【研究者紹介】
危機的状況下における人権の在り方探る

危機管理学部 杉山 幸一 准教授

研究
2021年04月15日

コロナ禍では「公共の福祉」の意識も
自衛権行使の自衛隊は合憲

菅義偉政権は1月7日、新型コロナウイルスの感染が広がる東京と埼玉、千葉、神奈川の1都3県を対象に、緊急事態宣言を再発令。同13日には大阪、愛知など7府県を対象に加えた。

「緊急事態宣言とは言いながら風船にカミソリを当て、割らないようになでている感じがぬぐえない。対応が遅いのではなく、慎重になりすぎ。その結果ここまで感染が拡大したともいえます」

権力の適切な行使を

危機管理学部 杉山 幸一 准教授

危機管理学部 杉山 幸一 准教授

研究テーマは憲法と危機管理。

「危機的な状況において人権をどう扱うかという問題です。憲法に基づいて国を運営するのが立憲主義。ただ立憲主義というと権力の行使を制限しろという議論ばかりですが、権力を制限するだけでは危機対応はできません。極論を言えば、瓦礫(がれき)があっても行政が財産権の侵害を恐れて撤去しなければ、救急車一台通せない。要はいかに権力を適切に行使させるかを考えなければならないわけで、人権は保障されるが『公共の福祉』の観点から制限されるということも認識しなければなりません」

職業の自由を制限

緊急事態宣言で飲食店などは午後8時までの時短営業が要請された。

「憲法22条では職業選択の自由がうたわれています。これには解釈上、職業遂行の自由も含まれているので営業短縮を強制すれば人権侵害に当たります」

制限するなら根拠を

ただ、政府は新型コロナウイルス対策特別措置法や感染症法の改正案で、知事の営業時間短縮・休業要請に応じない事業者のほか、入院や積極的疫学調査を拒否した感染者に過料(行政罰)を科すことになった。

「人権制限をするならその目的と均衡の取れた規制手段を明確に説明しないと。憲法13条で、国政は『国民の生命、自由、幸福追求に対する国民の権利』を最大限尊重すると規定。だからこそ、危機的状況において国民の生命や自由が奪われる恐れがあった場合、国政はそれらを守るために必要に応じて、かつ最小限に権利を制限することが認められているわけです」

戦力は「目的」

公開ゼミの研究発表(2019年7月)

公開ゼミの研究発表で(2019年7月)

危機管理の一つとして自衛権と憲法9条の関係も研究対象だ。自衛隊は合憲との立場を取る。

「9条1項は『国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する』としています。つまり国際紛争を解決しない手段なら武力行使は認められるということ。要は攻められたときに追い払うだけで、相手の国を屈服させることまではできません」

「敵基地攻撃能力の保持も、ミサイルで攻撃されそうだから自衛権を行使しましたというなら許容範囲でしょう。『国連は早く動けないからその間頑張ってくれよ』というのが自衛権。単独で行うのが個別的自衛権であり、複数でやるのが集団的自衛権なわけです」

一方、憲法は9条2項で「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」とうたう。

「政府は爆撃機や空母など戦力の『程度』を気にしますが、戦力は『目的』で判断すべきだと思います。国際紛争を解決するためでなく、あくまでも自衛権行使の武力使用を目的とするなら2項には抵触しないと考えます」

祖父と父の背中

祖父も父親も本学で法学の教壇に立った日大教員一家。子ども時代、アニメをよそに午後7時にはニュースを見せられ、おのずと社会に関心を持つように。

小学5年生の時「おとうさんみたいな仕事したいな」とつぶやくと、ある日、机の上に日大中学のパンフレットが。以降、父の敷いたレールではなく、自らの強い意志で初志を貫徹した。

オフの日の楽しみは鉄道模型作り。部屋いっぱいに鉄道を走らせるのが夢だ。仕事も趣味も、未知のレールの延伸はまだまだ続きそうだ。

危機管理学部
杉山 幸一(すぎやま・こういち)准教授

日大学・高、本学法学部卒。同大学院法学研究科博士後期課程満期退学。2009年本学法学部非常勤講師、八戸学院大専任講師を経て16年4月から本学危機管理学部准教授。
憲法学会理事、日本法政学会編集委員。
主著に『比較憲法』(弘文堂、共著)、『アプローチ法学入門』(同)など。神奈川県出身。