【研究者紹介】
予測できない数理モデルを近似的に捉える

生産工学部 角田 和彦 教授

研究
2020年12月08日

コンピューターを用いた計算工学。津波やコロナ飛沫を数理的にモデル化し、解析

計算工学は、ある現象を数理モデル化し、コンピューターで解析するという学問である。角田和彦教授はその中でも、空気や水などの流れをコンピューターで解析、予測する流体力学を専門とする。コンピューターの頭脳で主要なものに、CPU(中央演算処理装置)と呼ばれるものがあるが、現在はこれ以外にもGPU(画像処理装置)と呼ばれる画像処理に特化した半導体チップも活躍するようになった。

「社会はますます複雑になり、予測がしにくくなっているが、一方でAI(人工知能)の中でDeep -Learning と呼ばれるものが台頭し、その技術は、画像認識を含むさまざまな分野へ適用されてきた」と角田教授は述べる。

複雑系への挑戦が原点

生産工学部 角田 和彦 教授

生産工学部 角田 和彦 教授

高校時代からコンピューター関連のサークルに入部するなど、コンピューターが好きだったという角田教授。きっかけは覚えていないというが、「複雑な現象の解明に挑戦したい」という好奇心が角田教授の研究の原点だ。

角田教授は主に複雑な現象を数理的にモデル化し、流体の流れをシミュレーションしている。この計算工学のたまものと呼ばれるものにスーパーコンピューターがある。
「スパコンの富岳は自然災害など多岐にわたる分野で活躍しています。例えば、現在では室内におけるマスク着用時のコロナウイルスの飛沫感染やエアロゾル感染をシミュレーションしたり、地震が来た際の津波の波形をモデル化したりすることで、飛散経路や津波の高さ、到達時間の予測などができます」。
これらの自然災害には空気の流れや湿度、温度など、さまざまな要素がある。そのため、膨大な計算量が必要だが、スパコンはこれを可能にした。

角田教授によると今後は、量子コンピューターやDNAコンピューターが完成すると、さらに計算処理能力は早くなるという。

学生は批判的視点で

学生に研究を指導する角田教授

学生に研究を指導する

現在は約20人の学生と3人の大学院生を持ち、コロナ禍で学校への入構が制限される中、学生はソーシャルディスタンスに留意しながら、ゼミ室に集まる。

思考をする上で大切なのは論理的、批判的、柔軟に、そして並行に考えることの四つだと角田教授は話す。「最近の学生は論理的に思考することはできていると思います。一方で、批判的に物事を見ない学生が多い。並行的な思考は難しいが当たり前だと思われている物事をもっと疑問に思ってほしい」と学生に批判的な視点で物事を見ることを促す。

自らのアイデアで、カルマン渦と呼ばれる流体中に円柱を置いたときに発生する規則正しい渦列を解析できた時の達成感が今でも忘れられないという。

趣味は絵画鑑賞で印象派が好き。海外に赴任していた頃から、ピカソに代表されるキュービズムの絵を見て、なぜそのような描き方をしたのだろうかと疑問を感じながら鑑賞する。物事を批判的に捉える考え方は、趣味にも通じる部分があることが垣間見えた。

数学の未解決問題

数学の世界には「ミレニアム賞問題」と呼ばれる未解決の問題がある。これは米国のクレイ数学研究所によって2000年に発表された七つの問題のことで、賞金100万ドルが懸けられている。その中でも、流体力学に関する問題が、「ナビエ- ストークス方程式」と呼ばれるニュートン力学の第二法則の運動量の流れの保存則を表す方程式だ。
この問題にも挑戦したことがあるという角田教授。「1年間かけてやってみましたが、その解の存在等の証明は諦めました。今は自分の研究があるため、できませんが、定年後に自分の時間ができたらもう一度チャレンジしたい」と62歳になった今でも、挑戦する好奇心は健在である。

「ナビエ-ストークス方程式」の解の存在等を証明し、角田教授の名前が数学史に刻まれる日が来るのも近いかもしれない。

生産工学部
角田 和彦(かくだ・かずひこ)教授

1980年本学生産工学部数理工学科卒。85年同大学院生産工学研究科数理工学専攻博士号取得。生産工学部助手、専任講師、助教授を経て、2005年から現職。
専門は計算工学と数値流体工学。日本計算数理工学会評議員。日本機械学会、日本計算工学会所属。静岡県出身。