【研究者紹介】
水の摂理を数値解析・モデル構築

工学部 金山 進 教授

研究
2020年09月02日

実務に生かせる沿岸環境研究、コンサルティング教育に重点

金山教授は測量の請負が家業だった関係から土木に親しみを覚え、大学でこれを専門としたのも自然の選択だったそうだ。

決定的だったのは海洋土木の最大手である五洋建設に勤め、以来30年にわたって海岸、海洋関係のコンサルティングに従事してきたこと。土木設計部や技術研究所、さらに社団法人水産土木建設技術センターへの出向を通して、海上工事に欠かせない波の数値解析の研究を重ねてきた。

新しい波動解析モデル

工学部 金山 進 教授

工学部 金山 進 教授

中でも有名なのは、多層波動方程式の開発である。海の波は深さによって動き方が異なるが、それを複数の層に分けて計算することによって精度の高い波動方程式を提案した。この方程式は水中の一部の層だけに鉛直な壁を設けたり、層の境界に水平な壁を設けたりという特殊な境界条件の設定が可能という特徴も有している。

例えば、海水浴場を浮き輪付きの膜などで仕切って、波を抑えることを検討する際にも用いることができる。海面からある程度の高さで仕切れば、下の部分が開いていても、穏やかな海面を確保することができるというのである。

とはいえ、水の運動法則を重ね合わせて各層の状態を計算するというのも相当に面倒に違いない。そんな多層連成のモデルを金山教授が構築したわけだ。

流体と膜の連成モデル

もう一つ、金山教授が開発したものに、海洋工事に伴う「濁り」の広がりに関する数値解析モデルがある。

浚渫作業などで濁りの広がりを防ぐためには汚濁防止膜なり、油の場合はオイルフェンスを設計しなければならない。これらは波や流れによって流動・変形するが、このことを考慮した方が汚濁防止膜などの設計はより合理的に行える。そこで水の動きと膜の動きをお互いの干渉を考慮しながら同時に計算できる手法を開発したわけである。「膜と流体の連成解析」と呼ぶそうだ。

実際に作業現場で濁りの広がり具合を調べるには、大変な出費がかさむ。それを数値シミュレーションで割り出そうというわけである。

湖沼や洪水調査に応用も

水理実験室の開水路で

水理実験室の開水路で

金山教授の沿岸環境研究室で取り組むのは、既に完成しているこれらの数値解析モデルを使い、実際の水域環境を検討することがほとんど。

その応用は多岐にわたり、その一つが猪苗代湖(福島県)の流動に関する研究だった。こちらは解析モデルを開発するというより、ボランティア清掃などの効果を物理面から評価するコンサルティングに近い。解析結果に基づいて事業の計画・評価・検討という即戦力としての実践教育に重点を置いているためである。

さらに5月には、地元の郡山市長からも感謝状が贈られた。実は工学部は同市との包括連携協定に基づいて、昨年10月に周辺を襲った東日本台風の水害調査など「キャンパス強靭化プロジェクト」に学部を挙げて取り組んできたためである。

金山教授の研究室もその一翼を担って、洪水の再現シミュレーションに挑戦してきた。

解析は周辺の溢水とキャンパスの隣を流れる阿武隈川の氾濫の両面からアプローチしたが、主に阿武隈川の氾濫が主因だったことを明らかにするとともに、氾濫の状況をコンピューター上に全て浮き彫りにした。

新型コロナの影響で約1カ月続いた休講もようやく終了し、5月11日からは遠隔授業ではあるが、授業もようやく再開の運びになった。測量などの対面授業もようやく6月から再開され、金山教授もその準備に追われている。

「とはいえ、シミュレーションはあくまでシミュレーション。現実にそぐわない結果なり、自己矛盾した結果が出ても、それを見抜く技術的視点なりセンスを磨いてほしい」。

実践歴30年に裏打ちされた教授の言葉は重い。

工学部
金山 進(かなやま・すすむ)教授

1982年東北大工学部卒、85年同大学院工学研究科修士課程修了。同年五洋建設に入社し、土木設計部や技術研究所に在籍中に同大学院博士課程修了。博士(工学)、技術士(建設部門)。2015年から本学工学部教授。
専門は海岸工学、水工学。土木学会に所属し、海岸工学委員会の委員など歴任。富山県出身。