国際テロリズムに関する法的研究で
第54回安達峰一郎記念賞を受賞

危機管理学部 安藤貴世 教授

研究
2022年03月30日

安藤貴世教授が第54回安達峰一郎記念賞(2021年度)を受賞した。同賞は国際法に関する優秀な研究業績をあげた個人に授与されるもので、国際法関連では国内で最も権威ある賞である。1968年に始まり、安藤教授は歴代54人目、本学の教員としては1970年の深津栄一氏以来2人目の受賞者となった。

恩師も受賞した伝統ある憧れの賞

安達峰一郎(1869-1934)は、明治から昭和初期にかけて外交官としてベルギー大使、フランス大使などを務めた後、常設国際司法裁判所裁判官、さらには同所長として世界平和に貢献した。その偉業を伝えるとともに国際的人材を養成するため、没後に安達峰一郎記念財団が設立され、現在は公益財団法人として記念賞のほか奨学金支給などの事業を行っている。

今回受賞対象となったのは、安藤教授の著書『国際テロリズムに対する法的規制の構造──テロリズム防止関連諸条約における裁判管轄権の検討』(国際書院、2020年)である。

「歴代の受賞者には私の大学、大学院時代の指導教官である故・小寺彰先生や、同じくご指導いただいた岩澤雄司先生(現国際司法裁判所裁判官)らそうそうたる先生方のお名前があり、私にとっては伝統と栄誉ある憧れの賞でした。また、日本大学の教員となって以来約10年間にわたる研究の集大成となる本であり、それを評価していただいたことは大変光栄です。これまでご指導くださった先生方や支えてくださった方々に、このような形でご恩返しができたことを心からうれしく思っています」

と安藤教授は受賞を喜ぶ。

2021年11月、財団の創立60周年記念式典と併催された授賞式

2021年11月、財団の創立60周年記念式典と併催された授賞式

昨年11月22日に安達峰一郎記念財団・創立60周年記念の集いと併催された授賞式では、4人の選考委員による講評があったが、「一次資料を用いた各条約の起草過程の分析は圧巻」、「このような形でテロ防止関連条約を包括的に検討している研究は、おそらく内外にもないのではないか」など、高く評価する声が聞かれたという。

テロリズム防止を目的とする国際条約は、「テロリストに逃げ場を与えない」ことを理念に法的な規制を拡大させてきた。安藤教授は、その過程でテロリストに対する国際法による包囲網が張り巡らされていき、テロリズムが「諸国の共通利益を害する犯罪」から「国際法違反の犯罪」へと変容する兆しが見出されることを指摘した。

「国際テロリズムの処罰の法構造を明らかにするため、裁判管轄権規定に焦点を当て、テロ防止関連条約が作成されたプロセスを、一次資料、つまり条約作成の際の議事録などを手掛かりに検討しました。地道に一次資料を分析したことを評価していただけたのかなと思います」

同書は令和2年度・国際文化表現学会賞も受賞している。

小学生の時の経験が国際問題を研究する原点に

自身は小学生の時から世界に目を向ける環境に置かれていた

自身は小学生の時から世界に目を向ける環境に置かれていた

安藤教授が国際問題に興味を持つ最初のきっかけは小学生の頃にあった。通っていた小学校では、各学期に1回「ハイチデー」という日が決められていた。中米の国ハイチは当時世界最貧国の一つ。その日は児童全員が、持参する弁当におかずを入れずおにぎりだけにして、おかずにかかる分の金額を募金しハイチに送るというもので、この行事は今も続いているという。

「小学生の私がハイチという国があることをそれで初めて知り、地球儀を見てどこにあるのかを知り、そこでは三度の食事も十分に取ることができないんだと知るわけです。おにぎりだけのお弁当ではお腹がすくのを我慢しながら、ハイチの人々のことを考える。それが私の国際社会へのまなざしの原点ですね」

高校生の頃から、将来は国際関係に関わることを勉強したいと考え、東京大学に入学すると、教養学部国際関係論分科に進んだ。そして、3年生の時に前出の小寺教授、岩沢教授による授業を受けて国際法に強い興味を抱き、研究者を目指して大学院への進学を決めた。

「国際法が扱うテーマは多岐にわたります。国家間の紛争はもちろん、安全保障、国際犯罪、人権や難民の問題、領土・海洋の問題、国際経済や地球環境問題に至るまで、多種多様な事象が国際法によって秩序付けられています。現実の社会でさまざまな国際問題が日々発生していく中で、それらを国際法に当てはめて解決に導いていくということを、非常に面白く感じました」

大学、大学院在学中の1990年代半ばから2000年代にかけては国際刑事法が発展した時期であり、2001年には米国同時多発テロが起きている。大学院在学時には、日本政府代表の随員として、国連本部における国際刑事裁判所(ICC)の準備委員会、第1回締約国会議に参加する機会を得た。さらに、外務省において任期付き職員として3年間、実際に外交の現場に身を置いて実務を経験する機会に恵まれた。

そうした経験と恩師の導きにより、国際刑事法分野、特に国際犯罪の国際法による規制・処罰というテーマにたどりついた。研究者として国際法をより深く研究したいという思いと、教育の場で自分の研究を還元していきたいという思いが固まっていった。

国際社会を舞台に活躍する人材を育てたい

2009年に本学国際関係学部に赴任、2016年からは新設された危機管理学部に所属することになった。学生のテロリズムに対する関心は高く、ゼミ生の中には毎年少なからずテロリズム等の国際犯罪をテーマに卒論を執筆する学生がいるという。しかし危機管理学部全体としては、国際関係学部の学生に比べて世界の問題に関心があるというよりは、日本の災害や警察・消防など、身近なことに関心のある学生が比較的多いと感じてもいる。

「私の役割としてはそういった学生たちに、国際社会で起きていることも自分たちに無関係ではないことを理解してもらい、自分の住んでいる地域や国に目を向けながらも、それと併せて外にも広く目を向けるように促していく。普段の授業やゼミではそうしたことを心掛けています」

今後は国際刑事法に関する条約の保護法益の多様性や相違を研究していきたいという

今後は国際刑事法に関する条約の保護法益の多様性や相違を研究していきたいという

国際社会ではさまざまな事象が日々発生し、想定し得ないようなことも起きる。例えばサイバーテロなど一昔前までは想像できなかったことが起こっている。さらにウクライナとロシアの紛争では、強大国に国際法を守らせることの難しさもあらわになっている。国際法は、そういった国際社会の新たな事象や事件・事故などに伴って変化してきた側面もあり、これからも発展し続けると考えられる。

また、現在は新型コロナウイルス感染症が広がり、新たな「人類共通の敵」と戦っている状況にある。その社会不安に乗じてテロリストが自分たちの活動を活発化させる恐れがあるとも指摘されているという。

「結局、今現在に至るまで、国際社会は依然としてテロリズムの脅威から逃れることができていないんです。そうした中で私は、国際法がテロリズムの防止にどのような役割を果たすことができるかを考えながら研究を進めてきました。このたびこうした素晴らしい栄誉を賜ったことを励みに、今後も、国際社会の平和の実現に少しでも寄与する研究を続けるとともに、国際社会を舞台に活躍する広い視野を持った人材を育成すべく教育にも一層尽力したいと思っています」

危機管理学部
安藤貴世(あんどう・たかよ)教授 

1999年東京大学教養学部卒。2001年東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。2009年同大学院博士課程単位取得満期退学。専門分野は国際法。2006~2009年外務省アジア大洋州局北東アジア課に任期付職員として勤務。2009年から本学国際関係学部助教、同准教授を経て、2016年の開設に伴い危機管理学部教授。博士(国際関係)。法務省難民審査参与員を務める。