う。

「社会の課題は山積みで、時間がいくらあっても足りない」
今より少しでも良い世の中にして、次世代にバトンをつなぐため、走り続ける。

危機管理学部
鈴木 秀洋(すずき・ひでひろ)准教授

本学法務研究科修了。法務博士(専門職)。保育士。東京23区法務部、文京区総務課長補佐(秘書)、危機管理課長、男女協働課長、子ども家庭支援センター所長等歴任
【授業】行政法・地方自治法
【研究】児童虐待・DV(厚労省受託)、災害弱者・福祉避難所(科研)等
【審議会・学会】厚労省、内閣府等。日本公法学会、警察政策学会、日本子ども虐待防止学会等。
埼玉県出身。52歳。