【改正法で地球温暖化対策はどう変わるか:Part 2 気候変動】ある臨界点を超えると、大きな変化が起こり得る

文理学部地理学科 森島 済 教授

研究
2021年10月18日

地球温暖化対策推進法の一部改正案が、今年5月26日に成立した。
同法は1998年に制定されたが、2015年のパリ協定で定めた目標や、昨年の「2050年カーボンニュートラル(脱炭素社会)」宣言を踏まえ、地球温暖化対策の取り組みをより加速させるための改正である。
この改正法によって日本の社会は、市民の生活はどう変わっていくだろうか─。

カーボンニュートラルが2050年では遅いかも

文理学部地理学科 森島 済 教授

文理学部地理学科 森島 済 教授

地球温暖化が進んでいると言われるが、実際に今何が起こっているのか、どれくらい差し迫った状況なのか、森島済教授に聞いた。

世界の平均気温が近年上昇していることは、さまざまな統計によって明らかだ。極地の氷河が溶けたというようなニュースも耳にする。

「1980年代頃から世界の平均気温の上昇は顕著となり、2000年代初頭にいったん緩やかになったこともあったのですが、その後また上向きに転じ、確実に上昇しています。それによって起こることとして、氷河や氷床が溶けるという現象は分かりやすいですが、一番恐れられているのは、何℃上がればどれだけ溶けるという計算の延長上にあるのではなく、臨界点のようなものがあって、ある点を超えると一気に溶け出すというような可能性も指摘されることです」

気温上昇が温室効果ガスの排出によって起こっていると確実に認められるようになってから、まだ20年程度しか経っていない。今後気候がどうなっていくかについても断言できないことは多い。たとえば、近年の日本各地での集中豪雨や台風、最新の話題ではアメリカやカナダの高温といった現象が、すべて地球温暖化の影響とは言い切れないと森島教授は話す。

1991-2020年の平均気温を0として見た値(℃)のグラフ。

1991-2020年の平均気温を0として見た値(℃)。気象庁『世界の年平均気温偏差の経年変化(1891 ~ 2020年)』より

「温暖化すれば大気中の水蒸気量は増えるわけですから、雨の量が多くなるとは考えられます。しかし、エルニーニョ現象やラニーニャ現象が降水量や台風に影響をもたらすこともありますし、自然変動もありますから、一つひとつの現象の原因が地球温暖化であるとは、専門的な立場では言い切れないところがあります」

とはいえ、現在はグローバルで精緻なシミュレーションモデルがあり、このまま温室効果ガスを排出していくとこうなるという予測は、かなり確度が高い情報になってきているという。

たとえば雨季に降った雨を氷河として蓄え乾季に使っている地域では、氷河がなくなれば水不足になる。氷河の溶けた水を利用して農業をしている地域も多く、当然農産物への影響がある。日本でも日本海側では雪が積もらなくなれば同様のことが起こる。

また、ある臨界点を超えると今の生態系が崩れて新たな生態系が生まれる、ということも予測される。現在でもカナダでは温暖化による虫害により北方針葉樹林が枯死しており、大量のCO²を吸収している森林が失われれば、温暖化はさらに加速する。実は海洋も大量のCO²を吸収しているが、海水温の上昇によって吸収しにくくなることも危惧される。

「パリ協定は判断としては良かったと思いますが、気温上昇を2℃に抑えれば維持できるというのは、言わば希望的観測です。2050年にカーボンニュートラルでは、少し遅いのではないかなと私は考えています。それ以上に、植林などのように積極的にCO²を固定する対策を進めるべきだと思います」

<プロフィール>

文理学部地理学科
森島 済(もりしま わたる)教授

1965年愛知県生まれ。東京都立大理学部地理学科卒。同大大学院博士課程修了。東京工業大、江戸川大を経て2008年より本学准教授。現在は教授。地理学、特に自然地理学を研究分野とし、気候変動、水資源、流域管理、土地利用、降水変動といったテーマについて、国内に限らずフィリピンなど世界各地の気候変動を調査している。