【研究者紹介】
肌で感じた情報工学の最前線を伝える

工学部 松村 哲哉 教授

研究
2021年08月20日

新興勢から学んだ教訓。アルゴリズム設計、アーキテクチャ設計、回路設計を通してコスト性能比の優れた設計技術を追求する。

松村哲哉教授が大学に入学した1980年代は「電子立国」時代で、日本が半導体で世界を凌駕した時代。その夢はさらに広がっていた頃だ。

三菱電機で画像処理プロセッサの研究開発に従事し、さらにブルーレイやDVDなどさまざまな機能が一つの半導体に入ったシステムLSIの開発と事業化に取り組む。

やがて台湾や韓国、中国勢が台頭。日本のシェアが次第に侵食されてくるようになった。

「敗因はコストです。良い製品を作るには高機能・高品質にしなければと思ってやってきましたが、新興国勢はコストをかけず、そこそこのものを作ります。そこで市場を奪われたのです」

その頃には50代になり、人に教える喜びを実感して、教員に転身した。

新興勢から学んだ教訓

工学部 松村 哲哉 教授

工学部 松村 哲哉 教授

専門はLSI*アーキテクチャ設計やシステムLSI設計技術に高能率画像符号化(データ圧縮)など。

「システム作りにはまず仕様を考え、製品化に向けてハードとソフトを切り分けなければならない」

そしてハードを作るため、人間の目では分からないレベルで画質を落として良い製品を安く作る。そんなことを俯瞰(ふかん)しながら、全体的な設計技術を身に付けて卒業していってもらいたいと語る。新興国勢から学んだ教訓だ。

*LSIシステム
機能や種類の異なる複数の電子部品(IC)を一つにまとめたもの。省スペース、高機能、消費電力の節減を実現する技術で、スマートフォンやゲーム機、自動車などに組み込まれ、われわれの生活を支える。

設計全体を俯瞰して

松村教授が所属する情報工学科では、「21世紀社会の情報基盤づくりの技術者養成」を目指し、「広い視野のもとに論理的思考力と実務処理能力の基本を身につけた人材を育てる」との教育目標に沿った教育を進めている。

確かに情報工学はアルゴリズムなど多方面の知識が必要であるが、就職すれば自然にその分野に専念するに違いない。それだけに大学ではさまざまな技術を経験をし、設計思想全体を俯瞰してもらいたい。そうした視点があれば、将来にきっ
と役立つはずと断言する。それは自身の体験から学んだ貴重な教訓なのだろう。

松村教授はまた、高品質の画像や音声を送る別のシステムの研究も重ねている。

その一つがAIの顔認識技術で、表情から感情を見分けるシステム。さらにAI用のエッジデバイス(インターネットにつながった端末)を用いた高速画像認識システムや、臨場感のある音を体感できる3次元立体音響システムも研究している。

工学部
松村 哲哉(まつむら・てつや)教授

1984年九州工業大工学部卒。三菱電機LSI研究所入社。博士( 情報工学)
2013年から本学工学部教授。情報工学科主任、次世代マルチメディアシステム研究室。山口県出身。