バリアフリーで
人にやさしい街づくりを目指して

文理学部 宮田章裕教授

研究
2021年06月18日

自身が毎年開催するバリアフリーのワークショップに、旧知の間柄であった情報経営イノベーション専門職大学の落合准教授が参加したことがきっかけとなり、「柔らかな交通社会の実現と災害に強い街づくりを兼ね備えた移動支援のためのバリアフリー技術の共同研究」が始まった。

東日本大震災で学んだ“本当の便利さ”

柔らかい交通社会のイメージ図

柔らかい交通社会のイメージ図(平常時の想定)
©2021 Miyako Ochiai

人にやさしいコンピュータをつくる。

現在、文理学部情報科学科で教鞭を執る宮田章裕教授が、そう心に決めたのは、通信事業会社の研究員として災害に強い情報通信技術のプロジェクトで実務リーダーを任されていた、2012年のことだった。

「それまでは面白くて、楽しい経験ができるコンピューティングに興味が強かった。でも東日本大震災のときに、それが直接的に役に立たないことを肌で感じたんです」

プロジェクトでは災害に強い情報通信技術を推進する立場にあったが、現場では、そもそも「情報にアクセスできない」「コンピュータが使えない」というだけで、不利な立場にある人が大勢いることを目の当たりにした。さらに、災害を通して障害のある人々と触れ合う機会も増え、そこで“バリアフリー”という大きなテーマに直面した。

「バリアフリーは、災害時のみならず常に必要なテーマ。であれば、自分の軸足の一つを置いてみようと考えるようになりました」

かつての同僚との共同研究

慶應義塾大学理工学部の4年生のときに、情報科学に初めて触れ、以来、人とコンピュータの関わり合いや相互作用、人がコンピュータをより簡単に利用するためにはどのようなデザインが望ましいかを研究してきた。

そして、軸足の一つを「バリアフリー」に決めてから、さらに実用性のある研究が必要と考えた。

2021年4月1日、宮田教授は、かつての研究員として共に働いたことのあった情報経営イノベーション専門職大学の落合慶広准教授らと、バリアフリー技術に関する共同研究を開始した。

具体的には、“世界中を網羅するバリアフリーマップ”を実現すること。

「程度の差はありますが、バリアフリーマップの必要性は世界共通です。道路を点検して、問題を発見し、それを地図に掲載する、という作業はものすごく労力がかかる。世界中においても特定の団体や建物が独自にやっているケースが大半ですが、この方法では限界があります」

本学を含む各大学や各施設でも、個々の努力により、バリアフリーマップが作成されているが、同様の方法で日本中を網羅するバリアフリーマップを作成することは、莫大なコストの観点から、とても現実的とは言えない。

「私も以前は、街中に出てスマホをかざしたり、ARグラスをかけたりするだけで、通りやすいところが分かるとか、ドローンが道案内してくれるだとか、そういうものにすごくときめいていた。でも、震災後の心境の変化から、もっと手前の段階で困っている人が世界中に大勢いるということが分かったんです。であれば、もう少し実現性の高い部分、すなわち、情報を地図として可視化することが現実的だし、数年以内には実現できそうなものだと捉えています」

地図インタフェース上に、道の通りやすさを表示して、困っている方々にお知らせする、という“人にやさしい”世界の実現。

宮田教授の想い描く“人にやさしい”未来は、もうすぐそこまで来ている。

文理学部
宮田章裕(みやた・あきひろ)教授

2005年日本電信電話株式会社入社。2008年慶應義塾大学大学院後期博士課程修了。
2016年より本学文理学部情報科学科准教授、21年から同教授。
ヒューマンコンピュータインタラクション、アクセシビリティの研究に従事。
情報処理学会2017年度・2018年度論文賞。情報処理学会シニア会員。