【研究者紹介】
21世紀は“光の世紀”に

理工学部 須川 晃資 准教授

研究
2021年04月22日

ナノ材料の不可思議な光特性を追求し、環境調和社会、健やか社会の実現へ

現在、須川晃資准教授は「光の力」を用いた効率的な電力供給などの研究に携わっている。そのモチベーションは、研究にある“ロマン”だ。「ある現象を自分が初めて見つける、社会を革新的に変える発見をする。そういった野心を持って挑めるのが、研究の魅力です」

ただし、最初から研究者になれるとは思っていなかった。ロマンよりも現実的な考えから、一度は技術職でカゴメに入社。農作物中の残留農薬を高精度で分析する技術の開発に一心不乱に取り組んだ。一方、企業の利益だけではなく、グローバルに貢献できる研究を目指したいという思いも芽生えた。そのためにはもっと実力をつける必要があると、退社し九州大学へ進学。以前から興味を持っていた「光を閉じ込める現象」の研究に没頭した。

再度企業へ就職したが、大学で研究をしたいとの思いは強く、本学で研究を続ける機会を得た。

光をつかまえる

理工学部 須川 晃資 准教授

理工学部 須川 晃資 准教授

上智大大学院の博士前期課程時は、ディスプレー材料にも使われる「光る分子(金属錯体分子)」の特性を調査する研究室で学んだ。その中で、「見えないが、目の前に強い光が存在している」現象があることを知った。そこから、どうすれば光をつかまえたり閉じ込めたりすることができるのか、この現象をもっと自在に扱うことができれば面白い研究ができると考えるようになった。

「ステンドグラスが赤く見えるのは、ガラスに含まれる金属ナノ粒子が一部の波長の光を吸収し、吸収できない波長のみが目に届くから」。これは一般的な説明だが、厳密には光を“吸収”しているのではなく“つかまえている、閉じ込めている”というのが正確だ。「光をつかまえる」という過程に注目し、つかまえた光を電気へと効率的に変換させる研究の第一人者が、九州大大学院時代の恩師である山田淳教授だった。

「光をつかまえるというのは、いわば光のダムをつくるということです」。同大研究室では、金属ナノ粒子がつかまえた光を利用し、太陽電池の性能を高められることを発見した。光を電気に変換する効率は14倍にもなり、その成果は日経産業新聞にも掲載された。“ロマン”が現実になった瞬間だった。

太陽光の効率利用

学会での講演の様子

学会での講演の様子

本学では、「光をつかまえる」現象をさらに応用するべく、「アップコンバージョン」という現象の研究に取り組んでいる。太陽光の中で最もエネルギーが高いのが紫外線で、可視光線、赤外線の順にエネルギーが低くなる。アップコンバージョンとは、吸収した光より高いエネルギーの光を発する現象。例えば赤外線の光を吸収し、紫外線の光を発することが理論上可能だ。

太陽電池は赤外線などの低エネルギーの光を利用することが苦手だが、アップコンバージョンを活用すれば、低エネルギーの光を高いエネルギーの光に変え、発電性能を上げることが期待できるという。

太陽光のような低い光子数の光でもこの現象を起こせるのが、最近注目されている「三重項対消滅型アップコンバージョン」と呼ばれる現象である。

ただし、まだまだ高い光エネルギーに変換する効率は低いため、金属ナノ粒子の光閉じ込め効果も併用することで、性能向上を目指している。2018年には一定の成果をアメリカ化学会誌に発表することができた。今後も精力的に研究を進める。

新たなロマン

医療技術にも応用する。前述の技術をがん治療につなげる研究だ。これまでの外科手術療法、化学療法、先進医療などは副作用などの危険性と常に隣り合わせだった。

それに対して新たな治療法は、がん細胞に赤外線を閉じ込めることができる金属ナノ粒子を合成し、体の深部まで到達可能な赤外線を照射する。赤外線は、家電のリモコンにも利用される安全な光。がん細胞内に閉じ込めた赤外線を熱エネルギーに変え、がん細胞のみを死滅させるーー。「これからは、人間の健康にも貢献していきたい」。新たなロマンが広がっている。

理工学部
須川 晃資(すがわ・こうすけ)准教授

2002年上智大理工学部卒。04年同大学院理工学研究科博士前期課程修了(理学修士)。04年カゴメ入社。09年九州大大学院工学府材料物性工学専攻博士後期課程修了。博士(工学)。09年住友スリーエム入社。10年本学理工学部物質応用化学科助手。助教を経て17年から准教授。和歌山県出身。