大学院総合社会情報研究科 保坂 敏子 教授
人間の社会活動に不可欠な言語能力。その習得を目指す言語教育*は社会を支える教育といえ、「母語教育」と母語以外の「外国語教育」に大別される。日本では母語教育は「国語」であり、「外国語教育」といえば中高の英語教育をイメージする人が多いだろう。しかし今、教育現場では母語と外国語の境界が溶けてきているという。
「グローバル化によって、日本でも外国につながりのある児童生徒が一緒に授業を受けることが当たり前になってきています。母語教育であるはずの国語(日本語)を第二言語として学ぶ児童生徒が増える中、国語教育として何をすべきか。日本語を学ぶ外国ルーツの児童生徒の母語をいかに維持させるかなど、社会の多様化に対応し、言語教育も変革が求められているのです」
*言語教育
人間活動の基盤となる言語能力の習得を目指す教育。「母語」・「第一言語」教育以外に、移動した地域で学ぶ「第二言語」教育、海外の言葉を学ぶ「外国語」教育、移民の子どもの母語維持のための「継承語」教育などがある。
大学院総合社会情報研究科 保坂敏子 教授
保坂敏子教授は、教育改善を目指す「教育工学」の見地から「日本語教育におけるメディアの活用」をテーマに研究している。その一環としてICT活用の研究と実践に取り組み、これまでeラーニング教材の開発や電子掲示板の授業活用などを行ってきた。
2020年、コロナ禍により世界一斉にオンライン授業が導入。現在保坂教授は大学院の在校生や修了生と共に、世界中の日本語教師がどのようにオンライン対応をしたのか、事例の記録と分析に取り組む。
「本研究科文化情報専攻の学生は8割以上が日本語教師。しかも通信制なので世界中に在住しており、多様な国・地域から日本語教育に特化したオンライン授業に関するデータを収集できました」
言語を学ぶ上で、その背景にある文化を理解することは不可欠だ。しかし何を日本文化と捉えるかは人によって異なり、定型はないことを保坂教授は研究で明らかにした。
つまり「日本文化とはこうだ」と教員が一方的に教えるのは適切ではなく、多様性を踏まえた学びの場をいかに創り出すかが重要となる。
そこで提唱するのが「文化翻訳」に基づく対話型の授業だ。例えば、日本の映画やドラマなどから解釈したことを相互交流させる。対話を通して、学習者は対象世界、自己、他者と向き合い、新たな気付きを得ながら相互理解を深めていくという。
「言葉を使って相互理解を探る。それこそが言語教育の目指すところです」
大学院総合社会情報研究科
保坂 敏子(ほさか・としこ)教授
1982年西南学院大文学部卒。91年国際基督教大大学院教育学研究科博士前期課程修了。慶応義塾大日本語・日本文化教育センター非常勤講師などを経て、2004年本学総合科学研究所助教授。14年から現職。福岡県出身。