【研究者紹介】
顎や顔面の痛みで歯科医院に来る人のために

松戸歯学部 小見山 道 教授

研究
2021年04月28日

顎関節症、口腔顔面痛の診療にも携わりながら、脳の機能にまで踏み込んで原因と治療法を追究

顎関節症は虫歯、歯周病に並ぶ第三の歯科疾患とも言われる。顎が痛くて歯医者に来る人は意外に多い。小見山道教授はそういった顎の痛みや、顎の機能そのものを研究の主なテーマとしている。

厚生労働省の調査によれば口を大きく開け閉めしたときに顎に痛みがあったり、顎から音がするという症状を持つ人は一定数いる。20代前半の女性では40%以上が音がするという。それらは年齢とともに自然治癒してしまうことも多いそうだ。

悪化してしまう場合の大きな原因になっているのがブラキシズム、つまり歯ぎしりや食いしばりである。人間は力を抜いた安静な状態では上下の歯は2~3mm開いているが、睡眠中に歯ぎしりをしたり、デスクワークなど集中したときに食いしばってしまう人がいる。それにより咬筋や側頭筋が凝り固まって痛みにつながる。あるいは顎の上下の骨の間にある関節円板がずれて音がしたり、口が開かなくなることもあるそうだ。

歯ぎしりや食いしばりというのは癖、つまりその人の脳の運動だと小見山教授は言う。「子どもが箸をだんだん上手く使えるようになるのは、いい意味での運動学習なのですが、悪い意味での運動学習として脳が覚えて、食いしばるという癖がついてしまうんです」。現在は、食いしばることを続けると脳にどういう変化が起きるのか、脳のメカニズムにまで踏み込んで研究しているという。

臨床から得るもの

松戸歯学部 小見山 道 教授

松戸歯学部 小見山 道 教授

小見山教授は松戸歯学部を卒業してから現在まで、隣接する同学部付属病院で、実際に患者を診ながら研究を続けてきた。

研修医や大学職員など健常者に頼んで食いしばりをしてもらって変化を見たり、病院に来た患者と、同年代の健常者を比較して研究したりすることもある。患者の統計も取れるので、臨床研究は充実している。日本顎関節学会では学術委員会委員長を務め、『顎関節症治療の指針2018』の執筆にも携わった。

岡山県出身の小見山教授は父親が歯科医で、子どもの頃からその仕事を見ていて将来の選択肢の一つではあったが、他の学部も受験した中で松戸歯学部に合格。入学後は開業医を目指していたが、臨床のトレーニングをするつもりで大学に残った。何年かして学位が取れるということを聞き、研究を始めて論文を書き博士となる。その後も大学にポジションが用意され、ずっと残ることになった。

最初は補綴歯科材料、つまり入れ歯の研究をしていたが、顎の機能異常を訴える患者と接する中で、顎の痛みがなぜ起きるのか、どうすれば治せるのかという疑問を強く持つようになり、研究テーマが変わってきたという。

「今考えると、何でもよかったのですが、最後は好奇心というか、分からないことが分かる喜びのようなものが私を動かしてきたのだと思います」

ストレスとお国柄

被験者のデータを取る

被験者のデータを取る

顎関節症のほか、口腔顔面痛を訴えて歯医者に来る人も少なくない。舌痛症や三叉(さんさ)神経痛といった病気があり、どちらも高齢者に多い。小見山教授は2003年から2年間ベルギーのルーベンカトリック大学に客員教授として留学し、デンマークの大学とも連携して口腔顔面領域の痛みや咬筋などの研究を行った。

歯ぎしりや食いしばりの根本には、心理的、肉体的なストレスがあることは確かで、生活習慣病、社会的な病気という側面もあると小見山教授は考えている。

留学したときに興味深かったのは、ベルギーは小学校の子どもたちでも顎が痛くなって病院に行くことが多かったのに対し、デンマークは患者が非常に少なく、患者を使った実験ができないほどだったこと。「世界一幸せな国」と言われるデンマークはストレスがないので顎が痛くなる人がいない。一方ベルギーは小学校でも落第があるなど、学校関係のストレスが強いのだという。ちなみに両国と比べると日本は「ちょうど中間ぐらい」と小見山教授は言う。

松戸歯学部
小見山 道(こみやま・おさむ)教授

1989年本学松戸歯学部卒。98年同博士(歯学)を取得。90年から同学部総義歯補綴学講座在職。2001年助手、16年から顎口腔機能治療学分野教授。同学部付属病院口・顔・頭の痛み外来責任者。日本顎関節学会理事・指導医、日本口腔顔面痛学会常任理事・指導医、日本補綴歯科学会指導医などを務める。岡山県出身。