キャッシュレス化で現金が消える!?

経済学部 経済学科 齋藤 哲哉 准教授

研究
2020年11月17日

ソーシャルディスタンスも相まって急速に進んだキャッシュレス化。
当初は安全性に疑問を持つ現金派も多数いましたが、今ではキャッシュレス決済*の利用者が増えています。
キャッシュレスが普及し、世界から現金が消える日は来るのでしょうか。

Q キャッシュレス決済が普及するメリットはありますか?

経済学部 経済学科 齋藤 哲哉 准教授

経済学部 経済学科 齋藤 哲哉 准教授

キャッシュレスの一番のメリットは便利さです。スマートフォンが普及した現代では、タッチひとつで決済が可能です。財布を持つ必要もなくなり、お金を落とす心配もありません。今後は納税などにも活用されていくでしょう。

また、キャッシュレス化にはお金の流れを明確にするという利点もあります。現金と違い、キャッシュレスではお金の流れがデータとして残ります。

キャッシュレスはセキュリティーに不安があると言う人がいますが、リスクの質が違うだけで現金にもリスクはあります。例えば、武装した強盗がハッキング等による不正送金に変わっただけです。質の違うリスクに対しての備えが必要になります。

Q 日本はなぜキャッシュレス化が進まなかったのでしょうか。

そもそも現金というのは、あるモノやサービスに対する対価として支払われています。
例えば1000円札だったら、それを受け取った人が1000円の価値がある商品と交換できる確信があるから、日本円による決済システムが成り立っています。日本では偽札のリスクも他国より低く、現金に対する信頼が高いです。そのため、キャッシュレスを必要としていなかったことが背景にあります。

一方、発展途上国では、十分な量の通貨が流通していなかったりボロボロになっていたりと、現金の信頼性が低い地域がありますが、そのような発展途上国でも近年ではスマホが広く普及しています。そのため、QR決済のようなキャッシュレス決済は発展途上国から急速に普及していきました。

Q キャッシュレス決済は今後どうなりますか?

間違いなく進んでいくでしょう。キャッシュレス決済の裏には、ブロックチェーンなどの一般には難解な技術が隠れていますが、今後はインフラになってきて、それらの技術を使っているという意識はなくなっていくと思います。

また、今はさまざまな会社がQRコード決済を提供し、ポイント還元などをしていますが、将来的には経営と技術を含めた統廃合が進み、交通系マネーなどの他の有力なビジネスのバックグラウンドがある会社が運営する決済手段と、従来のクレジットカードに落ち着くのではないかと私は考えています。

ただその中でも、いまだ黎明期ですが、ブロックチェーン技術は将来の金融システム「FinTech」のコア技術になる可能性を大いに秘めていると思います。

そして、キャッシュレス決済が一番侵されない領域は実は少額決済です。紙幣がなくなることはあっても、硬貨は今後も残っていくのではないでしょうか。

また、高齢化の問題を言う人もいますが、10年、20年したら、キャッシュレス決済をしている世代が高齢者になるので、そのような問題はなくなるでしょう。

*キャッシュレス決済の歴史
日本のキャッシュレス決済は交通系IC カードの普及が最初だと言われている。アメリカでは小切手からクレジットカード、デビットカードに変遷していった。QRコード決済はスマホの普及に乗じる形で、インフラの乏しい発展途上国や中央銀行が機能していない国から普及し、キャッシュレス化が進んできた。

齋藤 哲哉(さいとう・てつや)准教授

関西学院大商学部卒。神戸大大学院経済学研究科を経て米国ニューヨーク州立大バッファロー校大学院を修了。その後、米国リーハイ大経営経済学部客員助教授を経て現職。経済教育学会理事、日本国際経済学会理事なども務める。